382 / 598
第1章 絡む策略
知恵VS知恵 闇と闇とのぶつかり合い
しおりを挟む
レクトとの交渉を済ませたルカは、帰り路につくために地下高速道路に停めてある車へと向かう。
「やっぱりな。来てると思ったぜ。」
予想どおりのお出迎えに、挑むような笑顔を一つ。
「………」
車に寄りかかっていたジョーは、何も答えなかった。
そこに、いつもの笑みはない。
人形のような無表情が、ただこちらを見つめている。
しかし、その瑠璃色の双眸に宿るのは―――強烈な憎悪とも受け取れる敵意。
これは、発信機だけではなく盗聴器も仕込まれていたか。
それを察しつつ、ルカはわざとらしく肩をすくめてみせた。
「何も言わずに、そんな顔を見せてくるってことは……オレの推測は大当たりか?」
「それを知って、なんの意味があるの?」
極寒零度を思わせる冷たい声。
普段の温厚な彼からは、とても想像がつかないものだった。
目の前に開くのは、奈落への片道路線。
しかしこちらとしては、そこに踏み込む気は皆無なので……
「確かに、意味はねぇな。前も言ったが、別に深く突っ込むつもりはない。お前がオレとおんなじ、復讐を心に決めた奴だっていう事実だけでいい。」
「そう……」
ジョーはそう呟くだけ。
はっきりと〝復讐〟という単語を突きつけてみたのだが、それを否定しなかった。
まあ、当たり前か。
こんな風に堂々と待っていたあたり、自分の前では余計な仮面を被るのをやめたようだから。
「やっぱり君は、キリハ君以上に見所がある子だよ。僕が手を出さないギリギリを攻めてくるんだからさ。」
「そりゃあな。オレだって自分が可愛いし、そもそもお前と敵対したいわけじゃねぇから。」
降参とでも言わんばかりに諸手を挙げ、ルカはひらひらと手を振る。
ちょっと頭が回れば、こいつを敵にする手が一番の愚策であることは、誰だって分かるだろう。
眠れる獅子は、叩き起こさずに眠らせておくに限る。
しかし、その獅子が敵サイドに興味を示している今、好きに遊ばせておくのもまた愚策。
ならばもっといい餌をぶら下げて、獅子の興味をこちら側に引かなければならない。
そして、このプライドの高い獅子が相手をするのは、己が対等に渡り合ってもいいと認めた人間のみ。
運がいいことに、自分は出会った最初からそのお眼鏡にかなっている。
自分がターゲットを彼に絞ったのは、そういった理由があってのことだ。
キリハと並び立てるこの最強のジョーカーを、自分は自分の目的のために有効活用させてもらう。
「僕は、利用されるのが大嫌いなんだよね。」
「言われなくても分かってるさ。だからあくまでも、判断はお前に委ねるつもりだ。ここからは、また新しい取引だな。」
「取引、ねぇ……」
「ああ。」
言葉を重ねるほどに、ジョーの全身から漂う冷気が温度を下げていく。
ルカは思わず苦笑した。
「そんな怖ぇ顔すんなよ。化けの皮を剥がしてくれてる今のうちに訊いとくが……さっきの話を聞いて面白そうだと思ったから、わざわざここで待ってたんじゃねぇのか? オレの言うとおり、いい仕返し方法だろ?」
「………」
その瞬間、ジョーの瞳に宿る苛烈さが増す。
仮面を外すと、案外分かりやすい奴なんだな。
思わずそう言いかけて、寸でのところでそれを飲み込む。
「先に言っておくが、オレは別にお前の上に立とうとは思ってない。オレも他よりは頭が回る方だとは思ってるけど、知恵や戦略でお前に勝てるわけがねぇからな。」
「そりゃどうも。この僕を飼い慣らそうなんて……馬鹿な凡人どもみたいな発想は持ってないようで安心したよ。」
「馬鹿な凡人ども……なかなか、物言いが痛烈だな。だけど、嫌いじゃねぇぜ。むしろ、その意見には完全に同意するわ。」
ルカは笑いながら、肩に下げていた鞄の中に手を入れる。
「そういうわけだ。お前がこっち側につくって決めてくれりゃ、それ以降の主導権はお前に渡すよ。オレのことは、お前の手駒として都合よく使え。便利に動いてやる。」
そう告げたルカは、鞄からとある物を取り出した。
「とりあえず、わざわざここまで来てくれた礼だ。―――これ、なんだと思う?」
「………っ!!」
大きく目を見開くジョー。
そんな彼に、見せつけたそれを放り投げてやる。
「交渉は改めて、役者が揃ってからやるとしようぜ。いい答えを期待してるから―――よくよく考えといてくれ。」
それとなくジョーを押しやり、車の運転席に身を滑らせる。
そして彼をその場に置いたまま、エンジンをかけて車を発進させた。
「………」
ぽつんと一人。
オレンジ色の光で照らされる空間に取り残されたジョーは、無言のまま、自分の手に収まったそれを睨みつけていた。
「やっぱりな。来てると思ったぜ。」
予想どおりのお出迎えに、挑むような笑顔を一つ。
「………」
車に寄りかかっていたジョーは、何も答えなかった。
そこに、いつもの笑みはない。
人形のような無表情が、ただこちらを見つめている。
しかし、その瑠璃色の双眸に宿るのは―――強烈な憎悪とも受け取れる敵意。
これは、発信機だけではなく盗聴器も仕込まれていたか。
それを察しつつ、ルカはわざとらしく肩をすくめてみせた。
「何も言わずに、そんな顔を見せてくるってことは……オレの推測は大当たりか?」
「それを知って、なんの意味があるの?」
極寒零度を思わせる冷たい声。
普段の温厚な彼からは、とても想像がつかないものだった。
目の前に開くのは、奈落への片道路線。
しかしこちらとしては、そこに踏み込む気は皆無なので……
「確かに、意味はねぇな。前も言ったが、別に深く突っ込むつもりはない。お前がオレとおんなじ、復讐を心に決めた奴だっていう事実だけでいい。」
「そう……」
ジョーはそう呟くだけ。
はっきりと〝復讐〟という単語を突きつけてみたのだが、それを否定しなかった。
まあ、当たり前か。
こんな風に堂々と待っていたあたり、自分の前では余計な仮面を被るのをやめたようだから。
「やっぱり君は、キリハ君以上に見所がある子だよ。僕が手を出さないギリギリを攻めてくるんだからさ。」
「そりゃあな。オレだって自分が可愛いし、そもそもお前と敵対したいわけじゃねぇから。」
降参とでも言わんばかりに諸手を挙げ、ルカはひらひらと手を振る。
ちょっと頭が回れば、こいつを敵にする手が一番の愚策であることは、誰だって分かるだろう。
眠れる獅子は、叩き起こさずに眠らせておくに限る。
しかし、その獅子が敵サイドに興味を示している今、好きに遊ばせておくのもまた愚策。
ならばもっといい餌をぶら下げて、獅子の興味をこちら側に引かなければならない。
そして、このプライドの高い獅子が相手をするのは、己が対等に渡り合ってもいいと認めた人間のみ。
運がいいことに、自分は出会った最初からそのお眼鏡にかなっている。
自分がターゲットを彼に絞ったのは、そういった理由があってのことだ。
キリハと並び立てるこの最強のジョーカーを、自分は自分の目的のために有効活用させてもらう。
「僕は、利用されるのが大嫌いなんだよね。」
「言われなくても分かってるさ。だからあくまでも、判断はお前に委ねるつもりだ。ここからは、また新しい取引だな。」
「取引、ねぇ……」
「ああ。」
言葉を重ねるほどに、ジョーの全身から漂う冷気が温度を下げていく。
ルカは思わず苦笑した。
「そんな怖ぇ顔すんなよ。化けの皮を剥がしてくれてる今のうちに訊いとくが……さっきの話を聞いて面白そうだと思ったから、わざわざここで待ってたんじゃねぇのか? オレの言うとおり、いい仕返し方法だろ?」
「………」
その瞬間、ジョーの瞳に宿る苛烈さが増す。
仮面を外すと、案外分かりやすい奴なんだな。
思わずそう言いかけて、寸でのところでそれを飲み込む。
「先に言っておくが、オレは別にお前の上に立とうとは思ってない。オレも他よりは頭が回る方だとは思ってるけど、知恵や戦略でお前に勝てるわけがねぇからな。」
「そりゃどうも。この僕を飼い慣らそうなんて……馬鹿な凡人どもみたいな発想は持ってないようで安心したよ。」
「馬鹿な凡人ども……なかなか、物言いが痛烈だな。だけど、嫌いじゃねぇぜ。むしろ、その意見には完全に同意するわ。」
ルカは笑いながら、肩に下げていた鞄の中に手を入れる。
「そういうわけだ。お前がこっち側につくって決めてくれりゃ、それ以降の主導権はお前に渡すよ。オレのことは、お前の手駒として都合よく使え。便利に動いてやる。」
そう告げたルカは、鞄からとある物を取り出した。
「とりあえず、わざわざここまで来てくれた礼だ。―――これ、なんだと思う?」
「………っ!!」
大きく目を見開くジョー。
そんな彼に、見せつけたそれを放り投げてやる。
「交渉は改めて、役者が揃ってからやるとしようぜ。いい答えを期待してるから―――よくよく考えといてくれ。」
それとなくジョーを押しやり、車の運転席に身を滑らせる。
そして彼をその場に置いたまま、エンジンをかけて車を発進させた。
「………」
ぽつんと一人。
オレンジ色の光で照らされる空間に取り残されたジョーは、無言のまま、自分の手に収まったそれを睨みつけていた。
0
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説
世界の十字路
時雨青葉
ファンタジー
転校生のとある言葉から、日常は非日常に変わっていく―――
ある時から謎の夢に悩まされるようになった実。
覚えているのは、目が覚める前に響く「だめだ!!」という父親の声だけ。
自分の見ている夢は、一体何を示しているのか?
思い悩む中、悪夢は確実に現実を浸食していき―――
「お前は、確実に向こうの人間だよ。」
転校生が告げた言葉の意味は?
異世界転移系ファンタジー、堂々開幕!!
※鬱々としすぎているわけではありませんが、少しばかりダーク寄りな内容となりますので、ご了承のうえお読みください。
魔力ゼロの異世界転移者からちょっとだけ譲り受けた魔力は、意外と最強でした
淑女
ファンタジー
とあるパーティーの落ちこぼれの花梨は一人の世界転移者に恋をして。その彼・西尾と一緒にパーティーを追放される。
二年後。花梨は西尾の下で修行して強くなる。
ーー花梨はゲームにもはまっていた。
何故ならパーティーを追放された時に花梨が原因で、西尾は自身のとある指輪を売ってしまって、ゲームの景品の中にそのとある指輪があったからだ。
花梨はその指輪を取り戻し婚約指輪として、西尾へプレゼントしようと考えていた。
ある日。花梨は、自身を追放したパーティーのリーダーの戦斧と出会いーー戦斧はボロ負け。
戦斧は花梨への復讐を誓う。
それがきっかけで戦斧は絶体絶命の危機へ。
その時、花梨はーーーー
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
【完結】婚活に疲れた救急医まだ見ぬ未来の嫁ちゃんを求めて異世界へ行く
川原源明
ファンタジー
伊東誠明(いとうまさあき)35歳
都内の大学病院で救命救急センターで医師として働いていた。仕事は順風満帆だが、プライベートを満たすために始めた婚活も運命の女性を見つけることが出来ないまま5年の月日が流れた。
そんな時、久しぶりに命の恩人であり、医師としての師匠でもある秋津先生を見かけ「良い人を紹介してください」と伝えたが、良い答えは貰えなかった。
自分が居る救命救急センターの看護主任をしている萩原さんに相談してみてはと言われ、職場に戻った誠明はすぐに萩原さんに相談すると、仕事後によく当たるという占いに行くことになった。
終業後、萩原さんと共に占いの館を目指していると、萩原さんから不思議な事を聞いた。「何か深い悩みを抱えてない限りたどり着けないとい」という、不安な気持ちになりつつも、占いの館にたどり着いた。
占い師の老婆から、運命の相手は日本に居ないと告げられ、国際結婚!?とワクワクするような答えが返ってきた。色々旅支度をしたうえで、3日後再度占いの館に来るように指示された。
誠明は、どんな辺境の地に行っても困らないように、キャンプ道具などの道具から、食材、手術道具、薬等買える物をすべてそろえてた。
3日後占いの館を訪れると。占い師の老婆から思わぬことを言われた。国際結婚ではなく、異世界結婚だと判明し、行かなければ生涯独身が約束されると聞いて、迷わず行くという選択肢を取った。
異世界転移から始まる運命の嫁ちゃん探し、誠明は無事理想の嫁ちゃんを迎えることが出来るのか!?
異世界で、医師として活動しながら婚活する物語!
全90話+幕間予定 90話まで作成済み。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
魔術学院の最強剣士 〜初級魔術すら使えない無能と蔑まれましたが、剣を使えば世界最強なので問題ありません。というか既に世界を一つ救っています〜
八又ナガト
ファンタジー
魔術師としての実力で全ての地位が決まる世界で、才能がなく落ちこぼれとして扱われていたルーク。
しかしルークは異世界に召喚されたことをきっかけに、自らに剣士としての才能があることを知り、修練の末に人類最強の力を手に入れる。
魔王討伐後、契約に従い元の世界に帰還したルーク。
そこで彼はAランク魔物を棒切れ一つで両断したり、国内最強のSランク冒険者から師事されたり、騎士団相手に剣一つで無双したりなど、数々の名声を上げていく。
かつて落ちこぼれと蔑まれたルークは、その圧倒的な実力で最下層から成り上がっていく。
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
鬼神転生記~勇者として異世界転移したのに、呆気なく死にました。~
月見酒
ファンタジー
高校に入ってから距離を置いていた幼馴染4人と3年ぶりに下校することになった主人公、朝霧和也たち5人は、突然異世界へと転移してしまった。
目が覚め、目の前に立つ王女が泣きながら頼み込んできた。
「どうか、この世界を救ってください、勇者様!」
突然のことに混乱するなか、正義感の強い和也の幼馴染4人は勇者として魔王を倒すことに。
和也も言い返せないまま、勇者として頑張ることに。
訓練でゴブリン討伐していた勇者たちだったがアクシデントが起き幼馴染をかばった和也は命を落としてしまう。
「俺の人生も……これで終わり……か。せめて……エルフとダークエルフに会ってみたかったな……」
だが気がつけば、和也は転生していた。元いた世界で大人気だったゲームのアバターの姿で!?
================================================
一巻発売中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる