上 下
8 / 39

第七話

しおりを挟む

トマスが心配そうに私を見ている。
「トマス、どうした?」
「リチャード様、いえ、陛下」
「リチャードで良いぞ。
まだ戴冠式も済んでいないし第二王子のままのはずだから。
それに王子かどうかもわからないし」
「リチャード様、メイ様はどこにいってしまわれたのでしょうか。探さなくてもいいのでしょうか」
「私も同じことを母であるローレンツ女王に聞いたのだが、いずれ戻ってくるとだけ言われたよ」
「前にもそういうことがあったのか?
トマスは、兄であるメイに侍従としてよく世話をしていたのか?」
童顔だがキリっとしている顔のトマスは顔を赤らめてしばらく立ち尽くしていたが、周りを見て城の奥で誰もいないような柱のそばに私を案内した。
やはり、顔立ちはトマスの従妹のルシアによく似ている。トマスがもし女性なら強さと可憐さが同居した顔立ちなので美女と言われただろう。
「リチャード様、メイ様の侍従としてお仕えしておりました。
本当に良くしてくださいました」

トマスは更に話を続けた。
「メイ様のお城の書庫にもお供しましたし、この城の先のアーカート山にもお供しました。
メイ様はアーカート山にしばしば行かれておりました。
アーカート山はこの城から歩いて登れません。途中で両方が断崖になってその真ん中に川がアーカート城とアーカート山を隔てているのでございます。
いつも山に登るときは、海岸の砂浜沿いを教会の方に向けて船で回っていくのです。
教会を過ぎて更に砂浜沿いに船を走らせると急な川があり、そこの船で川を上がっていくのです。
しばらく船で川を上っていくと山側の断崖に祠がある岩山があり、その岩山の祠に鉄の柵で覆われた穴がありました。
船を出すときにはアームに頼んでいました。アームは船を操る天才でしたから」
「アーカート山には何がある?」
「わかりません。穴の中はダンジョンになっていているとメイ様はおっしゃっておりました。
私とアームを祠で待たせて、メイ様だけ穴のダンジョンの中を入って行かれておりました。
ダンジョンの穴は鉄の柵で閉じられているのですがメイ様が祠のどこかを押すと鉄の柵が空いたのです。
メイ様はこの中のダンジョンの先がアーカート山頂に繋がっているはずだとおっしゃっておりました。怖いので私はそのダンジョンの中に入ったことがありません。
「メイと何か話していたのか」
「メイ様は他の誰にも他言無用とおっしゃってから、『赤い龍の紋章が刻印されたムラマサの剣、赤い太陽光が輝く奇跡のペンダント、凄まじい温度変化を引き起こす赤い月がある龍の駒に囲まれたティアラを見つけないといけない』と。
『このアーカート山にヒントがある』とおっしゃっておりました」
「アーカート山か」
「リチャード様、それからメイ様は太陽の子である女性を探さなくてはいけないとおっしゃっておりました」

(兄であるメイも、古文書のとおりは全部できないと言っていた。
しかし3つの神器は見つけようとしていたし太陽の子である女性も探していたようだ。何故古文書のとおり全部できないといったのか?)

トマスの顔はますます赤くなり、黙ってしましった。
やがて意を決したように私に告白した。
「リチャード様、メイ様は私を可愛がってくださいました。
それに私が森の中のクスノキの根元でうたた寝をしていると、そっと私の頬にキスをしてくださいました」

油断していた私は衝撃的な言葉に腰を抜かしそうになった。
(メイは女性ではなく、私の目の前にいるトマスのような男性に興味があったのか。
だから、太陽の子を見つけても夫婦になる気が無いから、古文書のミッションは全部できないと言っていたのか)

「トマス、そうなのか」
「あっ、いえ、メイ様はそういう嗜好では今まで無かったと思います。メイ様が心配ですし私だけではなく従妹のルシアもメイ様の行方を大変気にしています」
「トマス、私の直観なので確証はないのだが、3つの神器と太陽の子を探していると兄であるメイも見つかるのではないかと思う。
だから、ローレンツ女王のいうとおり、3つの神器を探しに行こうと思う。

「リチャード王子」
精悍な従卒長であるアームの声がする。
「トマス、また後で話をしよう」
アームに私は近づいて行った。
後ろにはルシアの姿も見える。
「どうした」
「先日ベクターの軍団を追い払ったとき、リチャード王子が見つけた女性ですが、あのあと砂浜でクレリゴス教会のタキ司祭がやってきて、この教会の修道女だと言ってそのまま連れ去って行かれたのです。」
「それで?」
「私の部下がクレリゴス教会の修道女と従兄妹なのです。
その名をエミリというのですが、エミリが言うにはリチャード様が砂浜で見つけた女性は、あれ以来クレリゴス教会で昏々と眠り続けていたらしいのですが、今朝、ハヤト、ハヤトと言っていたらしいのです。私もエミリのことはよく知っていますが嘘をつくような女性ではありません。
少し気になりましたので、お耳に入れたほうがいいと思いまして。
メイドたちがリチャード様を砂浜で最初に発見した時、リチャード様は
『私はリチャードなのか?
ハヤトではないのか』
とおっしゃったとか。」

先程のトマスの告白をはるかに超えた衝撃が来た。
マリナ、マリナは無事なのか、教会にいるのか。
「アーム、すぐにクレリゴス教会に行くぞ。先導せよ」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

あまたある産声の中で‼~『氏名・使命』を奪われた最凶の男は、過去を追い求めない~

最十 レイ
ファンタジー
「お前の『氏名・使命』を貰う」 力を得た代償に己の名前とすべき事を奪われ、転生を果たした名も無き男。 自分は誰なのか? 自分のすべき事は何だったのか? 苦悩する……なんて事はなく、忘れているのをいいことに持前のポジティブさと破天荒さと卑怯さで、時に楽しく、時に女の子にちょっかいをだしながら、思いのまま生きようとする。 そんな性格だから、ちょっと女の子に騙されたり、ちょっと監獄に送られたり、脱獄しようとしてまた捕まったり、挙句の果てに死刑にされそうになったり⁈ 身体は変形と再生を繰り返し、死さえも失った男は、生まれ持った拳でシリアスをぶっ飛ばし、己が信念のもとにキメるところはきっちりキメて突き進む。 そんな『自由』でなければ勝ち取れない、名も無き男の生き様が今始まる! ※この作品はカクヨムでも投稿中です。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

やくもあやかし物語

武者走走九郎or大橋むつお
ファンタジー
やくもが越してきたのは、お母さんの実家。お父さんは居ないけど、そこの事情は察してください。 お母さんの実家も周囲の家も百坪はあろうかというお屋敷が多い。 家は一丁目で、通う中学校は三丁目。途中の二丁目には百メートルほどの坂道が合って、下っていくと二百メートルほどの遠回りになる。 途中のお屋敷の庭を通してもらえれば近道になるんだけど、人もお屋敷も苦手なやくもは坂道を遠回りしていくしかないんだけどね……。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...