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174,ネクストチャレンジャー梨沙
しおりを挟む……さあ、次は梨沙のターンだな。どうしてやろうか……。
「……わ、私、やっぱりやめとこうかなぁ……」
リーヴァとのやり取りを聞いていたせいか、及び腰な梨沙。
「そう? やめとく? こんな機会もう二度と無いと思うんだけどなぁ」
「うっ……」
少し悩んだ後に、梨沙は顔を赤らめて、頷いた。
「……やってちょうだい。いいわ、聞くわ! 今しか聞けないなら、聞くしか無いもの!」
……漢らしい! こういうのはなんだけど、ものすごーく漢らしい!
「じゃ、じゃあ、どうぞ?」
勢いに気圧されたクロエさんが頷く。
「え、えーっと、ネ、ネリアくんは、その……私のこと、どう思う?」
……………これまた難しい質問だなぁ。一体どう答えればいいの?
またクロエさんが俺に指示を出す。その間、俺は必死に頭を回し、回答をひねり出す。
「……どう、とは、どういうことでしょうか? 俺の梨沙に対する印象の話ですか? それとも、俺の梨沙への好意のことでしょうか?」
さすがにこの漠然とした質問へ答えるのは骨が折れる。そこで、質問を絞ろうと思う。そうすれば、もう少し答えやすくなるはずだ!
「……両方」
……へ? 両方?
「いや、少し違うかな。私が演じている『布志名 梨沙』と、本当の『布志名 梨沙』。どちらともの評価が欲しいの」
へーなるほど、二人の梨沙をジャッジしろと。……難易度がもっと上がったじゃん……。
俺は観念し、できるだけ平坦な声に、起伏のないトーンで話し始める。
「……俺から見た布志名さんは、冷静で、とても頼れる上司です。俺の仲間、麻田小隊からの信頼も厚いです」
こんな感じでいいのか?
俺はちらりと梨沙を見ると――
「……やった!」
小さくガッツポーズしていた。まんざらでも無いみたいだ。こういう感じでいいのね。
「……俺から見た梨沙は、無邪気で、純粋です。それでいて、しっかりと芯が通っている。布志名さんであるときが剛だとすると、梨沙であるときが柔です。剛であり、柔。その二つを持ち合わせた稀有な存在です」
……こんな感じか?
ヒヤヒヤしながら梨沙の反応を見る――
「……ふーん」
……間違えた? 俺、間違えた?
「じゃあ、その、『梨沙』のとき、いろいろな場所を回ったけど、どこが一番楽しかった?」
どこ、かぁ。正直どこも異世界の文化に触れることができて楽しかったし、一番は決められないかなぁ。
「どこも楽しかったです。優劣をつけるのは厳しいかと」
「そ、そう? ……つまり私と行ったとこは、全部楽しかったってことね! よしっ!」
……正解? これ、正解?
もう考えるの疲れた……。厳しい戦い……。それに、足も痺れてきた。これ以上の質問はキツい。
「じゃ、じゃあ、最後に、私のこと――」
「はーい、ここまで! 梨沙、これ以上は、催眠が解けちゃうから、ここで終わりね?」
「えー、一番いいとこだったのにぃ……。まあ、ここから先は自分で聞けってことね」
「そういうこと。あ、さっきの子が指示を欲しがってるわよ? さあ、行った行った!」
「うぅ、面倒だよう……」
などとぼやきながらため息を一つ。すると、顔がキリッとし、雰囲気が変わった。……こういうところが梨沙の凄いところだよなぁ。切り替えの早さ。俺も見習わないとな。
「布志名二尉! 実は、防犯カメラの映像の件なのですが……」
「了解。すぐに行きます」
梨沙は足早に向こうへ行ってしまった。
「……さて、ハラベスト君。もう動いていいよ。催眠にかかったフリ、お疲れ様」
「……え? わかっていたんですか?」
俺はこわばった体をゴキンゴキンと鳴らす。あー、意外と疲れたぜこれ……。
「まあね。私はこれでも一応プロだからね」
ひょうひょうと答えるクロエさん。
「じゃあなぜ、この状態のまま続けさせたんですか?」
「んー、それはね……面白そうだったから、かな?」
「……さいですか」
俺はストレッチを続けながら追加で聞いた。
「リーヴァのときも、わざとですか?」
「そうよ~。楽しめたでしょ?」
「ええ、まあ」
そりゃあまあ、楽しかったですけど……
「それならいいじゃない」
どこまでも楽しそうなクロエさん。
「本心を知る、って言うのは思っているよりも怖いものなのよ」
彼女はひとりごちにつぶやく。
「確かに、本心を知れたらいいかもしれない。その人をより深く理解できるからね。でも、本心が本心とは限らないんだよ?」
「と、言いますと?」
「……本心って言うものはね、人間の深層心理なの。つまるところ、本人が全く思ってもいないことを、勝手に言ってしまうことがあるの」
……それは恐ろしい。
「深層心理はね、複雑なのよ。例えば過去に一度、女の子にいじめられたことのある男の子がいるとするでしょ? で、その後に付き合った女の子が彼のことをもっと知りたいから、本心を見せて、と言う。彼は、もちろん彼女のことが大好きで、愛している。でも、彼に催眠をかけ、本心を言わせると、彼はこう言うの。『女なんて大っ嫌いだ!』とね」
……なるほど。本能的に刻み込まれたものは、簡単には消えないと言うことか。トラウマというやつだな。
「それを知った女の子は大泣きして破局……ってことになりそうだったから、私が頑張ってフォローしたよ? そのおかげか破局までは至らなかったけど」
……実体験だったんかい!
「女の子はわんわん大泣きするし、彼のほうは、キョトンとした顔で彼女を見たあと、私に彼女に何をしたと詰め寄ってくるし……大変だったわ……」
「そ、それはまた……」
とにかく、本心が怖いものであることはよくわかった。
「だからあのタイミングで中断させたんですか?」
「そ。まあ、催眠をかけていたわけではないから別に問題ないとは思ったんだけど、もしあの時、催眠が再度かかり直していたら怖いでしょ?」
「まあ、確かに」
「それに、ハラベスト君、君には意中のお相手がいるんでしょ?」
「…………さあ、どうでしょうね?」
「ま、別に君の恋愛を邪魔するつもりはないしね。でも、梨沙の恋が実って欲しいしなぁ……」
またぶつくさと何かをいってもどかしそうに頭をかく。
「まあ、この話は終わり! で、私はね」
ずいっ、と顔が近づく。
「君の数奇な運命に興味があるの。占わせて?」
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