竜焔の騎士

時雨青葉

文字の大きさ
上 下
563 / 598
【番外編3】伝説が生まれるまで

カウント2 教師を目指すきっかけ

しおりを挟む

 人生、順調に進行中……といったところだろうか。


 綺麗な満月を見上げながら、ぼんやりとそんなことを考える。


 昔から、他人の太刀筋がよく見えた。


 相手がどこに力を入れて、どんな弱点を持つのか。
 それらはなんとなく本能で分かっていたし、実際にその見当が外れたこともなかった。


 人々は、それを才能と呼んだ。
 特に将来の夢もなかったオレは、先生に勧められるがままに剣術の専門校へと進学した。


 そんなオレが教師になろうと決意したのは、高校二年生の時。
 きっかけは、近所の孤児院に引き取られたキリハとの出会いだった。


 話題の種は、なんといってもキリハが竜使いであったこと。


 レイミヤの皆も子供たちも、初めは距離感を掴みあぐねてキリハを遠巻きにし、よくメイばあちゃんがそれを怒っていたっけ。


 キリハも周りに怯えていたのか、まるで身を縮める子猫のように、目立たない所で息をひそめていた。


 こう言ったらメイばあちゃんに怒られるだろうが、キリハに近付いたのは純粋な好奇心だった。


 年齢の割に、キリハがかなり身軽だったからだ。


 元は都会の方に住んでいたと噂で聞いたが、そのくせして、田舎いなかのレイミヤで過ごしてきた子供たちの何倍も身体能力が高かった。


 それに興味を引かれて、おっかなびっくりなキリハにまとわりつくようになり、その中でキリハも少しずつオレに心を開いてくれた。


 そしてある日、たまたま近所の子供たちとのチャンバラごっこにキリハを巻き込んで……オレは、生まれて初めて雷が直撃したような衝撃を受けたのだった。


 一目見て分かった。


 あふれる才能とは、これのことを言うのだろう。
 限りなくオレに近いものを、この子は持っているのだ。




 ―――――育てたい。




 衝動的に、そう思った。


 それで目をかけて剣の基礎を仕込んでみれば、キリハは目をみはる速さで剣の腕を伸ばしていった。


 レイミヤで過ごしていく中ですっかり明るくなったキリハは、剣を学ぶことがかなり気に入ったらしく、オレを見つけては剣の指南を頼んでくるようになった。


 そして、それ以上にオレの方がキリハを気に入ってしまい、キリハに剣を教えることにどっぷりとはまりこんでしまったのだ。


 こんな風に、自分が教えたことを吸収して育っていく剣をもっと見たい。
 そうしてオレが育てた剣が活躍する場を見ることができたなら、きっと幸せだろう。


 そう思うようになったオレが教師を目指すのは、至極当然の流れだった。


 先生にも同級生や先輩後輩にも、異口同音にもったいないと言われた。
 でも、そんなことはオレにはどうでもよかった。


 自分で目指すと決めた道なのだから、オレはとことんやるだけだ。


 そして、そんなオレの意志に皆も最後には折れて、オレの選択を応援すると言ってくれた。


 それで成績を少しばかり調整してお目当ての大学に入学し、なんとかこれまで目をつけられることもなく、平和に大学生活を送っているわけだ。


 ここは、国で唯一の国立軍事大学。


 基本的に実力主義の学校なので、あんまり剣の腕で目立ってしまうと、国防軍への就職から逃げられなくなってしまう。


 こんな場所でオレが自分の腕を隠し通せているのも、オレが必死に実力を隠しているというよりは、これまで知り合った人々が口を閉ざしてくれているおかげ。


 大学に入ってからオレの実力を知ったミゲル先輩とジョー先輩も、オレの意志をんで、国防軍に何も語らないでいてくれている。


 これも、一種の才能と言うべきなのだろう。


 どんな馬鹿をしても面白いくらいに敵を作らないオレに、高校の校長はそう言った。


(才能か……)


 自分ではよく分からないけど、あの校長が言うのだからそうなのかもしれない。


 まあ、才能がどうのこうのと言われても、オレにできることは自分が決めたことを貫き通すことと、自分を支えてくれている皆に感謝することくらいなのだけど。


 このまま何事もなければ、無事に教師の道を歩むことができそうだ。


 部活動を通して教師になるための下地と環境は整えたし、今の時点でオレを教師として迎えたいと言ってくれている人もいる。


 とりあえず、数年は色んな学校で経験を積んで、将来的には自分の道場を持つのもいいだろう。


 どこかに腰をえることはせず、身一つで世界中を巡って、より多くの人々に剣を教えるのもいいかもしれない。


「あ…」


 ぼーっと己の回想や理想と向き合っていたオレは、大学を囲む塀に突き当たって、あることに気付く。


 しまった。
 ルートを間違えた。


 途中で迂回して正門に向かう道へと出るつもりだったのに、まっすぐに霊小門の方に来てしまった。


 オレは眉をひそめ、自分の隣にあるびついた門を見つめた。


 大学の北に位置するこの小門。
 この先にあるのは、手入れもされなくなった小さな雑木林だ。


 ひと昔前はきちんと整備されていたらしいが、今はこの門を使う人間もいないし、門の先に伸びるのはもはや獣道である。


 大学の関係者でも、この辺りに近寄る奴はいない。
 その理由は、この門が〝霊小門〟と呼ばれていることで大方察しはつくだろう。


 事実として、親や国防軍からの期待に耐えかねた優等生が、この雑木林で自殺したという事件があったらしい。


 それからというもの、森の中をさまよう人の姿が見られるだとか、迷いがある人は彼に引きずり込まれるだとか、そういう噂が後を絶たないのである。


 そういう噂がなくとも、鬱蒼うっそうとしたこの雑木林は歩きにくくて仕方ないので、オレも好き好んでは近付かない。


(とはいえ、ここから学生寮まで近いんだよな……)


 小門を前に、オレは悩んでいた。


 ここまで来てしまった以上、わざわざ正門に向かうのも手間である。
 明日も予定が詰まっているので、できることなら早く部屋に戻って休みたい。


 そもそもオレは、学生たちの間で流れているあの手の噂は、これっぽっちも信じていないわけで。




「うん、行くか。」




 特に深く考えず、オレはその一歩を踏み出してしまったのだった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

4層世界の最下層、魔物の森で生き残る~生存率0.1%未満の試練~

TOYA
ファンタジー
~完結済み~ 「この世界のルールはとても残酷だ。10歳の洗礼の試練は避ける事が出来ないんだ」 この世界で大人になるには、10歳で必ず発生する洗礼の試練で生き残らなければならない。 その試練はこの世界の最下層、魔物の巣窟にたった一人で放り出される残酷な内容だった。 生存率は1%未満。大勢の子供たちは成す術も無く魔物に食い殺されて行く中、 生き延び、帰還する為の魔法を覚えなければならない。 だが……魔法には帰還する為の魔法の更に先が存在した。 それに気がついた主人公、ロフルはその先の魔法を習得すべく 帰還せず魔物の巣窟に残り、奮闘する。 いずれ同じこの地獄へと落ちてくる、妹弟を救うために。 ※あらすじは第一章の内容です。 ――― 本作品は小説家になろう様 カクヨム様でも連載しております。

超時空スキルを貰って、幼馴染の女の子と一緒に冒険者します。

烏帽子 博
ファンタジー
クリスは、孤児院で同い年のララと、院長のシスター メリジェーンと祝福の儀に臨んだ。 その瞬間クリスは、真っ白な空間に召喚されていた。 「クリス、あなたに超時空スキルを授けます。 あなたの思うように過ごしていいのよ」 真っ白なベールを纏って後光に包まれたその人は、それだけ言って消えていった。 その日クリスに司祭から告げられたスキルは「マジックポーチ」だった。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

転生調理令嬢は諦めることを知らない

eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。 それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。 子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。 最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。 八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。 それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。 また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。 オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。 同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。 それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。 弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。  主人公が酷く虐げられる描写が苦手な方は、回避をお薦めします。そういう意味もあって、R15指定をしています。  追放令嬢ものに分類されるのでしょうが、追放後の展開はあまり類を見ないものになっていると思います。  2章立てになりますが、1章終盤から2章にかけては、「令嬢」のイメージがぶち壊されるかもしれません。不快に思われる方にはご容赦いただければと存じます。

グライフトゥルム戦記~微笑みの軍師マティアスの救国戦略~

愛山雄町
ファンタジー
 エンデラント大陸最古の王国、グライフトゥルム王国の英雄の一人である、マティアス・フォン・ラウシェンバッハは転生者である。  彼は類い稀なる知力と予知能力を持つと言われるほどの先見性から、“知将マティアス”や“千里眼のマティアス”と呼ばれることになる。  彼は大陸最強の軍事国家ゾルダート帝国や狂信的な宗教国家レヒト法国の侵略に対し、優柔不断な国王や獅子身中の虫である大貴族の有形無形の妨害にあいながらも、旧態依然とした王国軍の近代化を図りつつ、敵国に対して謀略を仕掛け、危機的な状況を回避する。  しかし、宿敵である帝国には軍事と政治の天才が生まれ、更に謎の暗殺者集団“夜(ナハト)”や目的のためなら手段を選ばぬ魔導師集団“真理の探究者”など一筋縄ではいかぬ敵たちが次々と現れる。  そんな敵たちとの死闘に際しても、絶対の自信の表れとも言える余裕の笑みを浮かべながら策を献じたことから、“微笑みの軍師”とも呼ばれていた。  しかし、マティアスは日本での記憶を持った一般人に過ぎなかった。彼は情報分析とプレゼンテーション能力こそ、この世界の人間より優れていたものの、軍事に関する知識は小説や映画などから得たレベルのものしか持っていなかった。  更に彼は生まれつき身体が弱く、武術も魔導の才もないというハンディキャップを抱えていた。また、日本で得た知識を使った技術革新も、世界を崩壊させる危険な技術として封じられてしまう。  彼の代名詞である“微笑み”も単に苦し紛れの策に対する苦笑に過ぎなかった。  マティアスは愛する家族や仲間を守るため、大賢者とその配下の凄腕間者集団の力を借りつつ、優秀な友人たちと力を合わせて強大な敵と戦うことを決意する。  彼は情報の重要性を誰よりも重視し、巧みに情報を利用した謀略で敵を混乱させ、更に戦場では敵の意表を突く戦術を駆使して勝利に貢献していく……。 ■■■  あらすじにある通り、主人公にあるのは日本で得た中途半端な知識のみで、チートに類する卓越した能力はありません。基本的には政略・謀略・軍略といったシリアスな話が主となる予定で、恋愛要素は少なめ、ハーレム要素はもちろんありません。前半は裏方に徹して情報収集や情報操作を行うため、主人公が出てくる戦闘シーンはほとんどありません。 ■■■  小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+でも掲載しております。

処理中です...