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15,剣
しおりを挟む「と、息巻いたのは良いが……」
家に帰って来た俺は、早速この剣を抜こうとしたのだ。しかし――
「けっ、だれが握られてやるかよ! このヴァーカ!」
この魔剣喋るんだよ! さらにとても嫌われてるし。なんで? なんかしたか俺?
「俺は雑魚に興味ナッシングなのさ!」
雑魚だと!? その通り! だからお前の力が必要なんだよ!
「まあまあ、とりあえずちょっとだけでも……」
そーっと魔剣に手を伸ばす。ゆっくりだぞ、ゆーっく――
「だれが触らせるか!」
「うあっち!」
剣から火が出た!? 慌てて手を引っ込める俺。マジあぶねぇ。
「勝手に触ろうとすんじゃねぇ! 俺は誰にも抜かせねぇからな!」
まったく取り付く島も無い。
「はぁ、しかたないから果物ナイフでもいいかな……」
「あー、そうですね。無いよりかはマシです」
ナナカも困った顔で肯定してくれた。
嗚呼、悲しき現実。せっかく強い武器があっても使えないなんて。
「あと他に必要なものは……」
俺はこの剣と戯れるのを諦め、必要なものの確認に戻った。あとは――
「やっほー!」
スパーン! 背中に物凄い衝撃が走る!
「いってぇぇぇー!」
誰かにいきなり背中を叩かれた!? こんなことするのはアイツしかいねぇ!
「何すんだフェイウ!」
俺が振り返ると、そこには見慣れた銀髪美少女――
「やほやほ、異世界に旅立つと聞いて、来ちゃったっ!」
やっぱりフェイウだった。
で、その、きゅるん、っていう感じのポーズはヤメロ。なんか無性に腹が立つ。
「ったく、それ、誰から聞いた?」
俺は師匠と両親にしか話してないはずなのに。
「ふっふーん! ガイアさんから聞いたのよ!」
「あのクソ親父……」
俺は頭を抱えた。秘密にしとけって言ったのに!
ちなみにガイアは、俺の親父のの名前ね。
「ねえ、何この剣」
フェイウがこの剣に興味を持ったらしく、まじまじと見つめる。
「ああ、この剣な。魔具なんだ。でもな、抜けねぇんだよ」
「へー」
興味津々といった感じで、徐々に剣に手を伸ばしていくフェイウ。
「あっ、馬鹿、危な」
しかし、俺の静止虚しくフェイウは剣を触った。しかも――
「えい!」
シャキーン! というような力強い音を立てて剣を鞘から抜いた。
「……へ?」
なんと、剣が抜けたのである。もう一回言おう、抜けたのである。
「わぁー、綺麗な剣」
フェイウは剣の白銀に輝く美しい刀身ににうっとりしている。これは相当な業物ですね。……じゃなくて。
「おい、クソ剣。どういうことだ?」
俺はこの事態の真相を知るべく、剣に問いかける。
なぜ抜けた?
「そら、おめぇ、きまってんだろ。この子が……美少女だからだよっ!」
当然! とでも言うように、平然と言い放つ剣。
「……そうか」
なんて不純な動機なのだろうか。こんなことで抜けるだなんて。
「わぁ、この剣喋れるの!?」
驚いて目を丸くするフェイウ。まぁ、普通はそういう反応だよな。
「そりゃ魔具だからな。しかも師匠にもらった、超強いやつだから」
「ほえー」
フェイウはもう一回剣をしげしげ見なおした。
「へっへーん、かっこいいだろオレ」
剣が猛烈にアピールを始めてきた。なんかうぜぇな。叩き折ってやりたくなってきたぞ?
「私には剣の良さはわかんないけど、剣さん。ネリアのことよろしくねっ!」
「……え? 何でオレが?」
物凄く嫌そうな声がした。なんなんだコイツは。お前の今の持ち主は一応俺だからな?
「お願い。私、物凄ーく心配なの。こんなネリアが異世界で生きて帰れると思えないの」
物凄くキラキラした目で剣を見つめるフェイウ。おいこら。さらっと毒を吐くな。俺の精神はもうボロボロです。
「う……わかった。その代わり! こんど俺の鞘を見繕ってくれ! 帰ってきてからでいいから!」
剣は見返りを求める。
「んー、いいよ!」
「やったぜ!」
剣は火の粉を散らしながら喜びを表現する。
「おい、ネリア!」
すっかり上機嫌になった剣。
「お前には握られてやる! 嬢ちゃんと今約束したからな。約束は守らなきゃ後味が悪い」
「……い、いいのか? クソ剣?」
すると剣は照れたように火の粉を少し出し――
「う、うっせい! あとオレはヴィーオだ! 今後、クソ剣って呼んだら燃やす!」
「お、おお、わかった。よろしくな、ヴィーオ」
この剣、もといヴィーオはツンデレのようだ。
「……応。あと、手入れはしっかりと頼む。ガヤエアのアホは手入れだけは真剣にやってくれたからな」
「わかったわかった。手入れの道具も用意しておくから。で、握っていい?」
「……しゃーない。少しだけだぞ」
ヴィーオの許可も下りたので、これで安心して握れるぜ!
そして俺はついにヴィーオを握る!
持ち上げると、ずしりと木刀には無い、金属特有の重厚な重みが伝わる。
「うおぉぉ、なんかこう、強くなった感じがするっ!」
高揚した気持ちはとどまるところを知らない。ぶんぶんと振り回す。
「いや、雑魚は雑魚だから。あとお前、手汗凄いんだけど」
……全力で心を折りにくるヴィーオ。俺のテンションが一気にだだ下がりですわ。
「これで武器も手に入ったので、もう大丈夫ですね!」
ナナカが安堵の表情を浮かべた。
「ああ。もう大丈夫だ」
ギリギリになってはしまったものの、これで準備は整った!
「じゃあ、そろそろ行きましょう! ご主人、家の外へ出てください!」
「はいよ。あ、フェイウ」
「んー?」
「ありがとな、助かった」
まさかこんなアプローチの仕方があるとは。おかげでヴィーオを握ることができるようになった。
「土産は期待しといてくれ!」
「ほんと? じゃあ美味しいものいっぱいおねがい!」
「任しとけ!
美味しいもの、たーんと用意しておくからな!
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