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第二話
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吉川は非番モードから一気に刑事のモードに切り替わった。
「兵庫県警の吉川です。
本部に連絡しますので現場は触れないようお願いします」
外からは消防車のサイレンの音に続いて救急車とパトカーの音も聞こえてくる。
吉川は現場保全をしていると、34階には消防士に続いて警官や鑑識が到着した。
吉川の後ろからツインテールで瞳の大きな三島が目を輝かせていた。
「焼死体ね。ベッドに将棋の駒と林田さんの扇子もある。
将棋の駒は桂馬よ。
犯人を示すダイイングメッセージかもしれないわ」
「部外者は近づかないように」
そこから離れようとしない見習い女流棋士の三島の手を取って、吉川は34階からホテルの1階ロビーまで手を引いて避難誘導した。
一階ホテルロビーでフロント責任者が吉川のもとにやってきた。
「吉川様、いつもお世話になっております」
「この女性は上の階の火災に巻きこまれそうになったのでここまで避難誘導してきたのです」
「私どもの責任でございますので後は対応させていただきます」
ツインテールの瞳の大きな見習い美少女は割り込んできた。
「へえ。一介の刑事にしては、一流ホテルの責任者と知り合いなの」
フロント責任者が吉川の顔を窺いながら、三島に言った。
「吉川様は山口でも戦国時代の大名から続きます由緒ある名家の御曹司様でございまして、私どものホテルも西日本で大変お世話に」
途中で吉川はフロント責任者の言葉を遮ると、三島に向って言った。
「君の連絡先をそこに記入してもらえるかな。明日色々と関係者に聞かないといけないので」
ホテルのフロント責任者が吉川にお辞儀をした。
「大変失礼しました。吉川様、あとはわたくしどもにお任せください。
吉川様のお知合い様でございますので、責任を持ってご案内をさせていただきます。ご安心いただければと思います」
「いや。知り合いでは。
痛い」
吉川の靴先をホテルのフロント責任者にわからないように三島は踏んづけて言った。
「ホテルの方、吉川の知り合いです。よろしく」
一階ロビーで、フロントから離れると兵庫県警の同僚の若い刑事が話しかけてきた。
「吉川さん。将棋の関係者から聞いたのですが、赤龍戦で対局して優勝者した林田女流棋士がどこにも見当たらないらしいです。
オーハシポートホテルから消失したかのようだと」
横からツインテールの瞳の大きい女性がまた目を輝かせて割り込んできた。
「ホテル不可能消失事件ね。きっとホテルのあらゆる出入り口には林田初段の姿は無いはずよ。そうでないと不可能消失事件にならないし。
林田さん以外に消えた人物はいないの。
桂馬の駒が落ちていたあの黒焦げ殺人死体と関係があるかもよ。
桂馬のダイイングメッセージの意味を考えないと。
桂馬が重要なのよ。きっと」
吉川は、三島に諭すように言った。
「まだ、事件と決まったわけではない。
話は明日ゆっくり聞くから捜査の邪魔しないこと」
桂馬と言われて、吉川は今朝のことを思い出した。
対局が楽しみで今朝は予定より早くホテルのロビーに来ていた。
貸し切りの最上階の35階対局室やその下の控室には、本日は関係者以外入ることができない。
小声の主である豊満な体の塚本社長が同じように朝早くからロビーにいたのを記憶している。
確か朝早く、ホテルのエレベータの前で塚本社長が、服装がだらしなさそうな男に声をかけられていたことを思い出した。
男は右手に将棋の駒の桂馬を持っていたので将棋の関係者かなと思ったが、あの35階のフロア近くにはその男の姿は無かったはず。
「じゃ。明日兵庫県警ね」
ツインテールをなびかせて少し大人びた表情の美少女は吉川の元を去って行き、フロント責任者に何か話をしているようだった。
どこかで会ったことがあったかな。あのツインテールと。
「兵庫県警の吉川です。
本部に連絡しますので現場は触れないようお願いします」
外からは消防車のサイレンの音に続いて救急車とパトカーの音も聞こえてくる。
吉川は現場保全をしていると、34階には消防士に続いて警官や鑑識が到着した。
吉川の後ろからツインテールで瞳の大きな三島が目を輝かせていた。
「焼死体ね。ベッドに将棋の駒と林田さんの扇子もある。
将棋の駒は桂馬よ。
犯人を示すダイイングメッセージかもしれないわ」
「部外者は近づかないように」
そこから離れようとしない見習い女流棋士の三島の手を取って、吉川は34階からホテルの1階ロビーまで手を引いて避難誘導した。
一階ホテルロビーでフロント責任者が吉川のもとにやってきた。
「吉川様、いつもお世話になっております」
「この女性は上の階の火災に巻きこまれそうになったのでここまで避難誘導してきたのです」
「私どもの責任でございますので後は対応させていただきます」
ツインテールの瞳の大きな見習い美少女は割り込んできた。
「へえ。一介の刑事にしては、一流ホテルの責任者と知り合いなの」
フロント責任者が吉川の顔を窺いながら、三島に言った。
「吉川様は山口でも戦国時代の大名から続きます由緒ある名家の御曹司様でございまして、私どものホテルも西日本で大変お世話に」
途中で吉川はフロント責任者の言葉を遮ると、三島に向って言った。
「君の連絡先をそこに記入してもらえるかな。明日色々と関係者に聞かないといけないので」
ホテルのフロント責任者が吉川にお辞儀をした。
「大変失礼しました。吉川様、あとはわたくしどもにお任せください。
吉川様のお知合い様でございますので、責任を持ってご案内をさせていただきます。ご安心いただければと思います」
「いや。知り合いでは。
痛い」
吉川の靴先をホテルのフロント責任者にわからないように三島は踏んづけて言った。
「ホテルの方、吉川の知り合いです。よろしく」
一階ロビーで、フロントから離れると兵庫県警の同僚の若い刑事が話しかけてきた。
「吉川さん。将棋の関係者から聞いたのですが、赤龍戦で対局して優勝者した林田女流棋士がどこにも見当たらないらしいです。
オーハシポートホテルから消失したかのようだと」
横からツインテールの瞳の大きい女性がまた目を輝かせて割り込んできた。
「ホテル不可能消失事件ね。きっとホテルのあらゆる出入り口には林田初段の姿は無いはずよ。そうでないと不可能消失事件にならないし。
林田さん以外に消えた人物はいないの。
桂馬の駒が落ちていたあの黒焦げ殺人死体と関係があるかもよ。
桂馬のダイイングメッセージの意味を考えないと。
桂馬が重要なのよ。きっと」
吉川は、三島に諭すように言った。
「まだ、事件と決まったわけではない。
話は明日ゆっくり聞くから捜査の邪魔しないこと」
桂馬と言われて、吉川は今朝のことを思い出した。
対局が楽しみで今朝は予定より早くホテルのロビーに来ていた。
貸し切りの最上階の35階対局室やその下の控室には、本日は関係者以外入ることができない。
小声の主である豊満な体の塚本社長が同じように朝早くからロビーにいたのを記憶している。
確か朝早く、ホテルのエレベータの前で塚本社長が、服装がだらしなさそうな男に声をかけられていたことを思い出した。
男は右手に将棋の駒の桂馬を持っていたので将棋の関係者かなと思ったが、あの35階のフロア近くにはその男の姿は無かったはず。
「じゃ。明日兵庫県警ね」
ツインテールをなびかせて少し大人びた表情の美少女は吉川の元を去って行き、フロント責任者に何か話をしているようだった。
どこかで会ったことがあったかな。あのツインテールと。
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