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190,神懸り

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「リーヴァー!」
 俺はヴィーオを振りかぶり、野良神に突撃する。
「ふっ、力を失ったお前ハもう取るに足りン!」
「がっ!」
 俺はさっきではなんともなかったはずの野良神の衝撃波で吹き飛ぶ。
 俺は重力に逆らわされ、先程とは違う形で空を飛ぶ。すごい不快感だ。そして、そのまま地面に激突した。
「ぐはっ……!」
 落下の衝撃で、肺から酸素がすべて吐き出された。体全体が痛みに悲鳴を上げた。
「っぅ……」
 チカチカする視界にうっとおしさを覚えつつ、野良神の方向を見る。……マズイ! ゆったりとだが、梨沙に近づいている!
「り、梨沙! 逃げろ!」
 急遽無理やり肺に酸素を取り込み、叫ぶ。でも、全然声が出ない――!
 このままだと、結界の張り直し作業中の梨沙が危ない!
「……大丈夫。こうなっちゃったなら、しょうがないよね」
 梨沙は結界の張り直し作業を止め、野良神に対峙する。
「くくク……もう、お前を守るものは何も無イ! さあ、命乞いをするがいいさ!」
「なーに言っているのかしら? 逆に私がさせたいわ。ネリアくん。先にリーちゃんのところへ」
「……わかった」
 急いで梨沙の援護に行きたいが、先にリーヴァだ! さっきの攻撃をもろに食らったリーヴァのダメージは、俺とは比べ物にならないはずだ。
「リーヴァ! 大丈夫か!?」
 急いでリーヴァに駆け寄る。
「ご、ご主人……様……」
 リーヴァは傷だらけの手で、俺の頬を撫でる。
「と、特に問題はありません……」
 リーヴァは苦しそうに微笑みながら、俺に言う。
「……そんなはずあるか! そんなボロボロの姿で!」
 リーヴァの体に特に目立った外傷は無い。しかし、右足が変な方向に曲がっている。それに、肋骨が数本折れているはずだ。呼吸のたびに、苦しそうに顔を歪ませている。
「無理するな。よく頑張ったよ」
 俺は優しくリーヴァを撫でる。
「……ぐすっ、ご、ごめんなさい、ご主人様……」
 リーヴァは手で顔を隠し、泣き始めた。
「……リーヴァはよく頑張ってくれたよ。ありがとう」
 俺はリーヴァの頭を撫でる。
「ここからは、俺も死ぬ気でやらないとな」
 魔力はすっからかん。先程の落下のダメージで内蔵が軋んでいる。でも……やらなきゃならねぇんだ。
「……ぐっ……」
 無理やり立ち上がったが、体が言うことを聞いてくれない。
「今こそ立たなきゃいけないのに、動け俺の足……!」
 がくがくと震える足を叱咤し、前へ出る。
「……ネリアくん、ここは私に任せて」
 しかし、梨沙が俺の歩みを止めた。
「え?」
「ここからは、私が全部倒すから。だから、後処理お願いね」
 梨沙は懐からある巻物を取り出した。
「今からこいつを倒して、結界を修復する。まあ、それは普通なら無理なんだけどね。でも、それぐらいしなくちゃこの局面を乗り切れないからね」
 梨沙は巻物を開いた。
「……かしこみかしこみ申す。我が願い、思いを聞き入れ給え。不浄を祓う力を。魔を討ち滅ぼすは神なり!」
 梨沙が祝詞を一言唱えるたびに、どこからか、シャンシャンと涼やかな鈴の音が聞こえてくる。
「ムぅぅぅ……! その口を塞いでやル!」
 野良神がものすごい勢いで、梨沙に飛びかかる。しかし、巻物が梨沙の周りを飛び回り、それを阻止する。
「巫女の末裔が今ここで願う! 天照坐皇大御神(あまてらすしますすめおおみかみ)よ!」
 一気に梨沙の周りに俺の家具土にも似た、温かみのある炎が燃え始めた。

「神懸り!」

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