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第4章 絶望から希望へ
もう一人の立役者
しおりを挟む「あのー、お二人さん?」
お熱い展開から十秒ほど経過したところで、切り込み隊長を買って出たのはジョーだった。
「仲良しなのは結構なんだけどー……僕は、いつまで目隠ししてればいい?」
「!!」
それで自分たちの行動を自覚したキリハとサーシャは、大慌てで距離を取る。
キリハに白衣の裾を踏まれているせいで逃げるに逃げられない状態だったジョーは、目を塞いでいた手をどけて溜め息をついた。
「なんだかなぁ…。あっちでもこっちでも、やたらと愛が実っておりますこと。ミゲル、どうするー? この波に乗じて、ミゲルも愛を進展させちゃう?」
からかうような瑠璃色。
ミゲルが日々ララと夫婦漫才を繰り広げていることは周知の事実なので、他の面々もにやけて彼を見つめている。
「………」
一方、キリハの代わりに矢面に立たされたミゲルは、ほんのりと顔を赤らめるだけで何も言わない。
そんな親友の様子に、訊ねたジョーの方が目をしばたたかせることになった。
「あら…。冗談だったのに、割とガチで考えてたんだ……」
「う、うるせー!!」
図星を突かれて、ミゲルが今度こそ真っ赤になる。
そこには触れずに彼から目を逸らしたジョーは、また表情を引き締めた。
「じゃあ、話を本筋に戻すけど……この件にはね、もう一人の立役者がいるんだよ。」
「もう一人…?」
キリハの呟きに、ジョーはこくりと頷く。
他の人々も、続きを待つように静かになった。
「―――ルカ君だよ。」
もったいぶらずに、ジョーは答えを述べる。
それに驚かなかった人間はいなかった。
「僕がロイリアの治療薬を作れたのは、今までのロイリアの生体データ、ノア様から提供された研究資料に加えて……ルカ君が定期的に持ち込んでいた、レクトの血液サンプルがあったからなんだ。」
どういうことか、と。
全員の視線に促されて、ジョーは先を続ける。
「ルカ君はね、自分を実験台にしてレクトの能力を探ってたんだ。その結果、レクトの能力にある二つの穴に気付いた。」
「二つの穴…?」
「そう。レクトは血を仕込んだ人間の視覚、聴覚、嗅覚、味覚には、本人に気付かれることなくリンクできるけど……唯一、触覚だけにはリンクできないんだ。同意の有無はどうであれ、人間の肉体を乗っ取らない限りはね。」
それを聞くキリハは、その穴がどういう意味に繋がるのか分からない様子。
ジョーはそれに構わず、解説を続行する。
「そしてもう一つ。肉体を乗っ取らない状態での感覚共有は、あくまでも肉体の持ち主の認識範囲に制限される。この二つを組み合わせれば……自分がきちんと意識を保っている時に、自分の視野外で手を動かす分には、その行為をレクトに感知されないと推測できるわけだ。」
そこまで話したジョーの双眸に、鋭い光が宿る。
「ルカ君が僕に交渉を持ちかけていた目的は、それを建前にして僕にレクトの血を届けること。だから僕に血を渡す時、ルカ君は絶対に僕の方を―――自分の手元を見なかった。視覚情報を遮断してしまえば、仮に聴覚や嗅覚から異変を悟られたとしても、いくらでも言い逃れができるからね。」
ジョーと張るほどに計算高い、ルカの行動。
それに皆が固唾を飲み下す中、キリハが一番に口を開く。
「ルカは……どうして、そんなことを…?」
ジョーをレクト側に引き込むために、交渉を重ねていたというルカ。
そんなルカがジョーにレクトの血を渡していたのは、ジョーにも血を飲んでほしかったからなのかもしれない。
すぐにその推測には至ったものの、どうしても納得がいかない。
もしそうならば、ジョーがこんなに穏やかな表情をしているはずがないと思う。
「それは……本人から直接聞いてごらん。」
そう言ったジョーが差し出したのは、自身の携帯電話。
液晶画面を覗くと、一画面には収まりきらない量のメッセージが映し出されていた。
差出人は、もちろんルカ。
送信日は、自分が彼をレクトに会わせてから一週間も経っていない頃だった。
期待半分、恐怖半分。
そんな心地で携帯電話を受け取った。
そして、当時のルカの想いをなぞる―――
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