竜焔の騎士

時雨青葉

文字の大きさ
上 下
330 / 598
第2章 300年前の真実

自身にあった新たな能力

しおりを挟む

 きっかけは、ささやかな悪意だった。


 たまたま散歩に出かけた先で、暢気のんきたわむれる子供のドラゴンと人間を見かけたのだ。


 リュドルフリアは、今日もユアンと空の旅に勤しんでいる。


 神経がささくれ立っていた私は―――つい、憎たらしい子供に冗談で牙を向けてみたのだ。


 結果としてそれは、とっさに私を攻撃した子ドラゴンに阻止されたが……その時に、人間の子供が私の血を被ってしまってな。


 それからだ。
 時おり、妙な映像を見るようになったのだ。


 不自然に低い視界。
 上を見上げると、優しく微笑んだ男女が両手を広げて自分を迎え入れてくれる。


 外に出れば、自分と同じ背丈の子供たちが呼びかけてくる。
 それに応えて、日が暮れるまで遊んだ。


 家に帰ったら、また両親と笑い合って。
 何かの拍子に見えた鏡には、見覚えのある子供の顔が映っていて……


 これは、まさかあの子供の視界か?


 疑問に思ったのでリュドルフリアに訪ねてみると、彼は珍しく言葉を濁した。


 どうやらリュドルフリアには、この視界の意味が分かっているようだ。
 そして、この力のからくりを表沙汰にはしたくないと見える。


 そういえば、とある時期からリュドルフリアは、人間に血を与えたがらなくなったな。


 これは―――何かある。


 確信した私は、この前の乱暴を詫びたいと偽って、子ドラゴンにあの子供を連れてこさせた。


 子供とは、かくも無邪気な生き物だな。
 私がちょっと謝ってやっただけで気を許して、友達の証だと言って血を渡せば、喜んでそれを飲み干した。


 これが―――ただの実験だとも知らずに。


 これは、二人だけの秘密。
 お前だけ特別だからと子供心に訴えると、子供は自ら口を閉ざした。


 そうして子供に血を与え続け、私はやがて、この能力の仕組みを知る。


 視覚の次は聴覚、その次は嗅覚と。
 与える血が多くなるほど、リンクする感覚が広がっていく。
 果てには、子供の体を自由に操れるほどにまで。


 何故だ。
 何故、こんなに便利な力を使わないのだ。


 これは、私たちが人間より格上である何よりの証拠ではないか。
 我が物顔でドラゴンにまたがる人間など血でじ伏せて、私たちが上であると思い知らせてやればいい。


 そう訴えた私に、リュドルフリアは切ない声で首を横に振った。


 われは、彼らと対等でありたいのだ。
 彼らを好き勝手に操って、彼らを傷つけるようなことはしたくない。


 そう語ったリュドルフリアは、ひどく頑なだった。


 私の言葉を聞き入れたくない。
 全身でそう語っていた。


 またなのか。




 ここでも彼は、私ではなく―――人間を優先するというのか。




 傷つけたくないだと?
 彼らは私たちに操られている自覚がないのだから、自分の仕業だと言わなければ、それで済む話ではないか。


 それなのにそう思うということは、混乱する人間を見て、お前が傷つくということか?




 それはやはり、竜使いと呼ばれ始めた彼らに―――ユアンの血を示す赤い瞳があるからなのか?




 そこまで思い至って、ようやく悟った。
 もはや彼は……人間が生きている限り、私が認めた神には戻らないのだと。




 ならば……ならば、人間など―――



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

4層世界の最下層、魔物の森で生き残る~生存率0.1%未満の試練~

TOYA
ファンタジー
~完結済み~ 「この世界のルールはとても残酷だ。10歳の洗礼の試練は避ける事が出来ないんだ」 この世界で大人になるには、10歳で必ず発生する洗礼の試練で生き残らなければならない。 その試練はこの世界の最下層、魔物の巣窟にたった一人で放り出される残酷な内容だった。 生存率は1%未満。大勢の子供たちは成す術も無く魔物に食い殺されて行く中、 生き延び、帰還する為の魔法を覚えなければならない。 だが……魔法には帰還する為の魔法の更に先が存在した。 それに気がついた主人公、ロフルはその先の魔法を習得すべく 帰還せず魔物の巣窟に残り、奮闘する。 いずれ同じこの地獄へと落ちてくる、妹弟を救うために。 ※あらすじは第一章の内容です。 ――― 本作品は小説家になろう様 カクヨム様でも連載しております。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

側妃ですか!? ありがとうございます!!

Ryo-k
ファンタジー
『側妃制度』 それは陛下のためにある制度では決してなかった。 ではだれのためにあるのか…… 「――ありがとうございます!!」

グライフトゥルム戦記~微笑みの軍師マティアスの救国戦略~

愛山雄町
ファンタジー
 エンデラント大陸最古の王国、グライフトゥルム王国の英雄の一人である、マティアス・フォン・ラウシェンバッハは転生者である。  彼は類い稀なる知力と予知能力を持つと言われるほどの先見性から、“知将マティアス”や“千里眼のマティアス”と呼ばれることになる。  彼は大陸最強の軍事国家ゾルダート帝国や狂信的な宗教国家レヒト法国の侵略に対し、優柔不断な国王や獅子身中の虫である大貴族の有形無形の妨害にあいながらも、旧態依然とした王国軍の近代化を図りつつ、敵国に対して謀略を仕掛け、危機的な状況を回避する。  しかし、宿敵である帝国には軍事と政治の天才が生まれ、更に謎の暗殺者集団“夜(ナハト)”や目的のためなら手段を選ばぬ魔導師集団“真理の探究者”など一筋縄ではいかぬ敵たちが次々と現れる。  そんな敵たちとの死闘に際しても、絶対の自信の表れとも言える余裕の笑みを浮かべながら策を献じたことから、“微笑みの軍師”とも呼ばれていた。  しかし、マティアスは日本での記憶を持った一般人に過ぎなかった。彼は情報分析とプレゼンテーション能力こそ、この世界の人間より優れていたものの、軍事に関する知識は小説や映画などから得たレベルのものしか持っていなかった。  更に彼は生まれつき身体が弱く、武術も魔導の才もないというハンディキャップを抱えていた。また、日本で得た知識を使った技術革新も、世界を崩壊させる危険な技術として封じられてしまう。  彼の代名詞である“微笑み”も単に苦し紛れの策に対する苦笑に過ぎなかった。  マティアスは愛する家族や仲間を守るため、大賢者とその配下の凄腕間者集団の力を借りつつ、優秀な友人たちと力を合わせて強大な敵と戦うことを決意する。  彼は情報の重要性を誰よりも重視し、巧みに情報を利用した謀略で敵を混乱させ、更に戦場では敵の意表を突く戦術を駆使して勝利に貢献していく……。 ■■■  あらすじにある通り、主人公にあるのは日本で得た中途半端な知識のみで、チートに類する卓越した能力はありません。基本的には政略・謀略・軍略といったシリアスな話が主となる予定で、恋愛要素は少なめ、ハーレム要素はもちろんありません。前半は裏方に徹して情報収集や情報操作を行うため、主人公が出てくる戦闘シーンはほとんどありません。 ■■■  小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+でも掲載しております。

家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。

3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。 そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!! こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!! 感想やご意見楽しみにしております! 尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。

処理中です...