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第5章 動くそれぞれ
止まらない猜疑心
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ショッピングモールに向かい、メイアたちが選んだ店に入る。
好きなものを頼んでいいと言ったのに、二人は遠慮がちに、最低限のメニューでいかにバラエティー豊かに食べるかを話し合っていた。
本当に、心優しい子たちだ。
せっかくの機会なので、注文の時に二人が迷って諦めたものを追加で全部頼むことにした。
そんなに食べられないと申し訳なさそうにしていた二人だったが、いざ料理が運ばれてくると表情を一転。
無我夢中で料理を口に運んだ結果、大量の皿は見事に空っぽになった。
食事中も買い物中も、二人は孤児院や学校での話を楽しそうにしていた。
いつもなら微笑ましく感じるその話も、今は安らいで聞くことが叶わない。
結局我慢できず、二人にお小遣いを渡してゲームセンターへ送り出した。
その間に自分は、目立ちにくい場所にあるソファーに腰かけ、じっくりと考えにふける。
(……レクト。)
一人で抱えるにはきつくて、また彼を呼んでしまった。
「少しは落ち着いたか?」
数秒ほどの間を置いて、レクトの声が響いてくる。
それで、彼が先ほどまではこちらにリンクしていなかったことを察した。
(疲れるのに、何度もごめんね。その……シアノは大丈夫?)
「心配するな。今日も洞窟からは出さずに、私の傍にいさせている。ずっと、お前のことを心配しているよ。」
(そっか…。ごめんねって伝えといてくれる?)
「分かった。伝えておこう。それよりも、今は自分のことを考えろ。」
レクトの声が、途端に真剣味を帯びる。
「キリハ。悪いことは言わん。もう、このことを上に報告しろ。」
レクトはそう言ってきた。
「前にも言っただろう。犯人の存在を意識したことに気付かれた以上、要求はエスカレートしていくと。お前を騙って子供を呼び出すなど、人間の世界では十分に犯罪行為だろう。」
どうにか自分を説得しようと試みるレクトの声は、少しばかり説教じみている。
それ故に、彼が自分のことを本気で心配してくれているのが伝わる。
だけど、素直に頷くことはできなかった。
(でも……)
「キリハ!」
(だって!)
レクトの言葉を嫌がるように、キリハはぶんぶんと首を横に振る。
(俺が誰かに言ったら……口封じで、その人が殺されちゃうかもしれないんでしょ?)
あの言葉を聞いた時の恐怖が、自分の心に強くこびりついている。
「大丈夫だ。お前の仲間は、そんなに非力ではない。お前もお前の大事な人も、ちゃんと守ってくれるだろう。」
(楽観的に言わないで! さすがに、俺もそこまで馬鹿じゃないよ!!)
聞き逃してなんかいない。
自分が口封じの懸念を口にした瞬間、レクトが明らかに息をつまらせた。
それはつまり、彼も同じ危機感を抱いているということ。
それなのに、そこに蓋をしてそんなことを言うなんて。
レクトが自分の身を案じていることは分かるけど、今はただ、その優しさが不快で仕方なかった。
(ねぇ…。なんで、手紙の人は俺の休みを把握してるの?)
「それは、お前の部屋を監視しているからではないのか?」
(そんな話、俺の部屋ではやってない。)
レクトの予測を、キリハはきっぱりと否定。
(シアノが手紙を渡されたのが、大体二週間前でしょ? その三日くらい前に、この日を休みにするかもって話したよ。……ルカたちとだけね。その後は、ネットで申請を出しただけ。)
いつドラゴンが出現するとも限らない今。
予測システムがそれなりの精度を誇っているとはいえ、例外はつきものだ。
そのため、竜騎士隊とドラゴン殲滅部隊は、毎週末に二週間後の休みを決める。
有事の際に連絡口として部隊の一人は宮殿に残るよう、互いに都合を示し合わせた上で申請を出すのが常だ。
(それなのに、なんで俺がこの日に休むって分かるの? ……宮殿の中に、犯人か協力者がいるってことじゃないの?)
「お、おい……」
レクトの声に戸惑いが混じる。
それでも彼は、〝そんなことはない〟とは言わなかった。
ベルリッドの件で、初めて宮殿内部に疑念を抱いた。
そして、一度芽生えた猜疑心は止まらない。
あまりにも人が多い宮殿本部。
あの中で犯人を捜すのは無理がある。
任務がある手前、自分の部屋の前を常に見張っておくのも厳しいだろう。
別に、ディアラントやジョーを信用していないわけじゃないのだ。
だけど、彼らが手を尽くす前に犯人の悪意が誰かを襲ったら。
それが、彼らの大切な人だったら。
そう思うと、怖くてたまらない。
自分の身を切られるより、そっちの方がつらい。
「キリハ……」
もしかしたら、心の声には乗せていない感情も伝わっているのかもしれない。
レクトが、複雑そうな声音で呻いた。
自分は、どうしてレクトに八つ当たりじみた物言いをしているのだろう。
彼はただ、自分を心配してくれているだけなのに……
なんだか自分が情けなくなってきて、思わず奥歯を噛み締める。
その時―――
「こーら。そんな顔をしてたら、幸せが逃げていっちゃうぞ。」
つん、と。
優しく頬をつつかれた。
好きなものを頼んでいいと言ったのに、二人は遠慮がちに、最低限のメニューでいかにバラエティー豊かに食べるかを話し合っていた。
本当に、心優しい子たちだ。
せっかくの機会なので、注文の時に二人が迷って諦めたものを追加で全部頼むことにした。
そんなに食べられないと申し訳なさそうにしていた二人だったが、いざ料理が運ばれてくると表情を一転。
無我夢中で料理を口に運んだ結果、大量の皿は見事に空っぽになった。
食事中も買い物中も、二人は孤児院や学校での話を楽しそうにしていた。
いつもなら微笑ましく感じるその話も、今は安らいで聞くことが叶わない。
結局我慢できず、二人にお小遣いを渡してゲームセンターへ送り出した。
その間に自分は、目立ちにくい場所にあるソファーに腰かけ、じっくりと考えにふける。
(……レクト。)
一人で抱えるにはきつくて、また彼を呼んでしまった。
「少しは落ち着いたか?」
数秒ほどの間を置いて、レクトの声が響いてくる。
それで、彼が先ほどまではこちらにリンクしていなかったことを察した。
(疲れるのに、何度もごめんね。その……シアノは大丈夫?)
「心配するな。今日も洞窟からは出さずに、私の傍にいさせている。ずっと、お前のことを心配しているよ。」
(そっか…。ごめんねって伝えといてくれる?)
「分かった。伝えておこう。それよりも、今は自分のことを考えろ。」
レクトの声が、途端に真剣味を帯びる。
「キリハ。悪いことは言わん。もう、このことを上に報告しろ。」
レクトはそう言ってきた。
「前にも言っただろう。犯人の存在を意識したことに気付かれた以上、要求はエスカレートしていくと。お前を騙って子供を呼び出すなど、人間の世界では十分に犯罪行為だろう。」
どうにか自分を説得しようと試みるレクトの声は、少しばかり説教じみている。
それ故に、彼が自分のことを本気で心配してくれているのが伝わる。
だけど、素直に頷くことはできなかった。
(でも……)
「キリハ!」
(だって!)
レクトの言葉を嫌がるように、キリハはぶんぶんと首を横に振る。
(俺が誰かに言ったら……口封じで、その人が殺されちゃうかもしれないんでしょ?)
あの言葉を聞いた時の恐怖が、自分の心に強くこびりついている。
「大丈夫だ。お前の仲間は、そんなに非力ではない。お前もお前の大事な人も、ちゃんと守ってくれるだろう。」
(楽観的に言わないで! さすがに、俺もそこまで馬鹿じゃないよ!!)
聞き逃してなんかいない。
自分が口封じの懸念を口にした瞬間、レクトが明らかに息をつまらせた。
それはつまり、彼も同じ危機感を抱いているということ。
それなのに、そこに蓋をしてそんなことを言うなんて。
レクトが自分の身を案じていることは分かるけど、今はただ、その優しさが不快で仕方なかった。
(ねぇ…。なんで、手紙の人は俺の休みを把握してるの?)
「それは、お前の部屋を監視しているからではないのか?」
(そんな話、俺の部屋ではやってない。)
レクトの予測を、キリハはきっぱりと否定。
(シアノが手紙を渡されたのが、大体二週間前でしょ? その三日くらい前に、この日を休みにするかもって話したよ。……ルカたちとだけね。その後は、ネットで申請を出しただけ。)
いつドラゴンが出現するとも限らない今。
予測システムがそれなりの精度を誇っているとはいえ、例外はつきものだ。
そのため、竜騎士隊とドラゴン殲滅部隊は、毎週末に二週間後の休みを決める。
有事の際に連絡口として部隊の一人は宮殿に残るよう、互いに都合を示し合わせた上で申請を出すのが常だ。
(それなのに、なんで俺がこの日に休むって分かるの? ……宮殿の中に、犯人か協力者がいるってことじゃないの?)
「お、おい……」
レクトの声に戸惑いが混じる。
それでも彼は、〝そんなことはない〟とは言わなかった。
ベルリッドの件で、初めて宮殿内部に疑念を抱いた。
そして、一度芽生えた猜疑心は止まらない。
あまりにも人が多い宮殿本部。
あの中で犯人を捜すのは無理がある。
任務がある手前、自分の部屋の前を常に見張っておくのも厳しいだろう。
別に、ディアラントやジョーを信用していないわけじゃないのだ。
だけど、彼らが手を尽くす前に犯人の悪意が誰かを襲ったら。
それが、彼らの大切な人だったら。
そう思うと、怖くてたまらない。
自分の身を切られるより、そっちの方がつらい。
「キリハ……」
もしかしたら、心の声には乗せていない感情も伝わっているのかもしれない。
レクトが、複雑そうな声音で呻いた。
自分は、どうしてレクトに八つ当たりじみた物言いをしているのだろう。
彼はただ、自分を心配してくれているだけなのに……
なんだか自分が情けなくなってきて、思わず奥歯を噛み締める。
その時―――
「こーら。そんな顔をしてたら、幸せが逃げていっちゃうぞ。」
つん、と。
優しく頬をつつかれた。
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