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第三十三話
しおりを挟む美都留をレクサスNXで山水園亭に送り込んだ後、吉川が山口県警に戻ると鈴木刑事が待っていた。
「吉川さん、川田が勤めていた不動産会社から顧客リストが届きました。結構な数があります」
「ありがとうございます。
赤龍戦の関係者の名前が無いか探してみます」
「私もやりますよ。本部長から塚本さんの事件に関係する可能性が高いと言われていますから。
赤龍戦関係者だけではなく川田の逮捕歴に関係ありそうな人物もピックアップしますね」
お昼前に顧客のリストアップが完了した。
赤龍戦に関係する人物の苗字か名前が一致している人物や川田と関係していそうな人物は多くなかった。
鈴木刑事がリストの最後に名前を追加した。
「それから川田を昔、三宮の飲み屋に連れて行った顧客は夏山 明という人です」
・林田桜里瑛
・呉 一三
・井口 ひろ子
・桂 美京
・夏山 明
「林田桜里瑛は、川田の勤務している不動産会社とつながりがあったのか」
吉川は天井を見上げた。
「吉川さん、呉一三という人は加藤宗因引退棋士と名前は同じですが、それ以外はわかりません」
「井口ひろ子というのは川田の性犯罪の被害者ですか」
「そのようですね。本籍と生年月日は一致しています」
「井口さんはSNSではなく川田と不動産会社で知り合ったのですね。そして騙され犯罪の被害者になったのですか」
「犯行の動機にはなりますね」
「ただ塚本が殺された夜の前後はずっと北海道に旅行していたようです」
「桂 美京というのは?」
「いや、知らないです。川田の犯罪被害者には名前が無いです」
「桂編成部長と同じ苗字だが、彼と関係があるのかどうか」
吉川は桂という漢字に注目した。ホテルで殺された川田のベッドに転がっていたのは桂馬の駒。
美都留もくどい程、桂馬 桂馬といっていたよな。
川田は、ダイイングメッセージで桂と知らせたかったのか。
山口県警本部長にもリストアップした名前を報告し、その人達のことをさらに不動産会社に記載のあった電話番号で照会し県警の記録を調べることとした。
数時間後、吉川は再び鈴木刑事と顔を合わせた。
「吉川さん、呉一三ですが、不動産会社の記録によりますと15年前に韓国に戻るということで、日本の不動産の契約は解除したどうです。
その後日本への入国記録もありません。
海外に居るとなると今回の犯罪とは関係なさそうですね。」
「わかりました。
こちらの情報ですが、兵庫県警に林田と川田の接点を再度聞いたのですが、先日依頼があった三宮の飲み屋、スナックでしたが、そこで川田が同郷で知り合ったスナックの女性が林田桜里瑛だったようです。店のママさんの証言が取れました。
林田は当時21歳で2007年頃からそのスナックに勤めだし、2014年頃に山口から二人客としてやってきて、そのうちの一人の川田と林田は一時付き合っていたと話しています。その時に川田から不動産を紹介してもらったことがあるようです。
ママさんは、林田は性癖が合っているので体の関係は相性がいいが、金に汚いし女癖も悪いので別れたいが、性癖について脅されていると言っていたそうです」
「その頃から川田は素行が良くなかったようですね」
「川田と来た山口の客は、山口県で2か所将棋の道場を経営しているが、神戸に新規展開したいので三宮で良い所を見に来たと言っていたようです。
丁度そのとき、有名な将棋の棋士も偶然スナックに来ていてその山口の客を知っていたので、盛り上がりよく覚えていると言っていました。
山口の客の名刺には『山口県将棋連盟支部 将棋指導員 夏山 明』と書いてあったそうです」
「先日聞き込みに行った将棋道場の夏山明ですね。もう一回聞き込みに行きましょう。
それから桂美京ですが、2006年に死亡しています。
死亡の詳しい状況については照会中で、もう少ししたら連絡があると思います」
「鈴木さん、そんなに前に死亡していたとしたら今回の事件の犯人にはなれませんね」
「吉川さん、桂美京の死亡届の写しが届きました」
2007年12月に下関市で死亡届が出されていた。
死亡届に添付していた死亡診断書兼死体検案書には、死因は心筋梗塞、死亡した場所、記載した医師の名前等が記載されていた。
死亡届を出した名前を見て吉川は何度も確認した。
『桂の死亡届人は、大内義長』
別荘で殺された大内が手に持っていたのは桂馬の駒。
大内は、ダイイングメッセージで桂と知らせたかったのか。
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