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第四十八話

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夜になり、宗古と吉川は家康の部屋に行った。
家康の横には茶阿局が座っている。
「待っていたぞ。改めて礼を言う。それから茶阿局から姉妹の葛の葉の宣託も聞いた。
月の小面をどうするか決めなければなるまい。
幸い写しの小面もあるので、私が二つを保有し続けるのもどうかと思う。
本来の月の小面の力を発揮できるように使うことが望ましい。
そこで例の遠江分器稲荷神社で見つけた文書が重要になってくる」
宗古がスマホに写した文書を読み上げた。
「『江戸城大火で失われた月の能面は神の使いが導く。伏見と王子を結ぶ真ん中に月が現れる。
伏見と王子の真ん中は遠江。
月を持つ伏見の女と王子の男が合わさるとき、大晦日の夜に伏見から王子への扉が開かれる。
そして新たな王が誕生する』
という文書ですね」
「そうだ。最初の三行は浜松城で見つかった本物の月の小面の出来事を言っている。
最後の三行を読むと、本当の月の小面は伏見の女に渡すべきだと思う」
「最初の三行の江戸城大火で失われたという言葉は、浜松城とは関係が無いですね。この表現はまだ謎が残ります」
「そうだな。そこはまだ謎だ」

勝吉が部屋にやってきた。
「報告申し上げます。
火災が発生した模様です。江戸城の西の丸から離れた南の静勝軒の所から火の手が上がっております。ここ西の丸は安全ですので、家康殿、淀君の安全は確保されております」
「静勝軒は、太田道灌が作った江戸城の象徴の存在だったが、本丸を再構築するのに邪魔なので、佐倉城の土井利勝に譲る計画だったな」
勝吉は言い難そうに返答した。
「そうでございます。旧江戸城の象徴的建物でございます。
そこに月の小面の写しも保管しております。
本物のほうは、家康様の今のお部屋の金庫に保管しておりますが、写し故、今後の処置のご指示を仰ぐ間はその静勝軒に置いておりました。
静勝軒は、普段火の気は無いはずの建物ですが」
「そうだ。私が勝吉にそう指示をしたのだ。
同じ月の小面が二つ手元にあるのは問題だから、写しのほうは静勝軒にとりあえず保管しておけと言ったのだ。
勝吉、見に行くぞ、静勝軒を」
家康は勝吉にそう言うと宗古の顔を見た。
「宗古殿、江戸城の大火というのは未来のことではなく、このことかも知れんぞ」
「はい。私も見に行きます。」

茶阿局を置いて、一同は静勝軒に走って行った。
静勝軒は三階建ての櫓のような建物であるがこれ一つでお城の風格を兼ね備えた大きな楼閣のようなものだった。
二階の火の勢いが激しく、一階と三階にも火の粉が移ってきている。
静勝軒の近くには江戸城増改築のための木材などの資材が多数積まれていた。火の粉はその木材にも燃え移っている。
木材だけで優に百軒以上の家が建ちそうなくらい密集して置かれている。
資材置き場の先には湊があり多数の船が浮かんでいる。

宗古は静勝軒の一階近くでスマホを操作した。
「いや間違い。あれっ」
宗古は吉川にスマホを見せた。
「忍びの月の声がする」
吉川もスマホを聴くと確かに月の声で、小面はどこという声がする。
宗古は勝吉に向って叫んだ。
「勝吉さん、忍びの月が静勝軒の中にいます」
勝吉と家康の家来の消防隊が静勝軒の一階付近で建物の中の様子を伺っている。
宗古はスマホを操作し、風神と雷神の両方のアイコンを操作した。
急に雷鳴がして、風雨が宗古たちに襲ってきた。
資材置き場の木材の火を早く消さないと他の場所に延焼しそうだ。
宗古は、資材置き場の木材近くに走って行った。強い雨は資材置き場に横なぐりに吹き付ける。
消火隊は二手に分かれ、静勝軒と資材置き場に水を降り掛ける。
宗古はこれ以上延焼をしないように必死でスマホを資材置き場に振り向けている。

静勝軒の三階に人影が見えた。
人影の右手には月の小面が見えた。
宗古はスマホをその人影に向けた。
人影は一瞬怯んで右手から月の小面が離れた。
空中に浮かんだ月の小面はゆっくりと風に煽られ、静勝軒の二階の一番火の手が上がっている場所に吸い込まれた。
三階にいた人影は二階の屋根を伝い、見えなくなった。
勝吉が家来に指示をして静勝軒の周りを囲ったが、人影はすでに見当たらなかった。

やがて火の手は大きくなり静勝軒は火災で燃え尽くされた。
資材置き場の木材は宗古のおかげで延焼は免れたが、近くにあった木材はすべて炭化している。家百軒以上が燃えたのと同じくらいの残がいだ。
そして、燃え尽きた静勝軒に宗古と吉川も近づいた。

勝吉が宗古の近くで佇んでいる家康に報告した。
「申し訳ございません。月の小面は焼失しました。
焼け跡にかすかに残った面の残がいがここに残っております。
それから死体が一名発見されました」

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