上 下
226 / 245

208,もう一泊いきましょう!

しおりを挟む
208,もう一泊いきましょう!


「……あれ? 本当にここだった?」
 俺たちはナナカに日本に戻してもらったのだが、あの酷い戦闘痕が見当たらない。地面が陥没してないし、木とかも元通り……
「おお、梨沙殿のご友人のネリア殿!」
 そのとき、一人の人間がガサガサと奥の茂みから出てきた。
「はあ、こんにちは、いや、こんばんはだな。……じゃなくて、あの、どうして俺のことをご存知なのですか?」
 彼は細長い目をしていて、スーツを着ている。……若い、二十代前半か?
「ああ、失礼。私、稲荷の集の一人でございます。この通り」
 くるりと一回転し、狐の姿に戻った。
「ああ! あのときの。それはそれは本当にお世話になりました」
 実際、彼らの手助けナシでは戦局はもっと厳しかっただろう。
「いえいえ、それで、梨沙殿のご容態は……」
「大丈夫です。今は魔書館……安全なところで、治療が済んでいます」
「そうでしたか、それは良かったです」
「それはそうとして、あの、ここってあのときの場所であってますよね? にしては、あんなに穴だらけの地面とか何だとかがないので」
「あっていますよ。我々稲荷の集が修繕しておきましたので。それと、結界の修復も完了仕切っております。これで今後二百年は安泰でしょう」
「はー、何から何までありがとうございます。本当に助かります」
「いえいえ。元来、我々があの穢れし者共を祓うべきでしたが、強大な力に太刀打ちし切ることが出来ず……このようなお役目を果たしていただき、我々共々本当に感謝しております」
「いやいや! ほとんどは梨沙の手柄なんで! 俺はただ手伝いをしただけなんで!」
「違いますよご主人様! ご主人様もまさに獅子奮迅の戦いっぷりでした!」
「そうですぞ、あまりご謙遜しなさるな。お若いのに、そこまで澄み切ったオーラをお出しして。何なら、我々神々にも近い何かを感じます」
「え? そうなんですか?」 
 ……わかった! カグツチのことだ!
「あー、そういえば一応、神様と契約はしてはいるんですよ……」
「なんと! 道理でそんな神威を纏っているわけだ……」
 納得したようにウンウンとうなずく狐さん。
「いやぁ、お話できて楽しかったですネリア殿。近々また、稲荷の集から感謝の品を贈らせていただきます」
 それでは! と狐さんはまたガサガサと茂みに戻っていってしまった。
「……さて、これからどうするべきか」
「そーですねぇ……」
 ポン、と俺達よりも遅れてナナカが出てきた。
「とりあえず、宿に戻るべきでは?」
「「…………あ」」






「いえいえ、大丈夫ですよー。急なお仕事だったのでしょう?」
「ええ、まあ……申し訳ない」
 この前泊まっていた旅館に戻り、そこの女将さんに事情……もちろん、詳しくは話していないが、お話した。
「遠方に旅行中にトラブルですものね、仕方がないですよ」
「そう言ってもらえると助かります……」
「お部屋は清掃を入れただけで、お荷物などはそのままでございます。それでは……」
 スーッと音もなく女将さんがふすまを閉めた。
「……ふぅ、良かったいい人で」
「そうですね。えーっと、梨沙が言うにお金は自衛隊あてにりょーしゅーしょと言うものを切る? らしいです。自衛隊の特殊案件対策班あてに」
「ああ、領収書な。俺も聞いてる。……自衛隊のみんなにも連絡しないとな」
 俺がそんなことを考えているときに、ナナカは畳の上でゴロゴロしていた。
「ごしゅじーん、いいとこ泊まってますねぇー」
 ……のんきだなコイツ。
「ちなみにですが、ここからあの基地近くまでは飛べますよー。ただ、一方通行になるので、一泊してここを堪能してからにしましょう」
「そうだな、それができるならそうして……っておい、一泊してってお前の願望だろうが」
「えー? いいじゃないですかごしゅじーん。ね? リーヴァさん」
「おいこら、リーヴァに振るんじゃない」
「……私としましては、そのぉ……もう少し滞在したいかなー、と」
「よしわかった、一泊するか」
「ご主人⁉ やっぱりこの前も思いましたけど、リーヴァさんに対して異常に甘くないですか⁉」
「うるせぇ! お前はいつも欲望丸出しなの! でも、リーヴァが自分の希望を言うなんて滅多に無いんだから」
「むー、納得はいきませんが、結果として希望が通ったので良しとしましょう……不服ではありますが!」
 ということで、一度俺は部屋を出て女将さんに梨沙から預かった好きに使っていいカードを使い、今までの部屋代を一括で払い(いなかった日数の部屋代は半額にしてくれた、ありがたい)、新たに一泊することを申し出た。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

処理中です...