33 / 70
第三十三話
しおりを挟む
「美女のご帰還ね」
良かった。どうやら宗古の機嫌は良いようだ。
笑っているような気がしたが、大きな瞳は笑っていない。
「聞いていたのだろう。一部始終を。何もしてないぞ」
宗桂のおっさんも起きている。
「わしは女中にする気はないぞ。さつき殿」
聞いていたのか、このおっさんも。
不思議に思わないのか。まあ自分の奥さんのほうが不思議だから何が起きても驚かないよな。
「月の小面は小那姫が持っているようね。明日の夜は、小那姫さんの部屋に行って、月の小面の在り処を聞いてから、逃げてくればいいのよ」
めずらしく宗桂のおっさんが口を挟んだ。
「堀尾吉晴殿と将棋を指したとき、一つの盤だけ、非常に駒の響きが良い盤があったような気がするぞ」
「月の小面の消失を考えてみたの。
まず、忍びの月が、女同士の情欲で小那姫を誑かして、月の小面をからくり木箱に入れさせて、それを金蔵の中に置かせた。金蔵の錠は、家康様がかけて鍵も家康様が持っていた。
次にその夜、忍びの月が金蔵の前に忍び込んで換気孔に、鉤の付いた細くて硬い金属棒を通し、からくり木箱を空けて箱の中から月の小面を取り出し、金蔵の上の換気孔に固定した。開けたからくり木箱も金属棒で戻した。
翌日、金蔵からからくり木箱を小那姫に出させて皆の目が木箱に集中していた隙に、忍びの月が金蔵に忍び込み、換気孔にあった月の小面をすばやく取って胸の中に隠した。
忍びの月は、浜松城で中が空洞の囲碁盤に月の小面を隠し、しばらくそのままにした」
ここまでは肥前名護屋城で聞いたな。
吉川は大きな瞳で話す宗古を見つめていた。
宗古はさらしを緩めて立ち上がった。
ずらし過ぎだ。見えるぞ、胸元が。
「小那姫は浜松城でその囲碁盤を女中から預かり、偶然か何かで、囲碁盤の中に月の小面があることを発見したのよ。
その頃には小那姫は、忍びの月に失恋して捨てられて、月の小面を発見したものの、忍びの月には渡さなかったはずだわ」
宗古は胸元が広がったまま話をすることに集中していた。
「ここからは私の推理よ。
小那姫は忍びの月が、囲碁盤の中にある月の小面を奪いに来ると思い、女中を通じて尾張にいたときの石山安兵衛に、中が空洞の将棋盤を作らせたのよ。
囲碁盤から将棋盤に月の小面を移し替えて自分の部屋に将棋盤を置いたのよ。さっきの部屋にあったものね。
宗桂のお父さんが浜松城で将棋の指導をしたときにはその将棋盤が使われたことがあるのかもしれないわ」
「そうなのか。良い駒音だったぞ」
宗桂のおっさんが口を挟んだ。
「それから、女中は誰かの指示で、遠江分器稲荷神社で貞が刺されたからくり車いすを石山安兵衛に作らせた。
石山安兵衛は女中が注文したからくり車いすが貞を殺したと思い、浜松城で女中を襲い、そのため大野修理に切り殺されたのよ」
俺は頷いた。
「だから石山安兵衛は、浜松城で女中を見て、狂ったかのように女中を襲い刺殺したのか。」
「結局、本物の月の小面は浜松城の小那姫の部屋の将棋盤にあるということね。以上私の推理よ」
こぶしを上げて胸元が開いたハイテンションの宗古が推理を終えた。
「明日の夜はどうしたらいいのだ」
白塗りを落とさず俺は宗古に尋ねた。
良かった。どうやら宗古の機嫌は良いようだ。
笑っているような気がしたが、大きな瞳は笑っていない。
「聞いていたのだろう。一部始終を。何もしてないぞ」
宗桂のおっさんも起きている。
「わしは女中にする気はないぞ。さつき殿」
聞いていたのか、このおっさんも。
不思議に思わないのか。まあ自分の奥さんのほうが不思議だから何が起きても驚かないよな。
「月の小面は小那姫が持っているようね。明日の夜は、小那姫さんの部屋に行って、月の小面の在り処を聞いてから、逃げてくればいいのよ」
めずらしく宗桂のおっさんが口を挟んだ。
「堀尾吉晴殿と将棋を指したとき、一つの盤だけ、非常に駒の響きが良い盤があったような気がするぞ」
「月の小面の消失を考えてみたの。
まず、忍びの月が、女同士の情欲で小那姫を誑かして、月の小面をからくり木箱に入れさせて、それを金蔵の中に置かせた。金蔵の錠は、家康様がかけて鍵も家康様が持っていた。
次にその夜、忍びの月が金蔵の前に忍び込んで換気孔に、鉤の付いた細くて硬い金属棒を通し、からくり木箱を空けて箱の中から月の小面を取り出し、金蔵の上の換気孔に固定した。開けたからくり木箱も金属棒で戻した。
翌日、金蔵からからくり木箱を小那姫に出させて皆の目が木箱に集中していた隙に、忍びの月が金蔵に忍び込み、換気孔にあった月の小面をすばやく取って胸の中に隠した。
忍びの月は、浜松城で中が空洞の囲碁盤に月の小面を隠し、しばらくそのままにした」
ここまでは肥前名護屋城で聞いたな。
吉川は大きな瞳で話す宗古を見つめていた。
宗古はさらしを緩めて立ち上がった。
ずらし過ぎだ。見えるぞ、胸元が。
「小那姫は浜松城でその囲碁盤を女中から預かり、偶然か何かで、囲碁盤の中に月の小面があることを発見したのよ。
その頃には小那姫は、忍びの月に失恋して捨てられて、月の小面を発見したものの、忍びの月には渡さなかったはずだわ」
宗古は胸元が広がったまま話をすることに集中していた。
「ここからは私の推理よ。
小那姫は忍びの月が、囲碁盤の中にある月の小面を奪いに来ると思い、女中を通じて尾張にいたときの石山安兵衛に、中が空洞の将棋盤を作らせたのよ。
囲碁盤から将棋盤に月の小面を移し替えて自分の部屋に将棋盤を置いたのよ。さっきの部屋にあったものね。
宗桂のお父さんが浜松城で将棋の指導をしたときにはその将棋盤が使われたことがあるのかもしれないわ」
「そうなのか。良い駒音だったぞ」
宗桂のおっさんが口を挟んだ。
「それから、女中は誰かの指示で、遠江分器稲荷神社で貞が刺されたからくり車いすを石山安兵衛に作らせた。
石山安兵衛は女中が注文したからくり車いすが貞を殺したと思い、浜松城で女中を襲い、そのため大野修理に切り殺されたのよ」
俺は頷いた。
「だから石山安兵衛は、浜松城で女中を見て、狂ったかのように女中を襲い刺殺したのか。」
「結局、本物の月の小面は浜松城の小那姫の部屋の将棋盤にあるということね。以上私の推理よ」
こぶしを上げて胸元が開いたハイテンションの宗古が推理を終えた。
「明日の夜はどうしたらいいのだ」
白塗りを落とさず俺は宗古に尋ねた。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。
勇者としての役割、与えられた力。
クラスメイトに協力的なお姫様。
しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。
突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。
そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。
なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ!
──王城ごと。
王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された!
そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。
何故元の世界に帰ってきてしまったのか?
そして何故か使えない魔法。
どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。
それを他所に内心あわてている生徒が一人。
それこそが磯貝章だった。
「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」
目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。
幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。
もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。
そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。
当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。
日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。
「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」
──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。
序章まで一挙公開。
翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。
序章 異世界転移【9/2〜】
一章 異世界クラセリア【9/3〜】
二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】
三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】
四章 新生活は異世界で【9/10〜】
五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】
六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】
七章 探索! 並行世界【9/19〜】
95部で第一部完とさせて貰ってます。
※9/24日まで毎日投稿されます。
※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。
おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。
勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。
ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
男女比1/100の世界で《悪男》は大海を知る
イコ
ファンタジー
男女貞操逆転世界を舞台にして。
《悪男》としてのレッテルを貼られたマクシム・ブラックウッド。
彼は己が運命を嘆きながら、処刑されてしまう。
だが、彼が次に目覚めた時。
そこは十三歳の自分だった。
処刑されたことで、自分の行いを悔い改めて、人生をやり直す。
これは、本物の《悪男》として生きる決意をして女性が多い世界で生きる男の話である。
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる