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第4章 伝えられること
企みの含み笑い
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その翌日。
日曜日であるその日も、キリハは何やら朝から忙しそうにしていた。
朝食を驚くべき速さで平らげ、荷物の準備をしながらあちこちを行ったり来たり……
「……なんだ、あの気持ち悪い生き物は。」
「さあ?」
怪訝深そうなルカに、カレンが肩をすくめる。
彼らが不審そうに見つめる中、出かける用意が整ったらしいキリハは、重そうなリュックサックを背負った。
「キリハ、なんか楽しそうだね。」
改めて忘れ物の有無を確認しているキリハに、サーシャが声をかける。
「あ…。サーシャ、おはよう。」
今さらのように挨拶をしてくるキリハは、サーシャが指摘したように少し浮ついた様子だった。
「どうかしたの?」
「んー、まあちょっとね。」
キリハは、はぐらかすように笑うだけ。
それに嫌な予感を察知したのか、途端にルカがキリハの行く手を阻むように立ち塞がった。
「お前、何を企んでる?」
「色々と。俺が何を企んでても、ルカには関係ないでしょ? 今日はお休みなんだからさ。」
キリハはにやりと口の端を吊り上げた。
なんだかんだと転がしやすい奴だ。
こちらの狙いどおりに絡んできてくれるのだから助かる。
「気になるんなら、ついてこれば?」
挑むように言ってやる。
そしてキリハに挑発されたルカが、素直にキリハを送り出すわけがなかった。
結局ついてきたルカたち三人を引き連れてキリハが向かったのは、宮殿に一番近い駅だった。
「おっと、もう来てた。」
キリハが急に駆け出したのでその行く先を追ったルカたちは、そこにあった姿を見てそれぞれの表情に驚愕の色を浮かべた。
駅の改札前にはナスカと、ざっと十五、六人の子供たちがいたのだ。
「ごめん、遅くなっちゃった。」
「大丈夫よ。さっき着いたところだし、苦労してないから。」
ここまで引率してきたナスカは表情を和らげ、次に子供たちの方を見る。
「みんな初めて見るものばかりだからか、周りを見るのに夢中で大人しいしね。」
茫然と立ち尽くして周囲の景色に圧倒されている子供たちの姿を見て、ナスカとキリハはそれぞれ表情を和ませた。
「おーい。おーはーよー。」
キリハが手を振りながら、子供たち一人ひとりにそう呼びかける。
そうして声をかけ続けることしばし。
少しずつ、子供たちの目に興奮したような輝きが戻ってきた。
「すごーい。テレビで見たのとおんなじだぁ……」
「人がいっぱいいる!」
「あはは、すごいでしょ? 俺も、初めてここに来た時はびっくりしたもん。じゃ、色んな所に連れてってあげるから、ちゃんと俺とナスカ先生の言うことを聞いてね?」
「はーい!!」
「よし! じゃあ出発!!」
キリハが声を張り上げて言うと、子供たちは満面の笑顔でその後に続く。
子供たちの最後尾にナスカがつき、長い行進が始まった。
街中を行き交う人々。
連なる高いビル群。
装飾された街灯や街路樹。
賑やかなデパート。
そのどれもが、子供たちには新鮮で輝いて見えたことだろう。
子供たちの弾けんばかりの笑顔に、キリハとナスカは満足そうに笑い合った。
時々小休止を挟んで、子供たちの大行進は続く。
訳も分からずそれについていくことしかできなかったルカたちだったが、時間が経過するにつれて、その表情が明らかに強張っていった。
キリハたちは寄り道をしつつも、着実にある場所へと向かっていたからだ。
「おい!」
ルカが声を荒げる。
だが、青ざめた顔のルカに視線を向けたキリハは、ただにっこりと笑うだけだった。
日曜日であるその日も、キリハは何やら朝から忙しそうにしていた。
朝食を驚くべき速さで平らげ、荷物の準備をしながらあちこちを行ったり来たり……
「……なんだ、あの気持ち悪い生き物は。」
「さあ?」
怪訝深そうなルカに、カレンが肩をすくめる。
彼らが不審そうに見つめる中、出かける用意が整ったらしいキリハは、重そうなリュックサックを背負った。
「キリハ、なんか楽しそうだね。」
改めて忘れ物の有無を確認しているキリハに、サーシャが声をかける。
「あ…。サーシャ、おはよう。」
今さらのように挨拶をしてくるキリハは、サーシャが指摘したように少し浮ついた様子だった。
「どうかしたの?」
「んー、まあちょっとね。」
キリハは、はぐらかすように笑うだけ。
それに嫌な予感を察知したのか、途端にルカがキリハの行く手を阻むように立ち塞がった。
「お前、何を企んでる?」
「色々と。俺が何を企んでても、ルカには関係ないでしょ? 今日はお休みなんだからさ。」
キリハはにやりと口の端を吊り上げた。
なんだかんだと転がしやすい奴だ。
こちらの狙いどおりに絡んできてくれるのだから助かる。
「気になるんなら、ついてこれば?」
挑むように言ってやる。
そしてキリハに挑発されたルカが、素直にキリハを送り出すわけがなかった。
結局ついてきたルカたち三人を引き連れてキリハが向かったのは、宮殿に一番近い駅だった。
「おっと、もう来てた。」
キリハが急に駆け出したのでその行く先を追ったルカたちは、そこにあった姿を見てそれぞれの表情に驚愕の色を浮かべた。
駅の改札前にはナスカと、ざっと十五、六人の子供たちがいたのだ。
「ごめん、遅くなっちゃった。」
「大丈夫よ。さっき着いたところだし、苦労してないから。」
ここまで引率してきたナスカは表情を和らげ、次に子供たちの方を見る。
「みんな初めて見るものばかりだからか、周りを見るのに夢中で大人しいしね。」
茫然と立ち尽くして周囲の景色に圧倒されている子供たちの姿を見て、ナスカとキリハはそれぞれ表情を和ませた。
「おーい。おーはーよー。」
キリハが手を振りながら、子供たち一人ひとりにそう呼びかける。
そうして声をかけ続けることしばし。
少しずつ、子供たちの目に興奮したような輝きが戻ってきた。
「すごーい。テレビで見たのとおんなじだぁ……」
「人がいっぱいいる!」
「あはは、すごいでしょ? 俺も、初めてここに来た時はびっくりしたもん。じゃ、色んな所に連れてってあげるから、ちゃんと俺とナスカ先生の言うことを聞いてね?」
「はーい!!」
「よし! じゃあ出発!!」
キリハが声を張り上げて言うと、子供たちは満面の笑顔でその後に続く。
子供たちの最後尾にナスカがつき、長い行進が始まった。
街中を行き交う人々。
連なる高いビル群。
装飾された街灯や街路樹。
賑やかなデパート。
そのどれもが、子供たちには新鮮で輝いて見えたことだろう。
子供たちの弾けんばかりの笑顔に、キリハとナスカは満足そうに笑い合った。
時々小休止を挟んで、子供たちの大行進は続く。
訳も分からずそれについていくことしかできなかったルカたちだったが、時間が経過するにつれて、その表情が明らかに強張っていった。
キリハたちは寄り道をしつつも、着実にある場所へと向かっていたからだ。
「おい!」
ルカが声を荒げる。
だが、青ざめた顔のルカに視線を向けたキリハは、ただにっこりと笑うだけだった。
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