Fairy Song

時雨青葉

文字の大きさ
上 下
90 / 166
第10歩目 眩暈

甘い毒

しおりを挟む

 ……なんだか今日は、散々な日だ。


 シュルクは、げんなりと肩を落とす。


『ちょっと、シュルクちゃん! あんた、熱があるじゃないの!!』


 集会所に帰ってすぐに駆け寄ってきたセルカに無理やりベッドに押し込まれて、その後くどくどと説教されて今に至る。


 きっと、フィオリアが彼女たちに何か言ったのだろう。


(熱、か……)


 ぼんやりと思う。


 今日やたらと頭がぼうっとするのは、熱のせいだったのか。


 普段思わないようなことばかり思ってしまうのも、熱で頭がやられているからだったのかもしれない。


 ならやっぱり、理性がにぶった今感じているこの気持ちこそ、自分の本音なのではないだろうか……


「………っ」


 思わず、毛布にくるまって目をつぶる。


 だめだ。
 どつぼにはまる前に、思考を逸らさないと。


 これ以上嫌な思考に支配されてしまっては―――きっと、自分が自分ではなくなってしまう。


 そんな本能的な危機感が、全身を支配する。
 しかし―――




〈可愛い坊や。今日は、随分と早いお休みなのね? 熱でも出たかしら?〉




 なんの前触れもなく、脳裏に響く声。
 それを聞いた瞬間に全身が凍りついて、思わずベッドから跳ね起きてしまった。


〈あらあら。無理しちゃだめよ。あなたには元気でいてもらわなくちゃ、ね?〉


「………っ」


 シュルクは両耳を塞ぐ。


 嫌だ。
 聞きたくない。 


 彼女の言葉は、自分の何もかもを壊していきそうで嫌なのだ。


〈ふふ、感じるわよ。今のあなたは、自己嫌悪の塊だわ。〉
「やめろ……」


〈優しい子ね。そんなに自分を責めなくたって、誰もあなたを責めたりはしないわよ。〉
「やめてくれ…っ」


〈あら。これでも、あなたのことを心配してるのよ? せっかく自由になっても、あなたが楽しくなければ意味がないでしょう?〉


 リリアの声が幾重いくえにも響く。
 彼女の声は甘く、本当に甘く響くのだ。


 拒絶したいのに、拒絶できない……


 体をむしばむ熱が上がっていく感覚がする。
 それと同じように頭の中も熱くなって、目の前がぼやけていく。


 そんな中で―――


〈仕方ないじゃない。何かを得るためには、何かを犠牲にしなきゃいけないんだもの。あなたの場合、それがあの子だったってだけよ。〉


 リリアの声だけが、異様なまでにはっきりとしていて。
 何も考えられず、彼女の言葉を聞くしかなくて……


〈大丈夫よ。あなたは何も悪くない。〉


「………」


〈あなたはあなたが望むまま、あなたがやりたいことをやればいいの。〉


「………」


〈あなたは、邪魔なものを処分するだけ。何も悪いことはない。当然の行動じゃない。〉


「…………邪魔……」


〈そう。あなたにはちゃんと、その権利がある。だって、あなたは私と同じで、ルルーシェの被害者なんだもの。〉


「被害者…?」


〈そうよ。悪いのはみんなルルーシェ。あなたは悪くない。悪くないのよ。〉


「………」


 自分は被害者。
 確かに、そうかもしれない。


 自分の生き方を、誰のせいにもしたくない。
 ずっとそう思って生きてきた。


 しかし、自分がどう思おうと、他人のせいで理不尽な目に遭うことはあって……


 もしかしたら、それが今のことなのだろうか。


「………」


 頭が熱い。
 熱くて熱くて、まともな思考なんて溶けて消えていきそうだ。


 ―――ああ、そのとおりだ。


 自分はきっと被害者だ。
 自分がこの運命を他人のせいにしたって、誰も自分を責めないだろう。


 でも……
 でも………


「………………違う。」


 何かが、違う気がする。


〈まあ、強情な子。でも、そんなあなたも素敵よ。〉


 リリアが笑う。


〈今日はこのくらいにしましょ。今日はゆっくりお休みなさいな。可愛い坊や。〉


 リリアの笑い声が、徐々に小さくなって消えていく。
 脳裏に木霊こだましていた声の余韻もようやく消えて、体中の力が勝手に抜けた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜

mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!? ※スカトロ表現多数あり ※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります

処理中です...