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第六十七話

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雀の鳴き声が聞こえる。
ここはどこだ。
吉川は目蓋をゆっくり開けた。天井が京都府警の仮眠室と模様が違うような気がする。
確か京都の能楽堂で人が殺されていたのを捜査して、戦国時代に転生して、やっと令和で再転生できたところでまた事件が起きて加納月の自宅を捜索したはず。
そのあと女子高生の棋士が落とし物をしたというので府警の長椅子に座った。
だんだん記憶が戻ってきた。まだ起き上がる気力は無い。
そうだ。大橋想子さんのスマホに戦国時代の二人写真があるということでそれを見ようとして手と手が触れたらスマホが光って意識を失ったのだ。
ここはどこだ。

「吉川さん、意識が戻りましたか」
医師が横に立っていたことに気づいた。
「はい。もう一人女の子はいませんでしたか」
「ここと同じ病院のこの部屋に入院していますよ。まだ眠っていますが。
仕切りカーテンがありますが隣のベッドに居ますよ」
吉川は起き上がろうとした。
「大丈夫ですか。
脳波に異常はなかったので一時的に貧血を起こしたようです。身体的には問題ありませんでしたので、昼過ぎに退院できますよ。
 隣の若い女性の方とお知合いですか。保護者とまだ連絡が取れていないのです」
「苗字が違いますが私が保護者です。彼女は大丈夫ですか」
「彼女の脳波にも身体的にも問題なかったです。今眠っているので起きて問題なければ退院できます。
支払いも吉川様でよろしいですか」
「はい。わかりました」
医師と看護師は隣のベッドで確認して病室を出て行った。
この部屋は相部屋で二人だけのようだ。

吉川は起き上がった。
すっかり記憶が戻っている。
恐る恐る隣との仕切りカーテンを開けてみた。

目の前に美少女が眠っている。宗古、いや、大橋想子さんだ。
起こすのに白雪姫の手口を使うのか。
いやそれは犯罪だろ。
令和では十五歳だからな。十五歳でなくても犯罪だろ。

もう一回試してみよう。
吉川は、掛け布団から出た想子さんの手先を軽く触ってみた。
今度は、気を失わない。大丈夫だ。
女の子のまぶたが動く。
吉川は手をひっこめた。

美少女は飛び起きて、瞳の大きな眼をぱっちりあけた。
「スマホが輝いて夢を見たわ。すべて思い出した。戦国時代の記憶を。あなたは、私の許嫁早月ね」
「そうだ。吉川早月。戦国時代はそうげつという呼び名ではなくさつきだったが。」
想子は急に顔を真っ赤にして、「戦国時代であなたと夫婦になったけれど、令和では、私まだ何も経験してない」
「もう体調は大丈夫なのか」
「大丈夫よ。令和でキスもしたことが無いのに死ねないわ。
それとあれも私のところにあったわ」

二人は退院してそのまま京都府警に行った。
「事情聴取があるから二階の長椅子で待っていてくれ」
「今スマホ見たら、ツーショットの画像も戦国時代の画像も全部消えているわ。
雪月花のアプリアイコンはあるけれど何も反応しない。
それからスマホで歴史を確認したら、家康が徳川幕府で征夷大将軍、大橋宗桂が将棋の一世名人、宗古が二世名人になっているわ。
私たちの歴史どおりで変わっていない。世界は救われたんだわ」

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