161 / 245
152,背負う
しおりを挟む
「あー、もうなんだか久しぶりだぜー」
なんか知らんが半年ぐらい時間が合いたような……気のせいかな、うん、気のせい。
「私もなんかほんとに久しぶりに話す気がするんだけど」
ナナカの歌が終わり、まだ衝撃が抜け切らない俺たち。
「最近訪ねて来なかったのは、こういう理由だったのか」
納得。どんなに忙しくても、週三回のペースで俺のもとに来ていたナナカが急に来なくなったんだもの。そりゃ忙しいわな。
「おっと、もうこんな時間か」
時計を見ると夜中の九時半。色々な事があった俺たちにとっては、もうお眠の時間なのだ。
「布団は敷いてくれてるから、もう寝れるねぇ……ふにゃぁ」
「ちょいちょい、まだ寝ちゃアカンで」
明日のこととか話し合わないと。
「うえー? もう寝ようよー。眠いよー、私、つい数時間前には永遠の眠りにつくとこだったんだから」
「いやそれまじ冗談にならないから」
明日でもいいか? 作戦会議。
「大体ね、ネリアくんは……少し…………固すぎ……………」
「……梨沙?」
がくりと梨沙の頭が垂れた。
「ああー、本格的に寝ちまったか」
ダメだ。また明日だな。
「俺も眠ぃ。ふぁーあ、寝るか」
実は結構梨沙の治療で俺の血だ体液だを魔力化しているので、正直フラフラだ。
「おやすみ…………」
「…………んん……」
…………今何時だ? まだ暗いけど。
しょぼしょぼする目をこすり、MAギアで時刻を確認する。
「…………午前三時ちょいか」
なぜこんな時間に起きたのか? 俺、寝付きはいいほうなんだけどなぁ。
起きてしまったついでという事で、ふらつく体で水を飲みに行く。
「イチチ、筋肉痛かよ」
もうすっかり日常茶飯事になってしまった筋肉痛に顔をしかめつつ、乾いた喉を水で潤す。この世界の水は美味しいが、少し鉄臭い。まるで血――いや、やめとこう。水を飲むたびに、血を連想してるとかサイコパスすぎる。
「うぁー、寝直すか」
まだまだ寝足りない。もっと睡眠をよこせと、俺の脳と身体が叫んでいる。
俺は布団をかぶり、寝直――
「ん、んん、あぁ、んっ、ああ!」
…………梨沙?
急に梨沙が苦しみだした!?
「おい梨沙! どうした!?」
布団から飛び出、梨沙のもとへ行く。
「うぅ、あぁ、くっ……」
どうやら悪夢を見ているようだ。彼女の頬からじわりと脂汗がにじみ出る。苦しそうにうめきながら、彼女は熱に浮かされたように、たわごとを言い始めた。
「怖い、怖かったよ……死にたくない、生きてたいよぉ……」
すすり泣くように。或いは誰かに訴えかけるかのようにつぶやく梨沙。
……これは梨沙の本当の感情?
俺に今日一度も見せなかった感情。死に対する恐怖、生への渇望。それをすべて笑顔の下に隠し、押さえ込んでいた。
梨沙はいつも自分を偽っている。それは誰に対しても。自衛隊のみんなや、俺や、自分に。本当の梨沙が恐怖に震えていても、笑って押さえ込もうとする。何事もなかったかのように、忘却の彼方へ追いやろうとするように。布志名さんであるとき梨沙であるとき、いろいろな顔の下には、さらに深い深い梨沙がいる。
「……ひとりで抱え込んでないで、俺も頼ってくれよ……」
苦しそうな梨沙を抱きしめる。ああ、こんなに軽かったんだ。
「全部は俺じゃ背負えない。でも、半分ぐらいなら背負えるからさ、頼ってくれよ」
「……うぅ…………」
少しずつ梨沙の顔色が良くなり、強張っていた顔も穏やかになった。
「うし、これでいいか」
俺は梨沙を下ろす。そして、布団を整える。
「おやすみ。今度こそいい夢を」
俺は梨沙に聞こえていなかったとしても、自分の思いを伝えることが出来て満足だ。頼ってくれ。口にするのが難しいこの言葉を俺は梨沙に投げかけた。それは、自分に対してもいい喝が入った。頼られる、つまりは、自分が強くなければ、出来ないことだ。それを俺は初めて口にした。
口にすれば叶う。
そんな甘っちょろい、でも、力に変わる言葉を胸に俺はまた寝始めた。
なんか知らんが半年ぐらい時間が合いたような……気のせいかな、うん、気のせい。
「私もなんかほんとに久しぶりに話す気がするんだけど」
ナナカの歌が終わり、まだ衝撃が抜け切らない俺たち。
「最近訪ねて来なかったのは、こういう理由だったのか」
納得。どんなに忙しくても、週三回のペースで俺のもとに来ていたナナカが急に来なくなったんだもの。そりゃ忙しいわな。
「おっと、もうこんな時間か」
時計を見ると夜中の九時半。色々な事があった俺たちにとっては、もうお眠の時間なのだ。
「布団は敷いてくれてるから、もう寝れるねぇ……ふにゃぁ」
「ちょいちょい、まだ寝ちゃアカンで」
明日のこととか話し合わないと。
「うえー? もう寝ようよー。眠いよー、私、つい数時間前には永遠の眠りにつくとこだったんだから」
「いやそれまじ冗談にならないから」
明日でもいいか? 作戦会議。
「大体ね、ネリアくんは……少し…………固すぎ……………」
「……梨沙?」
がくりと梨沙の頭が垂れた。
「ああー、本格的に寝ちまったか」
ダメだ。また明日だな。
「俺も眠ぃ。ふぁーあ、寝るか」
実は結構梨沙の治療で俺の血だ体液だを魔力化しているので、正直フラフラだ。
「おやすみ…………」
「…………んん……」
…………今何時だ? まだ暗いけど。
しょぼしょぼする目をこすり、MAギアで時刻を確認する。
「…………午前三時ちょいか」
なぜこんな時間に起きたのか? 俺、寝付きはいいほうなんだけどなぁ。
起きてしまったついでという事で、ふらつく体で水を飲みに行く。
「イチチ、筋肉痛かよ」
もうすっかり日常茶飯事になってしまった筋肉痛に顔をしかめつつ、乾いた喉を水で潤す。この世界の水は美味しいが、少し鉄臭い。まるで血――いや、やめとこう。水を飲むたびに、血を連想してるとかサイコパスすぎる。
「うぁー、寝直すか」
まだまだ寝足りない。もっと睡眠をよこせと、俺の脳と身体が叫んでいる。
俺は布団をかぶり、寝直――
「ん、んん、あぁ、んっ、ああ!」
…………梨沙?
急に梨沙が苦しみだした!?
「おい梨沙! どうした!?」
布団から飛び出、梨沙のもとへ行く。
「うぅ、あぁ、くっ……」
どうやら悪夢を見ているようだ。彼女の頬からじわりと脂汗がにじみ出る。苦しそうにうめきながら、彼女は熱に浮かされたように、たわごとを言い始めた。
「怖い、怖かったよ……死にたくない、生きてたいよぉ……」
すすり泣くように。或いは誰かに訴えかけるかのようにつぶやく梨沙。
……これは梨沙の本当の感情?
俺に今日一度も見せなかった感情。死に対する恐怖、生への渇望。それをすべて笑顔の下に隠し、押さえ込んでいた。
梨沙はいつも自分を偽っている。それは誰に対しても。自衛隊のみんなや、俺や、自分に。本当の梨沙が恐怖に震えていても、笑って押さえ込もうとする。何事もなかったかのように、忘却の彼方へ追いやろうとするように。布志名さんであるとき梨沙であるとき、いろいろな顔の下には、さらに深い深い梨沙がいる。
「……ひとりで抱え込んでないで、俺も頼ってくれよ……」
苦しそうな梨沙を抱きしめる。ああ、こんなに軽かったんだ。
「全部は俺じゃ背負えない。でも、半分ぐらいなら背負えるからさ、頼ってくれよ」
「……うぅ…………」
少しずつ梨沙の顔色が良くなり、強張っていた顔も穏やかになった。
「うし、これでいいか」
俺は梨沙を下ろす。そして、布団を整える。
「おやすみ。今度こそいい夢を」
俺は梨沙に聞こえていなかったとしても、自分の思いを伝えることが出来て満足だ。頼ってくれ。口にするのが難しいこの言葉を俺は梨沙に投げかけた。それは、自分に対してもいい喝が入った。頼られる、つまりは、自分が強くなければ、出来ないことだ。それを俺は初めて口にした。
口にすれば叶う。
そんな甘っちょろい、でも、力に変わる言葉を胸に俺はまた寝始めた。
0
お気に入りに追加
350
あなたにおすすめの小説
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!
七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ボディガードはオジサン
しょうわな人
ファンタジー
鴉武史(からすたけふみ)40歳。
最近異世界から地球の日本に戻って来ました。
15歳で異世界に拉致されて、何とかかんとか異世界を救った。25年もかかったけど。
で、もう異世界で生涯を終えるものと思っていたら、用事は終わったから帰ってねって地球に送り返された……
帰ると両親共に既に亡く、辛うじて誰も手を入れてない実家は元のままあった。で、名義がどうなってるのか調べたらそのまま自分の名義で固定されていた。どうやら同級生たちが鴉はいつか帰ってくるって言って、頑張ってくれてたらしい……
持つべきものは友だと涙した……
けれどもコッチで生きていくのには色々と面倒な事がある……
相談出来る相手は一人しか思いつかない……
アイツに相談しよう!
✱導入部分が少し長いかもです。
カクヨムからの転載です。転載に際して改稿しております。カクヨム版とは少し趣が違う風になってる筈……
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる