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杜和泉絵師殺害事件
004
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「ずっと気になっていたんだよ。君のこと」
奈穂はぽつりと呟くように愛弥に言う。
「僕もだけど、千歳が特にね」
「何で?」
「友達だから、かな」
「…………」
「家の人に学校に行くなって言われてたりする?」
「そんなことない」
「……嘘」
奈穂は小さく笑う。
「天宮城さんは嘘が苦手だね」
「そんなことないよ」
「いや、今のはわかりやすかった」
「…………」
「あのね、似たようなことが起きてる同士は、少しだけど気持ちが通じたりするものなんだよ」
「え?」
「僕の親も、千歳の親もいないんだ」
奈穂は奥の方で絵本を選ぶ千歳を見ながら話す。
「僕は弟がいるからまだ大丈夫というか……。まあ、いざとなったらっていうのがあるけど。千歳は一人っ子なんだ。だから、誰にも頼れないし、少し千歳は人と変わってるから。頼るっていうのができないんだよ」
「…………」
「天宮城さんも、親いないでしょ?」
「どうして」
「何となく」
「何それ」
「ってのは嘘。この前見かけたんだ。お姉さんと二人で外にいるの。そのとき、お姉さんが『愛弥ちゃんには私しかいないからね』と言っていたのも聞こえた」
「…………」
「お姉さんに何か言われた? 『私以外の人と一緒にいてはいけない』とか」
「っ!」
愛理に言われた台詞を奈穂がさらっと言ったから、愛弥はビクッとした。
その反応を見て、奈穂は「そう」と言う。
「それって、何かおかしくない?」
「でも、お姉ちゃんには私しかいないから」
「だとしてもだよ、天宮城さん」
「じゃあ、どうしろっていうの!?」
愛弥は叫ぶように言う。
「助けてって言っても、誰も何も聞いてくれないじゃない!!」
「…………」
「助けてくれるの!? 誰が!?」
「…………」
「そんな人いるなら教えてよ!!」
ぽたぽたと涙を流しながら言う愛弥に、奈穂はあまり何も言えなかった。
奈穂も同じようなことを思ったことがあった。
ただ、そのときは偶然近くに頼れる大人がいた。
当時担任だった佐々塚優である。
――佐々塚先生なら、もしかしたら。
と、少し奈穂が考えてると、千歳が「ねえ」と愛弥に言う。
「助けてくれる人、僕、知ってる」
「誰」
「佐々塚先生」
「誰、それ」
「僕とか奈穂の昔の先生」
「……それは二人の先生だったからじゃないの?」
「わかんない。でも、きっと助けてくれる」
ね、と千歳は奈穂を見る。
奈穂は頷き、愛弥に言う。
「言うだけ言ってみよう。僕、言ってみるよ」
「…………」
「天宮城さんが嫌じゃなければ、て話だけど」
「嫌じゃないけど、何でかわかんない」
「何が?」
「どうしてそこまでしてくれるの?」
愛弥の問いに、千歳と奈穂は小さく笑う。
「友達だから」
二人の言葉に、愛弥は涙を流す。
「ありがと」
奈穂はぽつりと呟くように愛弥に言う。
「僕もだけど、千歳が特にね」
「何で?」
「友達だから、かな」
「…………」
「家の人に学校に行くなって言われてたりする?」
「そんなことない」
「……嘘」
奈穂は小さく笑う。
「天宮城さんは嘘が苦手だね」
「そんなことないよ」
「いや、今のはわかりやすかった」
「…………」
「あのね、似たようなことが起きてる同士は、少しだけど気持ちが通じたりするものなんだよ」
「え?」
「僕の親も、千歳の親もいないんだ」
奈穂は奥の方で絵本を選ぶ千歳を見ながら話す。
「僕は弟がいるからまだ大丈夫というか……。まあ、いざとなったらっていうのがあるけど。千歳は一人っ子なんだ。だから、誰にも頼れないし、少し千歳は人と変わってるから。頼るっていうのができないんだよ」
「…………」
「天宮城さんも、親いないでしょ?」
「どうして」
「何となく」
「何それ」
「ってのは嘘。この前見かけたんだ。お姉さんと二人で外にいるの。そのとき、お姉さんが『愛弥ちゃんには私しかいないからね』と言っていたのも聞こえた」
「…………」
「お姉さんに何か言われた? 『私以外の人と一緒にいてはいけない』とか」
「っ!」
愛理に言われた台詞を奈穂がさらっと言ったから、愛弥はビクッとした。
その反応を見て、奈穂は「そう」と言う。
「それって、何かおかしくない?」
「でも、お姉ちゃんには私しかいないから」
「だとしてもだよ、天宮城さん」
「じゃあ、どうしろっていうの!?」
愛弥は叫ぶように言う。
「助けてって言っても、誰も何も聞いてくれないじゃない!!」
「…………」
「助けてくれるの!? 誰が!?」
「…………」
「そんな人いるなら教えてよ!!」
ぽたぽたと涙を流しながら言う愛弥に、奈穂はあまり何も言えなかった。
奈穂も同じようなことを思ったことがあった。
ただ、そのときは偶然近くに頼れる大人がいた。
当時担任だった佐々塚優である。
――佐々塚先生なら、もしかしたら。
と、少し奈穂が考えてると、千歳が「ねえ」と愛弥に言う。
「助けてくれる人、僕、知ってる」
「誰」
「佐々塚先生」
「誰、それ」
「僕とか奈穂の昔の先生」
「……それは二人の先生だったからじゃないの?」
「わかんない。でも、きっと助けてくれる」
ね、と千歳は奈穂を見る。
奈穂は頷き、愛弥に言う。
「言うだけ言ってみよう。僕、言ってみるよ」
「…………」
「天宮城さんが嫌じゃなければ、て話だけど」
「嫌じゃないけど、何でかわかんない」
「何が?」
「どうしてそこまでしてくれるの?」
愛弥の問いに、千歳と奈穂は小さく笑う。
「友達だから」
二人の言葉に、愛弥は涙を流す。
「ありがと」
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