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第6章 最後の戦いへ
リュドルフリアと同じで―――
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レティシアの回し蹴りが炸裂して、地響きを伴う大きな音が鳴る。
そこで、少しの膠着状態が訪れた。
「……今後のことについて、ロイリアともよく話したわ。」
呟くように告げるレティシア。
その体から、ポツポツと血が滴り落ちていく。
周囲の状況もひどいもので、多くの木々は薙ぎ倒されて、山肌が剥き出しになっている部分もある。
必死に地面を駆けていく動物たちの中には、この戦いの余波を食らって、すでに命を潰えているものもいた。
「こんなにキリハたちと仲良くなってもね……いずれ、あの子たちは私たちより先に死んでいくのよ。それを見送った後は、どんなに寂しくて物足りなくても、キリハたちがいない時間を生き続けなきゃいけないの。そう言った時、ロイリアは泣きに泣いて、嫌だって喚いて……最後には、それでもいいって笑った。」
これまで力強かったレティシアの声が、そこで覇気をなくす。
「それでもいいから、今はキリハたちと一緒にいたいんですって。失っても寂しさを乗り越えられるように、楽しい思い出をたくさん作っておきたいって。……でも、私には自信がないわ。」
震えた声に滲むのは、涙だったように思う。
「私は、リュード様と一緒で……行かないでって、そう願ってしまう気がする。ここまで可愛がった子に先立ってほしくない。私の寿命でもなんでもあげるから、最後の時まで一緒にいてほしいって……いざ旅立ちを見送る時になったら、そう祈ってしまう気がするの。」
「レティシア……」
ここに来て知る、レティシアの苦悩。
今が戦いの最中だということも忘れて、キリハは《焔乱舞》を下げてしまった。
「人間って、本当に厄介ね。いつ死んでもおかしくないのに、どうしてこんなにも一つひとつの存在を大切にしてしまうのかしら。でも……生きる時間が圧倒的に短いからこそ、どんな命でも真剣に救おうとするんでしょうね。ロイリアを救おうとしている人間たちを見て、そう思ったわ。誰かと共にいられる時間に限りがあるからこそ、人間は必死に輝くんだわ。まるで流れ星ね。」
そこで、ハッと一笑するレティシア。
「私も馬鹿よ。三百年前まではあんなに人間と距離を置いていたのに、キリハには気を許しちゃったんだから。でも……仕方なくない? 目覚めたら、ロイリアと一緒に殺されるって覚悟してたのに……―――あの子ったら、人間じゃなくて私たちをかばったのよ?」
レティシアの視線が、キリハに流れる。
「私たちを救おうと仲間たちと対立して、私たちのために本気で泣いて、私たちを信じたいって言った。あの時……リュード様がユアンに〝友として同じ世界を見よう〟って言われた時の感動が分かった気がした。そしてその時に、私はあんたと違うんだってはっきりと分かったわ。」
一度瞑目したレティシアの眦から、一筋の涙が零れる。
「レクト。あんたにとってのリュード様は、私にとってのロイリアよ。離れないで傍にいてほしい、一人にしてほしくない。そう思う気持ちには同意するわ。」
「………」
「でも、私は―――ロイリアがキリハと絆を深めることを、心の底から嬉しく思う。」
「―――っ!? な、なぜ…っ」
「それが、ロイリアを幸せにしてくれるから。そして、幸せなロイリアを見られて、私も幸せになれるから。ただそれだけよ。」
はっきりとそう告げたレティシアの声は、深い慈愛と幸福に満ちていた。
でも、今の状況で聞くその言葉は、まるで別れの覚悟を決めた言葉のようにも聞こえてしまって―――
「待ってよ!!」
思わず、口を挟まずにはいられなかった。
「レティシア! ロイリアだけみたいな言い方しないでくれる!? 俺はロイリアだけじゃなくて、レティシアとも絆を深めていきたいよ!! 特別な人が一人だけなんて、誰も決めてないからね!?」
「分かってるわよ。」
焦ったようなキリハの言葉に、レティシアは笑みを含んだ声でそう言う。
「あんたが私を頼りにしてくれてるのは知ってる。大事に思ってくれてることも知ってる。だから私も、あんたが可愛いのよ。」
「レティシア……」
「私もちゃんと、キリハが好きよ。ロイリアと一緒で、まだまだ知らないことばかりの可愛い子。なんだったら、今度から私のことを〝お母さん〟って呼んでもいいわよ?」
最後に茶目っ気を含めてウインクをしたレティシアは、翼を大きくはためかせて臨戦態勢を整える。
「……いっそのこと、ユアンに初めて出会ったのがあんただったなら、未来は変わっていたかもしれないわね。」
誰にも聞こえない声で呟いたレティシアは、一瞬だか浮かんだ憂いをすぐに引っ込める。
「さてと…。そういうわけで、私はロイリアを不幸にしようとするあんたが心底憎いのよ。ドラゴンとか人間とか、そんなの関係なくね。」
「………っ」
「無駄話もこれでおしまい。お互いに満身創痍だし、そろそろ決着をつけましょうか。」
目元を険しくしたレティシアは、最速を出してレクトへと襲いかかった。
そこで、少しの膠着状態が訪れた。
「……今後のことについて、ロイリアともよく話したわ。」
呟くように告げるレティシア。
その体から、ポツポツと血が滴り落ちていく。
周囲の状況もひどいもので、多くの木々は薙ぎ倒されて、山肌が剥き出しになっている部分もある。
必死に地面を駆けていく動物たちの中には、この戦いの余波を食らって、すでに命を潰えているものもいた。
「こんなにキリハたちと仲良くなってもね……いずれ、あの子たちは私たちより先に死んでいくのよ。それを見送った後は、どんなに寂しくて物足りなくても、キリハたちがいない時間を生き続けなきゃいけないの。そう言った時、ロイリアは泣きに泣いて、嫌だって喚いて……最後には、それでもいいって笑った。」
これまで力強かったレティシアの声が、そこで覇気をなくす。
「それでもいいから、今はキリハたちと一緒にいたいんですって。失っても寂しさを乗り越えられるように、楽しい思い出をたくさん作っておきたいって。……でも、私には自信がないわ。」
震えた声に滲むのは、涙だったように思う。
「私は、リュード様と一緒で……行かないでって、そう願ってしまう気がする。ここまで可愛がった子に先立ってほしくない。私の寿命でもなんでもあげるから、最後の時まで一緒にいてほしいって……いざ旅立ちを見送る時になったら、そう祈ってしまう気がするの。」
「レティシア……」
ここに来て知る、レティシアの苦悩。
今が戦いの最中だということも忘れて、キリハは《焔乱舞》を下げてしまった。
「人間って、本当に厄介ね。いつ死んでもおかしくないのに、どうしてこんなにも一つひとつの存在を大切にしてしまうのかしら。でも……生きる時間が圧倒的に短いからこそ、どんな命でも真剣に救おうとするんでしょうね。ロイリアを救おうとしている人間たちを見て、そう思ったわ。誰かと共にいられる時間に限りがあるからこそ、人間は必死に輝くんだわ。まるで流れ星ね。」
そこで、ハッと一笑するレティシア。
「私も馬鹿よ。三百年前まではあんなに人間と距離を置いていたのに、キリハには気を許しちゃったんだから。でも……仕方なくない? 目覚めたら、ロイリアと一緒に殺されるって覚悟してたのに……―――あの子ったら、人間じゃなくて私たちをかばったのよ?」
レティシアの視線が、キリハに流れる。
「私たちを救おうと仲間たちと対立して、私たちのために本気で泣いて、私たちを信じたいって言った。あの時……リュード様がユアンに〝友として同じ世界を見よう〟って言われた時の感動が分かった気がした。そしてその時に、私はあんたと違うんだってはっきりと分かったわ。」
一度瞑目したレティシアの眦から、一筋の涙が零れる。
「レクト。あんたにとってのリュード様は、私にとってのロイリアよ。離れないで傍にいてほしい、一人にしてほしくない。そう思う気持ちには同意するわ。」
「………」
「でも、私は―――ロイリアがキリハと絆を深めることを、心の底から嬉しく思う。」
「―――っ!? な、なぜ…っ」
「それが、ロイリアを幸せにしてくれるから。そして、幸せなロイリアを見られて、私も幸せになれるから。ただそれだけよ。」
はっきりとそう告げたレティシアの声は、深い慈愛と幸福に満ちていた。
でも、今の状況で聞くその言葉は、まるで別れの覚悟を決めた言葉のようにも聞こえてしまって―――
「待ってよ!!」
思わず、口を挟まずにはいられなかった。
「レティシア! ロイリアだけみたいな言い方しないでくれる!? 俺はロイリアだけじゃなくて、レティシアとも絆を深めていきたいよ!! 特別な人が一人だけなんて、誰も決めてないからね!?」
「分かってるわよ。」
焦ったようなキリハの言葉に、レティシアは笑みを含んだ声でそう言う。
「あんたが私を頼りにしてくれてるのは知ってる。大事に思ってくれてることも知ってる。だから私も、あんたが可愛いのよ。」
「レティシア……」
「私もちゃんと、キリハが好きよ。ロイリアと一緒で、まだまだ知らないことばかりの可愛い子。なんだったら、今度から私のことを〝お母さん〟って呼んでもいいわよ?」
最後に茶目っ気を含めてウインクをしたレティシアは、翼を大きくはためかせて臨戦態勢を整える。
「……いっそのこと、ユアンに初めて出会ったのがあんただったなら、未来は変わっていたかもしれないわね。」
誰にも聞こえない声で呟いたレティシアは、一瞬だか浮かんだ憂いをすぐに引っ込める。
「さてと…。そういうわけで、私はロイリアを不幸にしようとするあんたが心底憎いのよ。ドラゴンとか人間とか、そんなの関係なくね。」
「………っ」
「無駄話もこれでおしまい。お互いに満身創痍だし、そろそろ決着をつけましょうか。」
目元を険しくしたレティシアは、最速を出してレクトへと襲いかかった。
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