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ありがちな婚約破棄です。

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異世界……それは魔法と魔物の世界。

人はそれをファンタジーと呼ぶが、その世界で生きる者には死と隣り合わせの世界である。
ここは、異世界ファーランドといい、大陸の名はアースガルドという。

このアースガルドには幾つかの国があり、大陸の1番北にあるミスリル王国は他の国より一回り大きく、良質な鉱石が取れる山脈があり、南側には穀物地帯の麦畑が永遠と続いている豊かな国であった。そして、様々な種族が暮らしていた。美しい容姿の者が多いエルフ、鍛冶を得意とするドワーフ。強靭な肉体を持つ獣人族などいたが、いつの頃か【人間】が1番多くなり、他の種族の少数は腕を買われてその土地に暮らしたが、大勢の種族は北の大樹海へと追い立てられた。

そんな時代で、ミスリル王国に4つしかない公爵家の1つに、少し変わった令嬢が誕生した。その名は、シオン・クロスベルジュ令嬢である。クロスベルジュ公爵長女という立場から、注目されたが幼い頃から不思議な知恵を持っており、【一時は】神童や聖女と呼ばれた。しかし、弱き者を助け悪しき者を滅するという極端な考えの為、幼い頃から膨大な魔力を使い盗賊を1人で倒してきた。公爵家長女という肩書きがあるものの、魔力を込めた一撃の拳は岩をも砕き、魔物や悪徳貴族をも沈めてきた事から【虐殺姫】(マーダープリンセス)と呼ばれる様になった。


その膨大な魔力を国防に活かそうと、国王はミスリル王国の第1王子の婚約者として任命した。

しかし、クロスベルジュ公爵家はそれを拒否し、あくまでも【婚約者候補】として、名前を載せたのだった。シオンは黙って入れば薄い銀髪の絶世の美少女なのである。
………その髪を真っ赤に染めても、見とれてしまう美しさがあった。

そして15歳になり、あるパーティー会場にて─

「シオン・クロスベルジュ公爵令嬢!もう我慢の限界だ!貴様との婚約を破棄させてもらう!」

このミスリル王国の第1王子であるレオン・ミスリルはパーティーの最中に、高らかに宣言した!

「あら?どういう事でしょうか?レオン王子?」

まるでわかっていない風に首を傾げて尋ねるシオンに、クソッ!可愛いなオイッ!………ではなく、レオン王子はもう一度突き付けた。

「貴様との婚約を破棄させてもらう!」

シオンはまたまた首を傾げて聞き返した。

「あら?婚約者でしたの???まったく知りませんでしたわ?」

!?

シオンはレオン王子に婚約者であると言われたが、レオン王子はシオンの2つ名である虐殺姫【マーダープリンセス】の名前を恐れて、今まで1度もクロスベルジュ公爵家を尋ねた事もプレゼントを送った事も無かったのだ。無論、パーティーのエスコートもしたことがなかった。

「いつから婚約者でしたの?」

まったく意識されていなかったシオンの反応に、逆に頭に血の上ったレオン王子は大声で唾を飛ばしながら叫ぶ様に言い放った!

「我が父、国王が5歳の時に決めただろうが!王命だったはずだぞ!」

シオンは微笑みながら答えた。

「申し訳ありません。その件はすでにお断りしておりますが?」

「はっ?」

間抜けな声を出すレオン王子にシオンは続けた。

「余りにも国王様がうるさいので、【婚約者候補】として名前だけ残したのですよ?そして万が一……億が一でも、私と貴方が好意を寄せれば正式な婚約者にすると譲歩したのです」

レオン王子は口をパクパクさせて、何も声を出せなかった。

「ちなみに、貴方は私を婚約者と思っていたのですよね?その婚約者を放って置いて、エスコートも今まで1度もしたことも無いですし、プレゼントも貰った事も無いですよ?さらに、我がクロスベルジュ公爵家に足を運んだ事もないではないですか?それで良く婚約者だと言えますね???」

シオンの告白に、周囲の目が冷たくなるのが雰囲気でわかった。一国の王子が、王公貴族としての余りにもあり得ない行動に視線もキツくなる。確かに、貴族との婚姻は戦略結婚が多いが、体裁を気にする貴族は、好意を寄せていなくても義務とも言える婚約者へのプレゼントやエスコートは当たり前なのだ。その義務すら果たさない王子を持ち上げる貴族はいるだろうか?

「それに、今回のパーティーで初めてお会いした方に婚約者破棄と言われても困りますわ?」

ここでパーティーに集まった周りの貴族達も?となった。

「初めてではないだろう!嘘をつくな!!!」

「では、いつ、どこで、お会いしましたか?」

!?

必死に思い出そうとするが、思い出せない………何故だ!?

これには訳があった。ご都合主義である魔法とかではなく、シオンはその美貌に比例しない【虐殺姫】としての名前と、姿絵が国中に出回っていて、いつでも目に付いてしまうのだ。

ほらドラゴンを倒したやら、ほら悪徳貴族を潰したやら話題に事欠かない人物であり、シオンがパーティーに出席すると、後ろめたい事情のある貴族が恐れて出席を断るため、シオンはほとんどお茶会や夜会などに出たことが無かったのだ。まぁ、本人はめんどくさいと思っており、魔物退治などの方が好きな脳筋のため問題は無かったが。

そのせいで皆、先入観でどこかで見かけたと錯覚してしまったのだ。姿絵でしか見たことが無くてもパーティー会場で、シオン令嬢がまたやらかした、盗賊を倒したなどと話題になれば、前回のパーティーでシオン令嬢を見かけたと思っても仕方がないのだ。

「お分かりになられましたか?」

シオンにダメ出しをされて、力なくうなだれるレオン王子にちょうど良いタイミングで、国王様と王妃様、そして私の父と母がやってきた。

「何の騒ぎだ!これは!!!」

パーティー会場の騒ぎに、威厳ある声が響いた。

「はい!わたくし、シオン・クロスベルジュがレオン王子に【婚約破棄】されました。どういうことでしょうね?」

「なんだと!?」

「おや、国王陛下?いつの間にシオンはレオン王子の婚約者になったのですかな?」

「あ、いや……婚約者候補と常々、言ってあったのだが?」

国王も自分の息子がこんなバカをやらかすとは思ってもいなく、困惑していた。確かにレオンは余り出来の良い息子では無いが、遊び好きではないし、勉学や剣術も及第点のレベルはあるのだ。ただ気が弱く、押しに弱い所があるため、周囲に流されない様に、レオンを支えられる気の強い王妃が必要と考えていたのだ。故に婚約者候補と言っていたが、最有力として伝えていたのが裏目に出た様だ。

「こんなバカ王子の相手はしていられないな。国王陛下、正式にシオンを婚約者候補からも外して頂きますぞ!」

苦虫を噛んだ様な顔で国王も頷く事しか出来なかった。そして後日、正式な御詫びと賠償金を支払うことでその場を御開きにしたのだった。


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