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第6章 帰郷
実に絡むもう一つの運命
しおりを挟むこの世界にいる限り、自分は殺される。
当然ながら、その言葉の意味がすぐに分かるはずもない。
「……どういう意味だ。」
表情を険しくした拓也が訊ねると、実は笑みを深めて口を開いた。
「もう一つ、梨央に世界中に伝わる有名な昔話をしようか。―――〝遥か昔、この国が生まれるよりもさらに昔の話。ある国に一人の若き王がいた。〟」
語り出されるワンフレーズ。
それを聞いただけで、拓也の顔色が豹変した。
「王は民思いで思慮深く、とても賢かった。民は王を慕い、国の皆は幸せに暮らしていた。しかしある時、国の豊かさに目をつけた隣国に、宣戦布告もなく攻め入られてしまう。隣国の攻撃は慈悲の欠片もなく、罪もない国民が次々と殺されていく。降伏を申し出ても、その後の国民の扱いはひどいものだった。」
「実、その話は…っ」
「絶望した王は、一人行方をくらませた。ある者は〝王は逃げ出したのだ〟と笑い、ある者は〝王に見捨てられたのだ〟と悲しんだ。ところがそれから間もなくして、王は堂々と帰ってきた。人間を凌駕する力を身につけて。」
拓也の制止を無視し、実は語り続ける。
「帰ってきた王は、隣国の者たちを圧倒的な力で殺していった。彼の力に恐れをなした者たちは、すぐさま彼の国から逃げ出した。これで平和に戻ると思ったが、彼の復讐劇はととどまるところを知らない。彼は執拗に隣国の者たちを追い、彼らに裁きを下していった。誰が止めても、誰が泣きついても、誰が諌めて怒ろうとも、彼は狂ったように殺戮を繰り返した。」
機械的で平坦な声が、静かな森の中に響いては消える。
「そんな彼を唯一止めることができたのは、長年彼に仕えてきた親友だったという。親友はどんな術を使ったのか、王の体に宿る魔力の全てを己の内に封印した。そして、彼の力を封印した親友はその後すぐに命を落とした。最後に残ったのは、王の体は今もどこかで眠っているという噂だけ。―――これが一つの物語の終焉であり、一つの呪いの始まりだ。」
「呪い…?」
語る実に圧倒され、梨央が固唾を飲む。
実はそれに、肯定の意を表して頷いてみせた。
「そう。王の力を封印したことで、世界には平和が戻った。でも、完全な封印なんてありえない。王の力の封印を秘めた魂。それを持って生まれた人間は、封印を守るために強力な力を持って生まれてくる。その反面、封印を解くか否かは、その魂の持ち主の意志に左右されてしまう。」
「それじゃあ……」
「うん。この封印って、実はものすごく脆いんだよね。だから……世界の国々は、この魂を持って生まれてくる人間を見つけ次第、問答無用で殺してるんだ。世界を守るためにね。」
「!?」
「この魂を持って生まれた人間は〝鍵〟と呼ばれている。これも、現代までずっと受け継がれている慣習みたいなもん。」
梨央の顔が紙のように白くなっている。
そんな梨央を見下ろして、実は何故か笑っていた。
「分かる? ここは、そういう世界。常に誰かを犠牲にして回っている世界なんだよ。」
一言一句をじっくりと言い聞かせるように、実はゆっくりとした口調で告げた。
「実。そんな話をして、なんになる。」
拓也は実に問う。
どうして、実が梨央にそんな話をする必要があるのか。
それが、全く理解できなかったのだ。
実は不機嫌そうな拓也を見やる。
そして―――
にやり、と。
口の端を吊り上げて、笑みを深いものにした。
「―――っ!?」
拓也の背を戦慄が駆け抜ける。
ねっとりと絡みついて、人の恐怖に直接働きかけるような不気味な笑み。
この笑顔を、自分は知っている。
脳裏によぎるのは、以前自分を助けた子供の姿。
今の実は、あの子供をひどく彷彿とさせた。
体を硬直させてこちらをじっと見る拓也に、実はまるで幼い子供がそうするように小首を傾げて無邪気に笑いかけた。
「―――俺がその〝鍵〟だって言ったら、どうする?」
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