竜焔の騎士

時雨青葉

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第2章 転がり落ちて―――

突然の電話

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 分かっていたはずだった。
 散々レクトにも言われていたし、自分だって、むしろかかってこいとさえ思っていた。


 今の時点で、十分に最悪なんだ。
 これ以上の最悪なんてないだろうと、そんな風に構えていた。




 だけど、実際にその時が来ると―――




「ん?」


 きっかけは、もう寝ようかと思っていたタイミングで震えた携帯電話だった。
 枕元に投げていたそれを取り上げて、下に向けていた画面をくるりとひっくり返す。


「ミゲルから…?」


 こんな時間にどうしたのだろう。


 実家の問題でごたついているという今、彼がわざわざ自分に連絡を寄越す理由なんてないと思うんだけど……


 ちょっとした違和感を抱きつつ、通話ボタンを押して携帯電話を耳に当てる。




「どうも。はじめまして……と言うのは、少しおかしいかもしれませんね。」




 鼓膜を震わせた音の信号に、一瞬で眠気が吹き飛んだ。


 ミゲルじゃない。
 変声器を通した、耳ざわりな高い声。


「どうして……ミゲルの電話を…?」


 自分の口から、自分のものとは思えない声が出ていく。


 相手が誰なのか、なんて。
 今さら、そんなことは訊く必要もなかった。


「安心してください。危害は加えていません。ただ、大人しく眠っていただいているだけです。」
「本当に?」


「ええ。そもそも、彼が自分から飛び込んでこなければ、こんな風に利用するつもりはなかったんですけどね。」
「自分から…?」


「ええ。飛び込んでこられた以上、計画を早めるしかなかったのです。調査の手を回される前にね。」
「………」




「さて、そういうわけで―――次回の待ち合わせ場所を、変更いたしましょう。」




 ついにご対面というわけか。


 キリハは黙して、声の続きを待つ。


「とはいえ、あなたは呼び出しの連絡があるまで、お部屋でお待ちいただければ結構です。私の可愛い手足が、あなたを私の元までエスコートしてくれますので。」


「………」


「ご心配なさらずとも、お預かりしているお友達には今後も危害を加えませんよ。」


「分かった。それだけ守ってくれるなら、言うことに従うよ。」


 相手からミゲルの安全を保証させたところで、キリハはこくりと頷いた。




「それでは―――三日後、お会いしましょう。」




 電話が、プツリと切れる―――……



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