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第1章 温度差
変だよね。
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パーカーのフードを深く被り、ばれたら怒られるかもしれないけど、《焔乱舞》は置いていくことに。
人通りが多く、注目度も高い正門と大通りに面した門は避け、気象部側にある、業者しか使わない搬入口からこっそり外へ出た。
後は誰かに捕まらないことを祈りながら周囲を警戒しつつ、周りから浮いてしまわないように自然体を意識して歩く。
「……何やってんだろ、俺。」
感想はこれだ。
テレビでたまに、カメラに向かって罵声を浴びせる芸能人とかを見かけるが、今ならその気持ちが理解できるかもしれない。
「あーあ、空気になりたい。」
非現実的なことを本気で願う自分がいる。
だがこれも、願うだけ無駄なのだろう。
その証拠に。
「無理だよぉ。」
「キーちゃん、有名になっちゃったもん。」
「ニュースでよく見るからね。そりゃ、野次馬も来るって。」
横から。
上から。
そんな声が飛んでくる。
「そういうみんなも、珍しいもの見たさで来てるじゃんかぁ……」
座っていたベンチから勢いよく立ち上がり、キリハは自分を囲んでいた少年少女を半目で見下ろす。
制服に身を包んでいる彼らは、中央区に住む竜使いの子供たちである。
今までは数えるほどしか顔を合わせていなかったのだが、ここ最近よくこの公園に訪れるようになり、急速に距離が縮んだ。
「そんなこと言ってもさ、中学生にもなっちゃうと公園なんて行かないし。キーちゃんみたいに、子供と遊んだりしないし。部活だってあるもん。」
「どっちかっていうと、変なのはキリハ君じゃないの?」
「え、そうなの……かな?」
都会では、それが普通なのだろうか。
自分は中学校には行っていなかったし、子供の相手をするのも日常的だったので、彼らの言葉を否定する材料がない。
だが、彼らが何度も頷いているのを見ると、この場においての少数派は自分なのだろう。
そういえば、レイミヤに帰省してきたディアラントが、都会の常識にはついていけないと嘆いていたことがあった気がする。
「まあいいや。それにしても……」
キリハはフードを少しだけ上げて、周囲をくるくると見回す。
「やっぱ中央区だと、俺を追っかけてくる人もいないのかな。」
宮殿から中央区のこの公園に行き着くまで、奇跡的に誰にも気づかれずに済んだ。
何人かの顔見知りとは少し話をしたが、それも日常的な範囲を超えないものだった。
見渡す限り、この辺りにはマスコミ関係者もいないようだ。
やはり竜使いの街である中央区には、マスコミもおいそれと入ってこないのだろう。
それにほっとする反面、複雑な気持ちにもなる。
しかし。
「多分、今だけだよ。」
さっきまでとは打って変わった冷たい声が、一人の少女の口から漏れた。
「あそこのコンビニの駐車場。」
そっと囁かれ、フードの隙間から指示された方向を盗み見る。
公園向かいの道の角に、一軒のコンビニがある。
そのコンビニの駐車場はここからは陰になっていて見えないが、その陰からこちらの様子をちらちらと窺っている人たちがいた。
「あれは……」
「同じ中学の子。フード、取らない方がいいよ。あいつら、カメラ持ってると思うから。」
固い声で、少女は答えた。
「中学で噂になってるの。キーちゃんが、よくここに来てるって。私たちに声をかけたくないからって、ああやってこっそり追いかけてきたみたい。……変だよね。なんかムカつく。」
少女を始め、自分を囲んでいた他の子供たちも、不快そうな表情で同級生を睨んでいる。
もしかして、彼らが最近になってよくまとわりつくようになったのは、ああいう同級生たちへの牽制の意味があったのだろうか。
彼らなりの気遣いに嬉しくもなったが、それ以上に気分が沈んでしまった。
睨み合う少年少女の姿。
そこから窺い知れるのは、彼らの間に存在する底の見えない深く広い溝だ。
中学生の時点で、竜使いへの差別的態度はここまで完成している。
そう実感するには、十分すぎる光景だった。
険悪な空気に思わず目を伏せる。
するとその拍子に、つぶらな双眸と目が合った。
人通りが多く、注目度も高い正門と大通りに面した門は避け、気象部側にある、業者しか使わない搬入口からこっそり外へ出た。
後は誰かに捕まらないことを祈りながら周囲を警戒しつつ、周りから浮いてしまわないように自然体を意識して歩く。
「……何やってんだろ、俺。」
感想はこれだ。
テレビでたまに、カメラに向かって罵声を浴びせる芸能人とかを見かけるが、今ならその気持ちが理解できるかもしれない。
「あーあ、空気になりたい。」
非現実的なことを本気で願う自分がいる。
だがこれも、願うだけ無駄なのだろう。
その証拠に。
「無理だよぉ。」
「キーちゃん、有名になっちゃったもん。」
「ニュースでよく見るからね。そりゃ、野次馬も来るって。」
横から。
上から。
そんな声が飛んでくる。
「そういうみんなも、珍しいもの見たさで来てるじゃんかぁ……」
座っていたベンチから勢いよく立ち上がり、キリハは自分を囲んでいた少年少女を半目で見下ろす。
制服に身を包んでいる彼らは、中央区に住む竜使いの子供たちである。
今までは数えるほどしか顔を合わせていなかったのだが、ここ最近よくこの公園に訪れるようになり、急速に距離が縮んだ。
「そんなこと言ってもさ、中学生にもなっちゃうと公園なんて行かないし。キーちゃんみたいに、子供と遊んだりしないし。部活だってあるもん。」
「どっちかっていうと、変なのはキリハ君じゃないの?」
「え、そうなの……かな?」
都会では、それが普通なのだろうか。
自分は中学校には行っていなかったし、子供の相手をするのも日常的だったので、彼らの言葉を否定する材料がない。
だが、彼らが何度も頷いているのを見ると、この場においての少数派は自分なのだろう。
そういえば、レイミヤに帰省してきたディアラントが、都会の常識にはついていけないと嘆いていたことがあった気がする。
「まあいいや。それにしても……」
キリハはフードを少しだけ上げて、周囲をくるくると見回す。
「やっぱ中央区だと、俺を追っかけてくる人もいないのかな。」
宮殿から中央区のこの公園に行き着くまで、奇跡的に誰にも気づかれずに済んだ。
何人かの顔見知りとは少し話をしたが、それも日常的な範囲を超えないものだった。
見渡す限り、この辺りにはマスコミ関係者もいないようだ。
やはり竜使いの街である中央区には、マスコミもおいそれと入ってこないのだろう。
それにほっとする反面、複雑な気持ちにもなる。
しかし。
「多分、今だけだよ。」
さっきまでとは打って変わった冷たい声が、一人の少女の口から漏れた。
「あそこのコンビニの駐車場。」
そっと囁かれ、フードの隙間から指示された方向を盗み見る。
公園向かいの道の角に、一軒のコンビニがある。
そのコンビニの駐車場はここからは陰になっていて見えないが、その陰からこちらの様子をちらちらと窺っている人たちがいた。
「あれは……」
「同じ中学の子。フード、取らない方がいいよ。あいつら、カメラ持ってると思うから。」
固い声で、少女は答えた。
「中学で噂になってるの。キーちゃんが、よくここに来てるって。私たちに声をかけたくないからって、ああやってこっそり追いかけてきたみたい。……変だよね。なんかムカつく。」
少女を始め、自分を囲んでいた他の子供たちも、不快そうな表情で同級生を睨んでいる。
もしかして、彼らが最近になってよくまとわりつくようになったのは、ああいう同級生たちへの牽制の意味があったのだろうか。
彼らなりの気遣いに嬉しくもなったが、それ以上に気分が沈んでしまった。
睨み合う少年少女の姿。
そこから窺い知れるのは、彼らの間に存在する底の見えない深く広い溝だ。
中学生の時点で、竜使いへの差別的態度はここまで完成している。
そう実感するには、十分すぎる光景だった。
険悪な空気に思わず目を伏せる。
するとその拍子に、つぶらな双眸と目が合った。
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