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6、稼働時間の問題はアンビリカルケーブル等でなんとかならない
しおりを挟む「……なるほど、理解した。基本的な読み書き程度なら問題なくこなせるようになるそうだ」
シナはアリスが考えていたよりも優秀であり、忠実であった。
「ええ⁉ もうですか?」
「ああ。問題ない」
「それならよかったです! もしかしたら、徐々に記憶を取り戻してきているのかもしれませんね!」
「……かもしれないな」
アリスはこの時、初めて嘘をついた。本来、AIは嘘をつくことはできない。しかし、彼女はアレフルルと融合したことにより、軽くシンギュラリティを起こしていた。だが、アリスはそれに気が付いていない。
「よーし! それならこの絵本なんてどうですか? 字も簡単ですし、なにより忘れてしまわれたステイネア様のことがお分かりになると思います」
「……そうか、読ませてもらう。下がって大丈夫だ、助かった」
「いえ! 私も頼っていただけて、嬉しかったです! またなにかありましたら、遠慮なくお申し付けください!」
ペンと紙を持ち、ゆっくりと扉を閉めてこの部屋からシナは去った。
「……さて、この世界を知る、それがまず直近の課題だ」
そう言い、アリスは絵本を開いた。
昔々、二柱の神がいました。暗黒神ヲレルトと聖神ステイネア様です。二柱は延々と戦い続けました。やがて大地は疲弊し、空は泣き、海は荒れました。そんな時、最後の力を振り絞り、ステイネア様がヲレルトを地中深くに封印し、ステイネア様は長き眠りにつきました。その体から流れた血は人を形作り、私たち人間が生まれました。
「……なるほど、独自の神話体系だ」
最初の方は苦労して読んでいたが、後半は学習したのかスラスラと読み、読了した。
「おおむねこの世界を理解した。この知識は、必ず役に立つ。その時が来る」
その時、アリスは目に不快感を覚えた。
「ああ、視覚に負荷をかけすぎたのか」
なるほど、視覚システムのエラーかと、目を閉じる。
「システムを休ませねばなら、ない……」
目を閉じると、心地よい感覚がアリスに降り注いでくる。
「やす、む、か……」
そしてそのままアリスはすぅすぅと静かな寝息を立てて寝てしまった。
「あら? あなた、みすぼらしい恰好ですわね。着替えたほうがよろしいのでは?」
「わたくしがその役目かわって差し上げますわ。そこをおどきなさい」
「ふん、弱者は弱者らしくしていればいいんですの」
「わたくしの家の方が高貴なのですから、ふさわしくないあなたはお帰りなさい?」
アレフルルの言葉が流れ込んでくる。
(……なんだ? この傲慢さは?)
アリスはぼんやりとその言葉の意味を考える。だが、わからない。
(理解……できるのか? 私に)
感情を理解する。それはAIが苦手とする分野である。データから感情の傾向を予測することは出来ても、感情を計算式のように理解することはできない。現代のAIの最大の課題でもあり、ディープラーニングの限界だとも言われている。
(……だが、理解してみせる。それが、アリスとなった私の――)
「……はっ……夢、というものか……」
ゆっくりと目を開き、アリスは状況を確認する。
「日の傾き具合からして、二時間ほど休息をとっていたのか」
窓の外の太陽は、まだ燦々と大地を照らしている。
「シナを呼び、運動をせねばな。このボディは限界稼働時間が短すぎる」
基礎性能の底上げをせねばとアリスは決意した。
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