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写鏡の記憶
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帰宅してすぐに文弘は布団にダイブした。
――助けたかった。
文弘は愛弥のことを思い、涙を流す。
窓ガラスには鏡が映る。
鏡は心配そうに文弘を見る。
『文弘……』
「なあ、鏡さん。雪城の話が本当ならさ、俺はこの街にいるべきじゃなかったよな」
『…………』
「鏡さんは知ってるのか? 俺のこと。佐々塚先生のこと」
『知らない。だけど、忘れているだけかもしれない』
「………………」
『文弘、あのね。忘れていることには二種類あって。一つは忘れないと自分が壊れてしまうから、というもの。もう一つは忘れてはいけないことだけど忘れてしまっていること、というもの』
それでね、と鏡は言う。
『これに関しては後者なのかもしれない』
「………………」
『でも、文弘が忘れたいと願ったことではないと思う。それなら、私は覚えているはずだから。けど、私も忘れている。私たちは大切なことを、誰かによって忘れさせられているのよ』
「それって誰? もしかして、それが佐々塚先生?」
『……そう。そう考えると自然なのよ』
「なら、何で思い出させようとするんだ? 何で関わろうとする? 関わりを絶ったのは、断ったのは……向こうなんじゃないの?」
『私は人の心はわからない。でもね。もしかしたら、寂しいんじゃない?』
「寂しい?」
『私はその気持ちはわかる。相手のためを思ってやったけど、相手のためになってなくて。相手はそのことで自分から離れていって。ずっと自分一人ぼっち』
「…………」
『寂しいわよ、一人ぼっちは。私は長く生きていて。いや、死に続けていて、人と会っては別れてを繰り返して。人は私を忘れていってさ。寂しいわ。覚えているのが私だけなんて』
「だからって無関係な人を巻き込んで良いわけない」
『そうね』
「俺に用があるなら、俺にだけ話しかけてこいよ」
『そうなんだけど、それは恥ずかしいのよ。寂しいから一緒にいて、なんて』
「面倒くさいな」
『面倒くさいわよ。優くんは』
鏡はぽそっと言って、ハッとする。
『あ……れ…………?』
「鏡さん? 優くんって?」
『待って……、ごめん、文弘』
ごめんね、と鏡は窓ガラスから姿を消した。
――助けたかった。
文弘は愛弥のことを思い、涙を流す。
窓ガラスには鏡が映る。
鏡は心配そうに文弘を見る。
『文弘……』
「なあ、鏡さん。雪城の話が本当ならさ、俺はこの街にいるべきじゃなかったよな」
『…………』
「鏡さんは知ってるのか? 俺のこと。佐々塚先生のこと」
『知らない。だけど、忘れているだけかもしれない』
「………………」
『文弘、あのね。忘れていることには二種類あって。一つは忘れないと自分が壊れてしまうから、というもの。もう一つは忘れてはいけないことだけど忘れてしまっていること、というもの』
それでね、と鏡は言う。
『これに関しては後者なのかもしれない』
「………………」
『でも、文弘が忘れたいと願ったことではないと思う。それなら、私は覚えているはずだから。けど、私も忘れている。私たちは大切なことを、誰かによって忘れさせられているのよ』
「それって誰? もしかして、それが佐々塚先生?」
『……そう。そう考えると自然なのよ』
「なら、何で思い出させようとするんだ? 何で関わろうとする? 関わりを絶ったのは、断ったのは……向こうなんじゃないの?」
『私は人の心はわからない。でもね。もしかしたら、寂しいんじゃない?』
「寂しい?」
『私はその気持ちはわかる。相手のためを思ってやったけど、相手のためになってなくて。相手はそのことで自分から離れていって。ずっと自分一人ぼっち』
「…………」
『寂しいわよ、一人ぼっちは。私は長く生きていて。いや、死に続けていて、人と会っては別れてを繰り返して。人は私を忘れていってさ。寂しいわ。覚えているのが私だけなんて』
「だからって無関係な人を巻き込んで良いわけない」
『そうね』
「俺に用があるなら、俺にだけ話しかけてこいよ」
『そうなんだけど、それは恥ずかしいのよ。寂しいから一緒にいて、なんて』
「面倒くさいな」
『面倒くさいわよ。優くんは』
鏡はぽそっと言って、ハッとする。
『あ……れ…………?』
「鏡さん? 優くんって?」
『待って……、ごめん、文弘』
ごめんね、と鏡は窓ガラスから姿を消した。
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