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127,木ノ島さん
しおりを挟む「開店三十分前でーす」
「はいよー」
あっという間に三十分過ぎた。私の仕事は厨房じゃないのにぃ……。
「おーっす、大変なんだってな。ヘルプきたぞー」
「き、木ノ島さん! わざわざありがとうございます!」
ヒロくんが汗だくの顔をハンカチで拭いつつ、木ノ島さんをむかえる。
木ノ島さんは我々の世界でおなじみの金髪。少し悪そうな目つきに、レザーの手袋をしていますね。これはきっと、バイクで来たのでしょう。
「長田が寝込んでる? ああ、確かに昨日顔色悪そうだったしな」
ちゃっちゃと服を着替えて戻ってきた木ノ島さんは私を一瞥する。
「で、この子はだれだ? もしかしてギャルゲの主人公の新しい攻略ヒロイ――」
「新しいバイトの子です! 僕とは今日、初めて会いました!」
「初めてでもうお前のハーレム入りか?」
「違いますってば!」
肩を怒らせ怒鳴り声を上げるヒロくん。どうやらこの木ノ島という男、ヒロくんをからかうのが好きなようですね。
「わりーわりー、冗談だよ、冗談」
さ、仕事仕事とフライパンを取り出した。
「七香さん、もう行って大丈夫だよ、木ノ島さん来たし、高木くんもいるから」
「そうだぞー、なによりコイツといると、攻略ヒロインの仲間入りだぞー?」
「あ、その点はノープロブレムです。私にはご主人がいるので」
「ははははっ! なかなか面白い子だな。じゃ、がんばれよー」
木ノ島さんは豪快に笑って自分の仕事に戻っていった。
「ふあぁぁ……」
開店十五分前、厨房での忙しさのせいで、体力の半分、持って行かれましたよ……。
「災難だったね」
スタッフルームで休んでいた私にあやかちゃんがお茶を持ってきてくれた。
「ありがとう……」
やっぱり慣れないことはするもんじゃないね。
「大丈夫? やっぱり今日はやめとく?」
私の疲れた顔を見てあやかちゃんは心配そうにこう提案してくれた。
「できる! 初日からバテていられないもの!」
なによりご主人をギャフンと言わせるメイドスキルを身につけるんだから!
「もー、がんばりやさん」
なんて言いながらあやかちゃんの顔は嬉しそうだ。
「じゃ、もうそろそろ行こっか。ご主人様が外で待っているからね」
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