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断罪劇の行方───

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ここは、とある王国にある魔法学園のダンスパーティーの一幕である。

王国の第一王子であるレオン王子【達】が婚約者である公爵令嬢シオン・フレイムハートを断罪する出来事が起こった。

何でも平民である少女に酷い嫌がらせをしていて、更に階段から突き落としたというのだ。









「私はそんな事はやっておりません!このような行いは許しませんわ!」

レオン王子が騎士に命じて、シオンは押さえ付けられていた。
一介の騎士が公爵令嬢を床に押さえ付けるなどと余程の事がない限り騎士道精神に反している。如何に第一王子の命令だとしてもだ。
しかし、騎士は王子の近衛兵であり、しっかりと命令に忠実であった。

シオンは地面に押さえ付けられていても、実はまだ余裕があった。

すでに婚約者であった第一王子を見限り、この後の事を考えていたのだ。父親である公爵が助けてくれると。

だが、その前にこの騒ぎの元凶を睨みつけた!

ビクッ!

睨み付けた女狐…………いや、魔女と言えばいいのか、マリアと言う少女は震えて怖がった。

「おいっ!シオン!マリアを睨み付けるなっ!怖がっているだろう!」

何が怖がっているですって?あのわざとらしい演技がわからないの?
この私をここまでコケにして後悔させてあげますわ!

「貴方達こそ、あの女の演技がわからないのですかっ!そんなのは嘘泣きに決まっています!」

そんなシオンの叫びを三人は鼻で嘲笑った。

「この期に及んで見苦しいですよ?」
「あ~あ、こんなヤツが国母にならなくて本当に良かったぜっ!」


三人は言いたい放題言ってシオンを馬鹿にした。

『このバカ共は1人の女性を守る騎士のように格好を付けていますわ…………』

シオンはそんな三人を見てゲンナリした。
無駄にポーズを付けている三人に押さえられている事も忘れて頭が痛かった。

ふと、マリアと言う諸悪の根源に視線をやると──

ニヤリッ

下を向いて震えている口元が嘲笑ったのが見えた。

……………本当に腹ただしいですわね。

あの女狐は学園に入学してきてからムカツク事ばかりでしたわ。

シオンは、マリアが学園に転入してきた時を思い出していた。

あの女狐であるマリアが転入してきてから運命が狂い始めたのですわ。

今思えば全て計算されていたのでしょう。

転校日の初日にレオン王子と一緒になった所から計画的だったのだと、今ならわかりますわ。

前に聞いた話だと、転校初日にレオン王子ぶつかって知り合ったとか。

当初はレオン王子と親密な関係になりたくて近付いたと思ったのだけれど、それに対してガミガミと叱ってしまったのが私達の関係にヒビを入れてしまった事は私も反省すべき点でした。

ただ、レオン王子以外の高位貴族達も落していくとは予想してませんでしたわ。

そのせいで後手廻ってしまい、気付いた時にはもう遅かった。

貴族の女子達から孤立しており、マリアを擁護する事も無理だった。

特に貴族の女子で騎士団長の子息アレクと宰相の息子カインの婚約者達の突き上げが酷く、シオンは抑えるのに苦労した。


「「シオン様も、婚約者を取られて悔しくないのですかっ!!!」」


まったく、わかっているわよ!
誰が苦労して調整してきたと思っているのよ!?

ブチッ!

そんな過去を思い出して、シオンの中で何かが切れる音がした。

魔力を肉体強化に使い、抑え付けていた騎士を吹き飛ばした。


「ブチ切れましたわ!」


ゴゴゴゴッと、全身に魔力を纏わせてパーティ会場を震わせた。
そしてシオンの周囲に炎が現れた。

「待て!?貴様!こんな大勢の前で火属性の魔法を使うのか!」

ここにきて、遠巻きに見ていた同級生や関係者もヤバイと理解して、慌てて外に逃げて行った。

「私をここまでコケにして無事にすむと思っていたのかしら?伊達に王子の婚約者選ばれた訳ではありませんのよ?」

王子との婚約はどこの国でも、家柄や他国との友好関係の強化、利権関係など色々な思惑の上で決まるのだ。今回、シオンが選ばれたのは家柄と魔力の大きさであった。
必ずしもではないが、生まれてくる子供も大きな魔力を持って生まれてくる事が、期待できるからだ。

そんな事も忘れて平民の女に絆されて…………

まったく情けない!!!

『大丈夫、死なない程度にしてあげますわ』

周囲に顕現させた炎を目の前に集めて、王子達の方に放った!

ドッカーーーーン!!!!!

炎と言うよりは爆発を重視にした威力であり、火傷より、爆風でバカトリオは周囲に吹き飛ばされた。

「まったく、脳筋のアレクはともかく、魔法の得意な宰相の子息カインなら防げたと思ったのだけれど、女にメロメロになって思考も停滞したのかしら?本当に情けな──!?」


シオンは最後まで言い切れなかった。
1番後ろにいたマリアが、青色の薄い膜の結界を張り防いでいたからだ。

「酷いです。レオン王子達になんて事を………」

言葉とは裏腹にニコリッと微笑みながらシオンに言った。

タラリッ
シオンに嫌な汗が流れた。

「心にも無い事を。自分にだけ防御結界を展開するなんてね」

『誤算だったわ。手加減したとはいえ、防がれるなんて………いったい何者なの?』

「そんな事はありませんわ。ただ、これで貴方は王族に危害を加えたわ。国家反逆罪で死刑よ?ざまぁないわね?」

「ようやく本性を現したわね!」

マリアからシオンにも劣らない魔力の高まりを感じて、シオンも再度、手の平に魔力を集めた。

ゴゴゴゴッ!!!!

「邪魔な生徒や関係者も逃げた。王家の騎士団がやってくるまで、まだ時間も掛かるでしょう。今の内に貴女を消してあげるわ!」

「殺られるものですか!」

2人の魔力弾が放たれ激突した!

「ぐっ!?」

『まさかこれほどとは!?』

歯を喰い縛り、押し負けないように力を込めた。2人の魔力弾はそのまま拮抗し爆発を起こした。

ドッーーーーーン!!!!

「はぁはぁ…………まさか、ここまでやるなんて…………」

シオンは肩で息をしながら呟いた。
一方で、マリアの方はまだ余裕がありそうだった。

「それはこちらも同じですわ。まさか、【聖女】である私と張り合うなんてね」

「聖女ですって!?」

聖女とは約100年に1度の頻度で現れる回復魔法などに特化した少女の事である。
どこで生まれるか分からない為、見付け次第、教会や王家で保護するのが通例であった。


「ええ、そうよ。バカ正直に正体を明かして利用されるなんてまっぴらごめんよ。だったら、王子に見初められた平民の少女が、実は聖女だったと明かした方が、邪魔な声を黙らせる事ができるでしょう?」

「まさか聖女とはね。貴女の目的は何なの?」

「フフフッ、知れたこと。この力を使ってバカな王子に取り入り、この国の王妃になるの。平民の私が、貴族達に命令する立場になるのよ!」

腕を広げながら目的を話すマリアに、シオンは急に大笑いした。

「アハハハ!そんなバカな事を考えていたの?ようやくミスを見つけたわ!」

「黙れ!貴様に貧しい平民の気持ちがわかる訳がない!」

シオンは指を立てて指摘した。

「平民の貴女には貴族や王族の情報が仕入れる事が出来なかったのね。私との婚約を破棄した時点で、彼が『王太子』になる可能性は消えたわ。第一王子と言っても、側室の子だもの。公爵令嬢の私が、後ろ盾になっていたのだからもう、レオン王子に権力はないわ。現在は王妃様も王子を産んでいますので、そちらが王太子になるでしょうね」

「そんなバカなっ!?」


『まぁ、レオン王子に王者の資質があれば、私も認めて上げたのだけれどね』

『調査員』としては、レオン王子に見込み無し!と、言うしかないわ。

マリアは驚いた声を上げたが、すぐに思い直した。

「貴女の言葉なんて信じられないわ!」

ゴゴゴゴッ!!!!

また魔力が高まって地響きが起こった。

「決着を着けてあげる!」

『聖女の力では救える人数に限りがあるのよ。私の力が目覚めたのは12歳の時………もっと早く目覚めていれば病気だったお母さんを救えたのに!お金があれば治せた病気だった。私は王妃になって、平民でも安く受けられる病院を作ってみせる!お金がないから死んでしまう人々を救ってみせるわ!』

覚悟の決めたマリアの魔力は先程の比では無かった。マリアには目的があったのだ。聖女とは清く正しい心を持つ者にしか現れない能力である。

マリアの行動は決して褒められたものではないだろう。しかし、その行動の根本的な想いの柱は、人々を救いたいと言う気持ちからであった。

故に、能力を失っていないのである。


「やれやれ、生半端な覚悟ではなさそうね?いったい何が貴女をそこまで奮い立たせるのか………」


シオンも一瞬、目を閉じて覚悟を決めた。


「貴女の魔力量には驚いたけれどそろそろ決着を着けましょう!」

シオンはポケットに入れていた【紋章】を見せて言った。


「この、【王国暗部調査員エージェント・スカーレット】が貴女を裁きます!」


ドーーーーーン!!!!!
と、マリアに突き付けた!

「おかしいとは思っていたけれど、調査員だったのね」

「ええ、本来は側室が変な欲を出してバカな事を起こさないか見張るつもりで選ばれたのよ」

そして、レオン王子に王者の資質があれば本当の妻として彼を支える予定だったのよね。

シオンは深いため息を吐いてマリアを睨んだ。

「でも、死んでしまえば関係ないわ!死になさい!!!」


マリアの最大の攻撃魔法がシオンに放たれた!

シュッ!!!
シオンが投げた物に魔法がぶつかった。


ドッカーーーーン!!!!!!!

先程より大きな爆発音と爆風が響いた。
視界が晴れてくるとマリアは悔しそうにシオンを睨んだ。


「はぁはぁ、まさか私の最大の魔法を『誘爆』させるなんて…………」

今度はマリアが肩で息を切らしながら呟いた。

「本来、【爆裂玉】は切札だったのよ?魔法使えなくなった時のね」

シオンはゆっくりとマリアに近付くと、片膝を付いているマリアを見下ろしながら言った。

「投降しなさい。悪いようにはしないわ」

遠くからガチャガチャと鎧の音が聞こえてきた。騎士団がやってきたようだ。

時間切れよ。

「……………もう魔力が残っていないわ。私の負けね」

素直に降参してくれてホッした。マリアはシオンに真面目な顔で頼み込んだ。

「最後に頼みがあるわ。平民にも手厚い福祉の充実をお願い………」

予想外な言葉にシオンは理解した。
マリアの本当の目的を。

「貴女………ふっ、本当に貴女が王妃になって欲しかったわ」

その言葉にマリアは顔を歪ませて呟いた。

「チッ、嫌なヤツよ。あんたわ」



こうして、やってきた騎士団に『マリア』と『私』は2人とも連行された。

まぁ、当然である。
私もブチ切れて大判振る舞いしちゃったしなー!

しかし、あの会場にも『影』が何人か居て、一部始終を見ていたため、私は無罪放免…………にはならなかったが、かなり減刑された。

無論、婚約破棄はそのままされましたよ。


長年の調査の結果、ハニートラップに引っ掛かっかり、衆人の前で婚約破棄を叫んだレオン王子は、王籍を抜かれて臣下に降る事が決まった。辺境の不毛の地の領主に任命され、王都に戻る事を禁止された。真面目に領地の改革と仕事に取り組んでいるそうだ。
元々、マリアが現れなけば真面目な人柄であったのだ。あれから毒気が抜けて民の為に頑張っている。

側室の母親はレオンの失態で権力を失い、事を起こそうにもなにも出来ない状態となり、全てに諦めて離宮に引っ込んでしまった。



騎士団長の息子は、根性を叩き直すと父親に隣国との小競り合いが続いている地域に、一兵卒として放り投げられた。今は死と隣り合わせの砦で震えながら過ごしているそうだ。


宰相の子息は家を勘当されたが、知能と魔力に優れていたので、孤児院の院長を任され、子供達に勉強を教えている。
貧しい暮らしは子息には堪えたが、子供達に慕われ改心していき、後に同じ孤児院の女性と結婚する事になる。三人の中では1番、マシな結末である。父親の宰相が死なない程度にこっそり支援もしていたそうだ。


そして────


「精がでるわね聖女様」

シオンは公爵令嬢として大神殿を訪れていた。目の前には白い修道服に、頭には顔の見えないベールを被ったマリアがいた。

「チッ、なんの用なのよ。毎回毎回!」

「相変わらず口が悪いわね」

あれからマリアは王族や高位貴族を惑わせたとして、表向きは処刑された事になった。

マリアの処罰に関してマリアが聖女だった事が問題視された。

実は、マリアは孤児院や小さな教会に出向き、顔を隠して平民達に治療を施していた。

平民達の間では、【秘密の聖女】と噂になっていた。貴族に見つかると、利用され平民達に無料で治癒出来なくなると言って、毎回違う場所に出向き行動していた。

顔を隠していた事が、マリアの命を救った。

それなら顔を隠したまま、本当に聖女として活動させようと言う話になったのだ。
『素顔』を見せずに民を癒やす事が、罪を償う事となった。

ただし、貴族や金持ち商人からはお金を頂く。
シオンは、実家の資金を使いマリアの希望を叶える為に、大きな病院を作った。せめてものお詫びのつもりでだ。

病院の薬代はマリアが貴族の治療費のお金を使い価格を抑えて販売する事ができた。

王家も、民の為にと『薬剤師』と言う職種を作り、安価な薬の開発と薬草の大規模栽培を国が主導で行った。そして、効くかどうか分からない民間療法からしっかりと薬での治療が広まった。

後に10年以上の歳月が過ぎて、民の死亡率が下がり、民達の王家に対する支持率も他国より高くなることになる。


「それで、あんたは王妃にならないの?」
「無理ね。第二王子はまだ幼いもの。そのうち歳の近い令嬢が選ばれるでしょう。それに私は他国に嫁ぐ事になったの」

マリアはベールの下から目を開いて驚いた顔をした。結構な頻度で遊びに?来ていたシオンが来れなくなると言う事を意味していた。

「誰かさんのせいで婚約破棄された傷物令嬢として、変態貴族に嫁がされるのよ。シクシク」

「口でシクシクって言っているヤツが何を言っているのよ。調査員として隣国の内情でも探るのかしら?」


シオンはニコリッと笑ってはぐらかした。

「さてね。でも、この仕事は結婚したら辞めるよう言われていたの。せいぜい夫の浮気調査ぐらいかしら?」

「相手に同情するわね」
「あら?浮気さえしなければ立派に妻の仕事をやり遂げるつもりよ?」

マリアはやれやれといった感じで、シオンと雑談を楽しんだ。


「さてと、今日は挨拶に来ただけだし帰るわ」

帰り際にマリアが呼び止めた。

「あ、あのシオン!ありがとう」

マリアの裏表のない感謝の言葉にシオンは笑顔で答えた。

「何を言っているのよ。今のこの状況は貴女の行動のお陰なのよ?貴女のやった事が、国を動かした結果なのよ。胸を張りなさい!少なくとも今の貴女を私は友達だと思っているのだからね」


マリアは聖女らしく涙を浮べながらシオンに幸あれと祈りを捧げるのだった。

マリアの行った事は、確かに良い事では無かっただろう。しかし、マリアの行動がシオンの胸を打ち、更には国をも動かしたのだ。

シオンが隣国に行っても、頻繁に手紙でやり取りして、1番の親友となって腐れ縁として長く交流していくのであった。

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