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200,奥の人影

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200,奥の人影


「……お、終わった……」
 俺はその場にへたり込みたくなる衝動をぐっと我慢して、大きく息を吐きだす。
「ええ、本当によく頑張りましたね。さあ、梨沙を病室へ運び出しましょう」
 ゴム手袋を外し、ガラガラと梨沙を乗せた台(ストレッチャーというらしい)を押して、手術室を出る。
「一段落したら、ご飯にしましょうか」
「ええ、もう腹がペコペコで……」
 なんだか急に腹が減ってきた。集中していたから、気が付かなかった。
「ご主人様! 梨沙は⁉」
 バタバタとリーヴァが廊下を駆けてきた。
「大丈夫だ。手術は成功したよ。まあ、俺はほとんど何もしてないし、出来ていないけど」
「そんなことはありませんよ。ネリアさんは本当によくやってくれました」
 いやぁ、照れるぜ……!
「ああ、そういえばご飯にしようと思っていたのですが、希望はありますか?」
「ご飯! そうですね、お肉が食べたいです!」
 おお、目の輝きが凄いぞリーヴァさんや。
「わかりました、ではあと少しお待ち下さいね。梨沙を運んでしまいますので」
 楽しみにしています! と目をキラキラさせながら見送ってくれるリーヴァ。
「前の病室……ICUには入れなくて大丈夫そうですね。一般病室で大丈夫でしょう」
「それは良かった。……そういえば、ここは魔書館なんですよね。よくこんな施設がありましたよね」
 本当に本格的な施設なんだよねこれ。
「それはですね、私の妹が急遽作ってくれたのです」
「そうなんですか⁉ 急造⁉」
「はい、ネリアさん達の決着がついた後、急いでナンバーズで作ってくれたのです。まあ、当の本人はクッタクタに疲れていて、今は本になって休眠中です」
「うーむ、ありがとう妹さん」
 本当に助かった。後でお礼を言いに行かないと。
「ここです、あとはやっておきますので、着替えてきて大丈夫ですよ」
「いや、悪いですよ」
「いえいえ、ささっと終わらせてしまうので。それよりも、ナナカのもとへ行ってあげてください。そのほうが私も嬉しいのです、さあ早く!」
「え? あ、はい」
 そこまで鼻息荒く行けと言われたなら行くしか無い。
「じゃあ、お先に失礼します」
 部屋を出て、魔書館内部を歩く。
「しっかし、本当に広いよな……この本を全部ソアさんが管理してんのか……」
 下手に触ると何が起こるかわからないので、触らないが、本当に広いし、本が大量にある。……って、これ漫画じゃん、俺がおみやげ先発隊で送ったやつ。
「……あれ? 誰かいる?」 
 そのとき、本棚の並ぶ奥の方で揺らめく人の影を見た。魔書館の中は薄暗いので、顔はよくわからないが、背丈的にソアさんではなさそうだ。
「もしかして、さっき言っていた妹さんか?」
 本になって休眠しているって言っていたけど、もう復活したのかな?
「おーい、そこの人ー」
 俺は感謝の意を述べようと、遠くに見える人影に手を振る。
「ッ⁉」 
 しかし人影は俺に気がつくと、ビクッ! と肩を震わせて、本棚のさらに奥へと走って逃げてしまった。
「そうか、いきなり見知らぬ人間に声をかけられたら誰だってそうなるわな……」
 失敗失敗。まあ、あとでシーナさんを通じてお礼でも言おう。
「さて、ナナカのもとへ行きますか」

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