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第5章 亡霊の正体
終わりはもう、すぐそこに―――
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どんなに休みたくとも、時間は止まってはくれない。
次のドラゴン出現予想まで、あと十日ばかり。
竜騎士隊全員と知将が不在という未曾有の事態に陥りながらも、ディアラントとターニャを筆頭に、残った面々は懸命に議論を進めていた。
「ふう…。あとはドラゴンのデカさ頼みだけど、なんとかなりそうだな。」
長い会議の連続に一区切りがつき、ディアラントは重い肩を落とす。
そこに。
「おらよ。」
ミゲルが書類の束を渡した。
「ジョーの修正が入った陣営と指揮計画だ。」
「うへぇー…。まだ会議が終わって三十分ですよ? あの人の頭はどうなってんですか?」
「次元違いのところにあるのは間違いねぇな。会議の内容も、監視カメラをジャックしてリアルタイムで聞いてたみてぇだし。」
「まあ、宮殿の全システムはあの人のおもちゃみたいなもんですからね。今さら驚きはしませんけど。」
ぼやきながら、受け取った資料に目を通すディアラント。
心なしか、その表情は安堵しているよう。
「体調は心配ですけど、正直めちゃめちゃ助かりますね。物理的な距離なんて、ジョー先輩にはハンデでもなかったか……」
「だな。討伐当日も、ヘンデルやサッカニーを使ってアシストしてくれるそうだ。二人も、普段から仕込まれてるから安心しろってさ。」
「さすがですね。いつもはあんなに一人でなんでもかんでもやってるくせに、こういう時の備えはちゃんと用意してたってわけか……」
「まあその分、隙がなさすぎて可愛げがないんだけどな。」
「ですねー。もっと頼ってほしいもんですよ。」
資料を一通り確認し、メッセージでジョーに礼を言っておく。
一時はどうなるかと思ったが、作戦の要である参謀代表がこれまでと変わらない働きをしてくれているおかげで、部隊のコンディションはまだ保たれそうだ。
そうなると、今一番の問題は……
「頼むから、また二体同時なんて展開は勘弁してくれよ…。一体ならまだしも、さすがに二体は、レティシアたちや《焔乱舞》なしにはきっつい。」
以前はかっこつけて《焔乱舞》ありきの討伐なんて考えていないと言ったが、あれは出現するドラゴンが一体という前提があったから言えたこと。
何度か離れた位置に同時出現されている今となっては、理想論や強がりで《焔乱舞》がなくても大丈夫だとは言えない。
「確かにな……」
深刻そうに呟くディアラントに、ミゲルも似たような声音で同意する。
「まさか、今になってキー坊が焔に拒絶されるなんて……」
「違う。」
ミゲルの言葉を、即で否定する人物が一人。
「違うよ。焔じゃない。」
その場にいる全員の視線を受けながら、フールは否定を重ねる。
「もしも本当に焔がキリハを見限ったなら、キリハの手元に自分から現れた時と同じように、自分から洞窟に戻っていたはずさ。それに……この前の暴走の時に、キリハを焼き殺していただろう。」
キリハを焼き殺していた。
それを聞いて表情を青くしたり険しくしたり、人々の反応はそれぞれだが、フールは構わずに先を続ける。
「現場を見た僕には分かる。あの時の焔は、全力でキリハを守っていた。キリハが大好きだって、炎がそう語っていたよ。」
「じゃあ……」
「ああ、そうさ。」
ディアラントが辿り着いたであろう推測を、フールは頷いて肯定する。
「焔がキリハを拒絶したんじゃなくて、キリハが焔を拒絶しているんだよ。多分……自分の衝動に負けて、人間を攻撃してしまわないように。」
視線を落とすフール。
《焔乱舞》に触れないことを認めたキリハが見せた、心底安心した表情。
あそこに、全ての答えが示されていた。
本当に、なんて優しい子だろう。
今は人間を裁く時だと、一片の疑いもなくそう思っているのに、それでもギリギリのところで、人を傷つけない道を選び取るとは。
その優しさが真に純粋だったからこそ、《焔乱舞》もキリハの望みに応えたのだ。
二度も主を焼きたくないと、《焔乱舞》自身がそう願ったのもあるかもしれない。
「大丈夫。時間はかかるだろうけど、キリハはいつか、もう一度焔を受け入れてくれるよ。それに―――ドラゴンの方は、問題ない。」
顔を上げて、フールは力強く断言する。
「眠っているドラゴンは、あと二体なんだ。その二体が同時に目覚めることだけは、絶対にありえない。最後の一体は、自分以外のドラゴンを解き放ってからしか目覚めないから。」
「絶対にって……」
「絶対にだよ。」
怪訝そうなディアラントに、フールは再度言い切る。
そう言える彼の根拠は……
「最後に目覚める一体は、この封印を施した張本人にして、僕の親友―――神竜リュドルフリアだからね。」
次のドラゴン出現予想まで、あと十日ばかり。
竜騎士隊全員と知将が不在という未曾有の事態に陥りながらも、ディアラントとターニャを筆頭に、残った面々は懸命に議論を進めていた。
「ふう…。あとはドラゴンのデカさ頼みだけど、なんとかなりそうだな。」
長い会議の連続に一区切りがつき、ディアラントは重い肩を落とす。
そこに。
「おらよ。」
ミゲルが書類の束を渡した。
「ジョーの修正が入った陣営と指揮計画だ。」
「うへぇー…。まだ会議が終わって三十分ですよ? あの人の頭はどうなってんですか?」
「次元違いのところにあるのは間違いねぇな。会議の内容も、監視カメラをジャックしてリアルタイムで聞いてたみてぇだし。」
「まあ、宮殿の全システムはあの人のおもちゃみたいなもんですからね。今さら驚きはしませんけど。」
ぼやきながら、受け取った資料に目を通すディアラント。
心なしか、その表情は安堵しているよう。
「体調は心配ですけど、正直めちゃめちゃ助かりますね。物理的な距離なんて、ジョー先輩にはハンデでもなかったか……」
「だな。討伐当日も、ヘンデルやサッカニーを使ってアシストしてくれるそうだ。二人も、普段から仕込まれてるから安心しろってさ。」
「さすがですね。いつもはあんなに一人でなんでもかんでもやってるくせに、こういう時の備えはちゃんと用意してたってわけか……」
「まあその分、隙がなさすぎて可愛げがないんだけどな。」
「ですねー。もっと頼ってほしいもんですよ。」
資料を一通り確認し、メッセージでジョーに礼を言っておく。
一時はどうなるかと思ったが、作戦の要である参謀代表がこれまでと変わらない働きをしてくれているおかげで、部隊のコンディションはまだ保たれそうだ。
そうなると、今一番の問題は……
「頼むから、また二体同時なんて展開は勘弁してくれよ…。一体ならまだしも、さすがに二体は、レティシアたちや《焔乱舞》なしにはきっつい。」
以前はかっこつけて《焔乱舞》ありきの討伐なんて考えていないと言ったが、あれは出現するドラゴンが一体という前提があったから言えたこと。
何度か離れた位置に同時出現されている今となっては、理想論や強がりで《焔乱舞》がなくても大丈夫だとは言えない。
「確かにな……」
深刻そうに呟くディアラントに、ミゲルも似たような声音で同意する。
「まさか、今になってキー坊が焔に拒絶されるなんて……」
「違う。」
ミゲルの言葉を、即で否定する人物が一人。
「違うよ。焔じゃない。」
その場にいる全員の視線を受けながら、フールは否定を重ねる。
「もしも本当に焔がキリハを見限ったなら、キリハの手元に自分から現れた時と同じように、自分から洞窟に戻っていたはずさ。それに……この前の暴走の時に、キリハを焼き殺していただろう。」
キリハを焼き殺していた。
それを聞いて表情を青くしたり険しくしたり、人々の反応はそれぞれだが、フールは構わずに先を続ける。
「現場を見た僕には分かる。あの時の焔は、全力でキリハを守っていた。キリハが大好きだって、炎がそう語っていたよ。」
「じゃあ……」
「ああ、そうさ。」
ディアラントが辿り着いたであろう推測を、フールは頷いて肯定する。
「焔がキリハを拒絶したんじゃなくて、キリハが焔を拒絶しているんだよ。多分……自分の衝動に負けて、人間を攻撃してしまわないように。」
視線を落とすフール。
《焔乱舞》に触れないことを認めたキリハが見せた、心底安心した表情。
あそこに、全ての答えが示されていた。
本当に、なんて優しい子だろう。
今は人間を裁く時だと、一片の疑いもなくそう思っているのに、それでもギリギリのところで、人を傷つけない道を選び取るとは。
その優しさが真に純粋だったからこそ、《焔乱舞》もキリハの望みに応えたのだ。
二度も主を焼きたくないと、《焔乱舞》自身がそう願ったのもあるかもしれない。
「大丈夫。時間はかかるだろうけど、キリハはいつか、もう一度焔を受け入れてくれるよ。それに―――ドラゴンの方は、問題ない。」
顔を上げて、フールは力強く断言する。
「眠っているドラゴンは、あと二体なんだ。その二体が同時に目覚めることだけは、絶対にありえない。最後の一体は、自分以外のドラゴンを解き放ってからしか目覚めないから。」
「絶対にって……」
「絶対にだよ。」
怪訝そうなディアラントに、フールは再度言い切る。
そう言える彼の根拠は……
「最後に目覚める一体は、この封印を施した張本人にして、僕の親友―――神竜リュドルフリアだからね。」
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