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第8章 次なるターゲット
黒幕は嗤う
しおりを挟む「ようやく来たか…。あまりにも退屈で、そろそろリンクを切ろうかと思っていたぞ?」
ジャミルの口を借り、レクトはゆったりとした口調でフールへと語りかけた。
「エリクの体を使ってジャミルに協力したのは、君だね?」
「ああ。御するのが大変な、困った駒だったよ。シアノの血だけでは不十分で、私の血を直接与えて、ようやく飼い慣らせたのだ。」
「シアノ君の血だって…?」
「ふふ…。リュドルフリアの血を早々に遠ざけたお前は、知らないだろうな。」
レクトはくすくすと笑う。
「人間が私の血を長く受け入れ続けるとな、その人間の血を介してでも、私が体を乗っ取れるようになるようだ。」
「―――っ!?」
それだけで、事の真相を悟るには十分だった。
エリクに初めて仕込まれたのは、レクトではなくてシアノの血。
キリハに保護されてエリクの家に預けられていたシアノは、隙を見つけてはエリクに自分の血を与えていたのだろう。
キリハに保護された時のシアノは、着の身着のままで何も持っていなかった。
そして自分とレクトが久しぶりに対面したあの日から、あの子はキリハたちに接触していない。
その事実に、まんまと騙されたわけだ。
レクトの血を飲まなければ問題ないと思っていた自分は、簡単にシアノを逃がしてしまった。
その血も心もレクトに支配されたあの子は、それこそ彼の一番の切り札だったというのに。
「君は……シアノ君に、なんてむごいことを……」
キリハが言っていた。
人間は嫌いだけど、自分たちのことは好きだって。
シアノは去り際にそう告げて、雨の中に消えていったのだと。
それなのにレクトは、まだ善悪の判断がつかない子供に、好きな人を自分の手で苦しめさせたというのか。
「むごい? そうか?」
全身を震わせるフールに対し、レクトは不思議そうな表情をするだけだ。
「確かに私は、シアノを使ってエリクに血を仕込んだ。ジャミルとシアノに交流を持たせておき、それとなくエリクをジャミルの近くに誘い込み、ごく自然にあの二人を繋げもした。だが、それだけだぞ?」
「また…っ」
飄々とした口調のレクトの話を、そこでフールが遮る。
「君はまた、そうやって言い逃れるのか!? 自分はきっかけを与えてやっただけで、状況をひどくしたのは人間だと!!」
「だが実際、そうではないか?」
レクトはフールにそう訊ねる。
「エリクを脅して自分の支配下に置いたのも、キリハを追い詰める策を講じたのもこいつだ。私はあくまでもこいつの指示に従って動いて、最後にこいつが渡してきた毒を飲んでやっただけだ。それを知らないエリクが自分でも毒を飲んだが、それこそ私が知ったことではない。気付いた時には、もう飲んでしまった後だったからな。」
自業自得じゃないかと。
一片も悪びれる様子を見せないレクトの態度が、そう語る。
「ふざけるな!! そのせいで、エリクとキリハがどんなに苦しんだと思ってるんだ!?」
「おやおや…。これも言わないといけないのか?」
怒りのボルテージを上げるフールに、レクトはどこか呆れたように息をつく。
「ジャミルの行為について、私はキリハに全うな助言をくれてやった。それをふいにしたのはキリハだろう? 周りに相談しろとあんなに言ってやったのに、結局最後まで何も言わなかった。その事実があるから、今もキリハは私を信用しきっているではないか。」
「よくもぬけぬけと…っ」
腸が煮えくり返る。
こんなにも誰かを憎いと思ったことがあるだろうか。
「そうやってキリハを甘やかす一方で、人間にキリハを傷つけさせて……シアノの時みたいに無理やり操るんじゃなくて、キリハが自分から人間を傷つけるように仕向けたかったんだろう?」
今さらながらにレクトの狙いが分かって、反吐が出そうだ。
優雅に指揮棒を振るだけの彼には、それに操られる奏者の苦悩が、何一つ伝わっていないのだから。
「あと一歩だったんだがなぁ…。まさかあそこで、キリハが《焔乱舞》を拒絶するとは思わなかった。だがそれはそれで、予想外の成果を生んでくれたよ。」
実質的にこちらの指摘を認めながら、レクトはさも楽しそうに語る。
「元は《焔乱舞》とその主を潰すための計画だったが、予想外の奴が潰れたな? あの厄介な知将は、まだ死なんのか?」
「お前…っ」
もはや、この怒りをどんな言葉で形容すればいいのか分からない。
エリクの必死の足掻きも。
キリハの底知れない優しさも。
アルシードの渾身の強さも。
その美しい心たちの全てを踏み潰すだけでは飽き足らず、死に瀕している命を見て喜ぶなんて。
「言っただろう? お前たちのせいで、誰もが苦しむのだと。」
次の言葉を紡げないフールに、レクトは勝者の笑みを浮かべる。
「さて…。リュドルフリアが目覚めるまで、まだ少し時間がある。ここからは、余興といこうではないか。」
「余興…? この期に及んで、まだキリハに何かしようっての?」
「まあ、当初の計画にはなかった余興だがな。お前たちの苦しみに華を添える、いい駒が転がり込んできたのだ。使わない手はない。」
「いい駒…?」
怪訝そうなフールの声。
それを聞くレクトは、ジャミルの顔で心底愉快そうに口元を歪めた。
「《焔乱舞》の主や知将にばかり気を取られて、重要なことを見逃していないか? 今この時、人間への憎しみを最も暴走させやすい奴が誰なのか。」
「―――っ!!」
その言葉で、全身が凍りつく。
世界に走った大きな亀裂が広がって、歪に軋む音すら聞こえた気がした。
(―――ルカ…っ)
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