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第2章 300年前の真実
自身にあった新たな能力
しおりを挟むきっかけは、ささやかな悪意だった。
たまたま散歩に出かけた先で、暢気に戯れる子供のドラゴンと人間を見かけたのだ。
リュドルフリアは、今日もユアンと空の旅に勤しんでいる。
神経がささくれ立っていた私は―――つい、憎たらしい子供に冗談で牙を向けてみたのだ。
結果としてそれは、とっさに私を攻撃した子ドラゴンに阻止されたが……その時に、人間の子供が私の血を被ってしまってな。
それからだ。
時おり、妙な映像を見るようになったのだ。
不自然に低い視界。
上を見上げると、優しく微笑んだ男女が両手を広げて自分を迎え入れてくれる。
外に出れば、自分と同じ背丈の子供たちが呼びかけてくる。
それに応えて、日が暮れるまで遊んだ。
家に帰ったら、また両親と笑い合って。
何かの拍子に見えた鏡には、見覚えのある子供の顔が映っていて……
これは、まさかあの子供の視界か?
疑問に思ったのでリュドルフリアに訪ねてみると、彼は珍しく言葉を濁した。
どうやらリュドルフリアには、この視界の意味が分かっているようだ。
そして、この力のからくりを表沙汰にはしたくないと見える。
そういえば、とある時期からリュドルフリアは、人間に血を与えたがらなくなったな。
これは―――何かある。
確信した私は、この前の乱暴を詫びたいと偽って、子ドラゴンにあの子供を連れてこさせた。
子供とは、かくも無邪気な生き物だな。
私がちょっと謝ってやっただけで気を許して、友達の証だと言って血を渡せば、喜んでそれを飲み干した。
これが―――ただの実験だとも知らずに。
これは、二人だけの秘密。
お前だけ特別だからと子供心に訴えると、子供は自ら口を閉ざした。
そうして子供に血を与え続け、私はやがて、この能力の仕組みを知る。
視覚の次は聴覚、その次は嗅覚と。
与える血が多くなるほど、リンクする感覚が広がっていく。
果てには、子供の体を自由に操れるほどにまで。
何故だ。
何故、こんなに便利な力を使わないのだ。
これは、私たちが人間より格上である何よりの証拠ではないか。
我が物顔でドラゴンに跨がる人間など血で捩じ伏せて、私たちが上であると思い知らせてやればいい。
そう訴えた私に、リュドルフリアは切ない声で首を横に振った。
我は、彼らと対等でありたいのだ。
彼らを好き勝手に操って、彼らを傷つけるようなことはしたくない。
そう語ったリュドルフリアは、ひどく頑なだった。
私の言葉を聞き入れたくない。
全身でそう語っていた。
またなのか。
ここでも彼は、私ではなく―――人間を優先するというのか。
傷つけたくないだと?
彼らは私たちに操られている自覚がないのだから、自分の仕業だと言わなければ、それで済む話ではないか。
それなのにそう思うということは、混乱する人間を見て、お前が傷つくということか?
それはやはり、竜使いと呼ばれ始めた彼らに―――ユアンの血を示す赤い瞳があるからなのか?
そこまで思い至って、ようやく悟った。
もはや彼は……人間が生きている限り、私が認めた神には戻らないのだと。
ならば……ならば、人間など―――
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