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第十七話
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宴が始まる前は、最初の挨拶と同じように大広間で一同が秀吉を待っていた。
淀君がまた大野修理に案内されて、広間に登場した。
淀君は先ほどからお色直しをしたのか更に豪華な金と銀と紫の豪華な打掛を纏っている。
あたりにフェロモンをまき散らすかのように肉感的で成熟したプロポーションで相変わらずの高貴で妖艶な雰囲気を漂わせている。妖しい香の匂いは何だろう。
大野修理と話をしている淀君は上機嫌だ。
淀君を見つめていると横の宗古に脇腹をつねられた。
「何じろじろ見ているの。横にもっとすごい女がいるのに」
秀吉が登場して、秀吉による肥前名護屋城の祝いの宴は、金春太夫の雪の小面、金剛太夫の花の小面が舞う見事な松風の演目から始まった。
松風は、神戸の須磨を舞台に、月下の汐汲みを終えた若くて美しい少女の舞を表現したものである。
そのあとには勝吉による月の小面による江口の演目は二人の太夫に劣らず演じた。
江口は、普賢菩薩の生まれ変わりである江口の君という美少女が白い象に跨り白雲に乗って空に消えていく舞であり、勝吉はそれを見事に演じていた。
雪の小面、花の小面、月の小面といずれの能面も当時の美少女を可憐に演じるための必須の能面であり、本当の月の小面を早く探さないといけないと吉川は心に刻んだ。
最後に来電が、日本一高貴な姫君の跡継ぎを脅かす不逞の輩が姫君に退治されるというストーリを題材にした斬新な舞を踊り能楽の舞台が終わった。
高貴な姫君は淀君で、不逞の輩は家康、跡継ぎはまだ生まれていない秀頼だな。吉川は来電を見つめた。
そのあと算砂と宗桂のおっさん同士の囲碁と将棋の対局があり、囲碁は算砂がかろうじて勝ち、将棋は宗桂が圧勝した。
将棋では宗桂の天守閣雁木という見たことが戦法に吉川は感心した。
秀吉も機嫌がよく宗古に話しかけた。
「そちはあのわしが駒を落として宗桂殿に勝った戦法を提案した跡継ぎか。将棋だけではなく囲碁も嗜むのか」
「はい。多少は」
「それならば、算砂殿、余興じゃ。この宗桂の後継ぎと打ってみよ」
算砂は不機嫌そうな顔だったが太閤には逆らえず、宗古と囲碁を打つことになった。
盤面は、右上で宗古の黒の小目に対し、算砂は一間高カカリに構えると、宗古は、黒の二間高バサミで応じた。算砂の顔は蒼白で唇が微かに動く。
吉川は読唇術を駆使して算砂の唇を読むと、妖しい手で見たことも無いと言っているようだった。
吉川は囲碁では初級であるがこの手を聞いたことがある。確か村正の妖刀と言われる難解中の難解な定石で破壊力抜群ながら一歩間違えると自らも傷を負う手筋だったはず。
局面は次第に宗古に有利に進んでいく。算砂の顔は蒼白のままだ。
秀吉も盤面に集中していたが、大野修理が太閤に囁く。
「そうじゃ。魅力あふれる盤面だったがつい忘れるところだった。新しい城に相応しい見事な演目であり、見事な対局だった。
まあこの囲碁は打ち掛けとして中断で良かろう。わしが預かる。
これからは無礼講で楽しめ。さあ酒じゃ。」
秀吉の言葉を合図に場の緊張が一気に和らいだ。
算砂は秀吉に救われた顔をするとさっと盤面を崩した。
大野修理が宴会の用意をしますと秀吉に断り退席をした。
「宗桂殿、太閤将棋で一局やるぞ」秀吉に呼ばれおっさんは秀吉と盤を囲った。
何回か太閤将棋をしたがいずれも秀吉の勝ち、宗桂の負けだった。
秀吉は上機嫌である。
「これは愉快だ。
太閤将棋を編み出した宗桂殿の跡継ぎは本当に天才だな。あっぱれである」
女中が宴会の酒や肴をひっきりなしに運んでいる。
算砂と月の姿は見えないが二人でお楽しみなのか。
来電も小用を足しに行ったのか宴会場にいない。
金剛太夫と金春太夫は、勝吉を呼んで酒と肴を楽しんでいる。
家康は小那姫と話をしている。
妖艶な淀君は、鎮座したまま誰かを探しているような表情だった。淀君の前には美味しそうな肴が用意されている。
宗古は大きな瞳をさらに大きく開き家康と何話をしたあと、吉川のもとに戻って耳元で囁いた。
「あとで小那姫を尋問するわよ。
家康に月の小面消失の謎が解けたと言ったの。
あとで来るように言われたから、小那姫を呼んでくださいと言っておいたわ。
さっき算砂と囲碁を打っていたら、スマホに村正の妖刀という文字が浮かんだの。だからさっきやってみたのよ」
吉川も宗古の耳元に小声で囁く。
「算砂殿と娘の月がここに居ないのが気になるな」
「来電も大野修理も居ないわ。」
「徳川家康を良く思わない者がここに居ないのか」
「淀君はここにいるけれど秀吉の側室自ら悪事を企むとは思えないから、淀君の関係者が忖度して私たちを襲ったのかも。
あの遠江の稲荷神社で見つかった文書は私たちに宛てた手紙のようなものだけれど、淀君の関係者もあの手紙の内容を知っているはずよ」
「どうやって知ったのだろう。またあの手紙のような文書を誰が何故書いたのだろう」
「それはわからないわ。伏見稲荷大社、遠江分器稲荷神社、王子稲荷神社のどこかにヒントがあるのかもしれないわ」
淀君がまた大野修理に案内されて、広間に登場した。
淀君は先ほどからお色直しをしたのか更に豪華な金と銀と紫の豪華な打掛を纏っている。
あたりにフェロモンをまき散らすかのように肉感的で成熟したプロポーションで相変わらずの高貴で妖艶な雰囲気を漂わせている。妖しい香の匂いは何だろう。
大野修理と話をしている淀君は上機嫌だ。
淀君を見つめていると横の宗古に脇腹をつねられた。
「何じろじろ見ているの。横にもっとすごい女がいるのに」
秀吉が登場して、秀吉による肥前名護屋城の祝いの宴は、金春太夫の雪の小面、金剛太夫の花の小面が舞う見事な松風の演目から始まった。
松風は、神戸の須磨を舞台に、月下の汐汲みを終えた若くて美しい少女の舞を表現したものである。
そのあとには勝吉による月の小面による江口の演目は二人の太夫に劣らず演じた。
江口は、普賢菩薩の生まれ変わりである江口の君という美少女が白い象に跨り白雲に乗って空に消えていく舞であり、勝吉はそれを見事に演じていた。
雪の小面、花の小面、月の小面といずれの能面も当時の美少女を可憐に演じるための必須の能面であり、本当の月の小面を早く探さないといけないと吉川は心に刻んだ。
最後に来電が、日本一高貴な姫君の跡継ぎを脅かす不逞の輩が姫君に退治されるというストーリを題材にした斬新な舞を踊り能楽の舞台が終わった。
高貴な姫君は淀君で、不逞の輩は家康、跡継ぎはまだ生まれていない秀頼だな。吉川は来電を見つめた。
そのあと算砂と宗桂のおっさん同士の囲碁と将棋の対局があり、囲碁は算砂がかろうじて勝ち、将棋は宗桂が圧勝した。
将棋では宗桂の天守閣雁木という見たことが戦法に吉川は感心した。
秀吉も機嫌がよく宗古に話しかけた。
「そちはあのわしが駒を落として宗桂殿に勝った戦法を提案した跡継ぎか。将棋だけではなく囲碁も嗜むのか」
「はい。多少は」
「それならば、算砂殿、余興じゃ。この宗桂の後継ぎと打ってみよ」
算砂は不機嫌そうな顔だったが太閤には逆らえず、宗古と囲碁を打つことになった。
盤面は、右上で宗古の黒の小目に対し、算砂は一間高カカリに構えると、宗古は、黒の二間高バサミで応じた。算砂の顔は蒼白で唇が微かに動く。
吉川は読唇術を駆使して算砂の唇を読むと、妖しい手で見たことも無いと言っているようだった。
吉川は囲碁では初級であるがこの手を聞いたことがある。確か村正の妖刀と言われる難解中の難解な定石で破壊力抜群ながら一歩間違えると自らも傷を負う手筋だったはず。
局面は次第に宗古に有利に進んでいく。算砂の顔は蒼白のままだ。
秀吉も盤面に集中していたが、大野修理が太閤に囁く。
「そうじゃ。魅力あふれる盤面だったがつい忘れるところだった。新しい城に相応しい見事な演目であり、見事な対局だった。
まあこの囲碁は打ち掛けとして中断で良かろう。わしが預かる。
これからは無礼講で楽しめ。さあ酒じゃ。」
秀吉の言葉を合図に場の緊張が一気に和らいだ。
算砂は秀吉に救われた顔をするとさっと盤面を崩した。
大野修理が宴会の用意をしますと秀吉に断り退席をした。
「宗桂殿、太閤将棋で一局やるぞ」秀吉に呼ばれおっさんは秀吉と盤を囲った。
何回か太閤将棋をしたがいずれも秀吉の勝ち、宗桂の負けだった。
秀吉は上機嫌である。
「これは愉快だ。
太閤将棋を編み出した宗桂殿の跡継ぎは本当に天才だな。あっぱれである」
女中が宴会の酒や肴をひっきりなしに運んでいる。
算砂と月の姿は見えないが二人でお楽しみなのか。
来電も小用を足しに行ったのか宴会場にいない。
金剛太夫と金春太夫は、勝吉を呼んで酒と肴を楽しんでいる。
家康は小那姫と話をしている。
妖艶な淀君は、鎮座したまま誰かを探しているような表情だった。淀君の前には美味しそうな肴が用意されている。
宗古は大きな瞳をさらに大きく開き家康と何話をしたあと、吉川のもとに戻って耳元で囁いた。
「あとで小那姫を尋問するわよ。
家康に月の小面消失の謎が解けたと言ったの。
あとで来るように言われたから、小那姫を呼んでくださいと言っておいたわ。
さっき算砂と囲碁を打っていたら、スマホに村正の妖刀という文字が浮かんだの。だからさっきやってみたのよ」
吉川も宗古の耳元に小声で囁く。
「算砂殿と娘の月がここに居ないのが気になるな」
「来電も大野修理も居ないわ。」
「徳川家康を良く思わない者がここに居ないのか」
「淀君はここにいるけれど秀吉の側室自ら悪事を企むとは思えないから、淀君の関係者が忖度して私たちを襲ったのかも。
あの遠江の稲荷神社で見つかった文書は私たちに宛てた手紙のようなものだけれど、淀君の関係者もあの手紙の内容を知っているはずよ」
「どうやって知ったのだろう。またあの手紙のような文書を誰が何故書いたのだろう」
「それはわからないわ。伏見稲荷大社、遠江分器稲荷神社、王子稲荷神社のどこかにヒントがあるのかもしれないわ」
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