狂気醜行

写鏡の記憶

009

　文弘はそれを手に取り、ゆっくりページをめくる。
「うわ……」
　そこには優についてのことがびっしりと書いてあった。
　その文字は確かに文弘のものだった。
「『左利きだけど、ご飯は右。文字も右。運動をするときは左。』ね……」
　一ページ目からしばらく優のこと。
　ただ真ん中を過ぎた頃から日記のようなものになっていた。
「『五月六日。いたはずのもう一人の俺は消えた。優は知らない。悲しませたくないから、俺は彼の振りをしよう。』『五月十三日。優は気づかない。そのままで良い。』『七月十三日。自分がどこの誰かわからない。俺なのか。私なのか。』か…………」
　その次は八月になっていた。
　目を覚まさなかった優が目を覚ました、と。
　そして、優は――
「――『消えたもう一人の俺の名前を呼んだ。史禍、と』」
　文弘はそこを読んだ後、頭痛がした。
　あまりにも激しい痛みで、文弘は立てなくなり、その場にしゃがむ。
「いって……」
　その痛みと共に、映像が文弘の脳内で流れた。