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第5章 背負う約束
新しい関係
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結果的にドラゴンは無事に討伐されたとはいえ、その代償は高くついた。
二ヶ月ぶりに目覚めたばかりだというのに、《焔乱舞》を使ったのだ。
当然体がついていけるはずもなく、キリハはその後、高熱を出して寝込む羽目になった。
キリハが目を覚ましたという一報は光速の勢いで広がり、しばらくの病室は見舞いの列が絶えなかった。
フールは長時間にわたってキリハにお説教。
サーシャやナスカは安堵のあまり大泣きで、ミゲルたちドラゴン殲滅部隊の人々はお祭り騒ぎ。
病室は常に賑やかで、キリハが休むどころではなかった。
しかしどんな態度だったとしても、皆がキリハの目覚めを喜んでいることには変わらない。
それを感じているキリハはいつも笑顔で、皆との触れ合いを楽しんでいた。
カレンの怪我も今後の生活に支障をきたすものではなく、すぐに歩けるようになるそうだ。
それを聞いた時には、皆が心底ほっとした。
ターニャは相変わらずマスコミなどの処理に手を焼いているようだが、どうにかねじ伏せると断言していた。
その苦労を思って申し訳なさそうなキリハだったが、他方で彼は、何をしても注目されるなら仕方ないと、マスコミの騒ぎようを割り切った様子だった。
そんなこんなで日々は忙しくも穏やかに過ぎ、数日ほどの時が流れた。
「あの馬鹿はどこ行ったー!?」
束の間の平和に浸る宮殿に、怒号の雷が落ちる。
怒鳴った張本人であるルカは廊下を大股で歩き、まるで般若のような形相で、目につくドアを片っ端から開けまくっていた。
「キリハー?」
「キリハさーん!」
「どこっすかー?」
ルカの周りでは、即席の捜索隊がキリハを捜してうろうろしている。
あれほど医者の許可が下りるまでは安静にしていろと言われていたはずなのに、今日顔を出してみればこれである。
風呂か何かだろうと二十分ほど待ち、おかしいと思い始めて周囲を捜したが見当たらず。
担当の看護師がキリハの行方を知らないと言った瞬間、ルカの怒りは沸点を超えていた。
「あの馬鹿が行きそうな所……」
ぶつぶつ呟きながらルカは廊下を歩く。
景色として流していたドアの一つが開いたのは、その時のことだった。
「あれー? ルカー?」
背後から声をかけられ、ルカは勢いよく振り返る。
捜していた人物は、タオルを片手に暢気な様子で汗を拭いていた。
その仕草と、腰に下がる《焔乱舞》。
そして彼が出てきた部屋は、シミュレート室。
以上の観点から、キリハが今まで何をしていたかは一目瞭然だ。
ルカの中で、本日二度目の臨界点突破が起こる。
「おーまーえーはー…っ」
その口から、地を這うような声が漏れる。
「え!? な、何!?」
対するキリハは全く事態を把握していないのか、ルカの怒りオーラに戸惑っている様子。
そんなキリハの様子が、ルカの神経をさらに逆なでする。
「―――っ! 来い!!」
問答無用でキリハの首根っこを掴み、ルカはキリハを引きずって元来た道を引き返し始めた。
「え!? どこ行くの?」
「病室に決まってるだろう!」
「ええーっ!!」
「黙れ、馬鹿猿! お前は、人の話を聞くってことを知らないのか!? 安静にしていろと言われてただろうが! ベッドにくくりつけるぞ!?」
「だ、だって…っ。昨日先生が、そろそろリハビリを始めようって……」
「リハビリってのは、いきなりシミュレート室で焔をぶっ放せって意味じゃねぇよ!!」
キリハに遠慮なしの怒声を浴びせるルカ。
当然のことながら、そんな風に騒ぎながら歩く二人は非常に目立った。
「おーおー、またキリハがルカ君に怒鳴られてるよ。」
「ありゃ、完全に保護者だな。」
「ルカお兄さーん。ちゃんとキリハの監督してなきゃだめじゃーん。」
「こんっな手のかかる奴のおもりを引き受けた覚えはないぞ!?」
ルカは冷やかしてくる連中にまで、律儀に怒号を飛ばす。
(くそ…っ。なんでこんなことに…っ)
そんなことを思いながら、ルカは不機嫌さを全身から滲ませて、キリハを病室へと連行するのであった。
二ヶ月ぶりに目覚めたばかりだというのに、《焔乱舞》を使ったのだ。
当然体がついていけるはずもなく、キリハはその後、高熱を出して寝込む羽目になった。
キリハが目を覚ましたという一報は光速の勢いで広がり、しばらくの病室は見舞いの列が絶えなかった。
フールは長時間にわたってキリハにお説教。
サーシャやナスカは安堵のあまり大泣きで、ミゲルたちドラゴン殲滅部隊の人々はお祭り騒ぎ。
病室は常に賑やかで、キリハが休むどころではなかった。
しかしどんな態度だったとしても、皆がキリハの目覚めを喜んでいることには変わらない。
それを感じているキリハはいつも笑顔で、皆との触れ合いを楽しんでいた。
カレンの怪我も今後の生活に支障をきたすものではなく、すぐに歩けるようになるそうだ。
それを聞いた時には、皆が心底ほっとした。
ターニャは相変わらずマスコミなどの処理に手を焼いているようだが、どうにかねじ伏せると断言していた。
その苦労を思って申し訳なさそうなキリハだったが、他方で彼は、何をしても注目されるなら仕方ないと、マスコミの騒ぎようを割り切った様子だった。
そんなこんなで日々は忙しくも穏やかに過ぎ、数日ほどの時が流れた。
「あの馬鹿はどこ行ったー!?」
束の間の平和に浸る宮殿に、怒号の雷が落ちる。
怒鳴った張本人であるルカは廊下を大股で歩き、まるで般若のような形相で、目につくドアを片っ端から開けまくっていた。
「キリハー?」
「キリハさーん!」
「どこっすかー?」
ルカの周りでは、即席の捜索隊がキリハを捜してうろうろしている。
あれほど医者の許可が下りるまでは安静にしていろと言われていたはずなのに、今日顔を出してみればこれである。
風呂か何かだろうと二十分ほど待ち、おかしいと思い始めて周囲を捜したが見当たらず。
担当の看護師がキリハの行方を知らないと言った瞬間、ルカの怒りは沸点を超えていた。
「あの馬鹿が行きそうな所……」
ぶつぶつ呟きながらルカは廊下を歩く。
景色として流していたドアの一つが開いたのは、その時のことだった。
「あれー? ルカー?」
背後から声をかけられ、ルカは勢いよく振り返る。
捜していた人物は、タオルを片手に暢気な様子で汗を拭いていた。
その仕草と、腰に下がる《焔乱舞》。
そして彼が出てきた部屋は、シミュレート室。
以上の観点から、キリハが今まで何をしていたかは一目瞭然だ。
ルカの中で、本日二度目の臨界点突破が起こる。
「おーまーえーはー…っ」
その口から、地を這うような声が漏れる。
「え!? な、何!?」
対するキリハは全く事態を把握していないのか、ルカの怒りオーラに戸惑っている様子。
そんなキリハの様子が、ルカの神経をさらに逆なでする。
「―――っ! 来い!!」
問答無用でキリハの首根っこを掴み、ルカはキリハを引きずって元来た道を引き返し始めた。
「え!? どこ行くの?」
「病室に決まってるだろう!」
「ええーっ!!」
「黙れ、馬鹿猿! お前は、人の話を聞くってことを知らないのか!? 安静にしていろと言われてただろうが! ベッドにくくりつけるぞ!?」
「だ、だって…っ。昨日先生が、そろそろリハビリを始めようって……」
「リハビリってのは、いきなりシミュレート室で焔をぶっ放せって意味じゃねぇよ!!」
キリハに遠慮なしの怒声を浴びせるルカ。
当然のことながら、そんな風に騒ぎながら歩く二人は非常に目立った。
「おーおー、またキリハがルカ君に怒鳴られてるよ。」
「ありゃ、完全に保護者だな。」
「ルカお兄さーん。ちゃんとキリハの監督してなきゃだめじゃーん。」
「こんっな手のかかる奴のおもりを引き受けた覚えはないぞ!?」
ルカは冷やかしてくる連中にまで、律儀に怒号を飛ばす。
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