上 下
94 / 106

イレギュラー

しおりを挟む
シオンの護衛騎士達は北側の城門に向かいそこを制圧した。北側の国境の城門にはほとんど兵士が配備されておらず制圧はすぐに終わった。

「まったく物足りねぇな」
「そうですね。この程度では戦った内に入りませんね」

ゼータは正直、不感燃焼だった。

「本当にね。こんなんじゃ前回の汚名返上にならないわよ」

エリザもため息を付いた。
しかし、口で不満を言っても油断はしていなかった。

!?

シュタタタタ!!!!
突然、手裏剣が飛んできて仲間達は後方に飛んで避けた。

「へぇ~?サラグモごときにやられたと聞いていたが、反応はなかなかいいんじゃねぇーの?」

ゼータは驚いた。

「おいおい、なんでてめぇが、こんな所にいやがる?」

城壁を見上げるとジグモと初めてみる着物の女がいた。

「なぁーに、帝国を去る前にここの伯爵が倒さる所を見ようかと思っていたら、お前達が来たのでな。まったく、運命を感じるぜぇ?」

「お前と運命なんて気持ちの悪い物はないな。それより隣りのべっぴんさんは大丈夫なのか?」

視線を女に送ると───

「うふふっ、お初ですなぁ~。うちはジョロウグモと言います。良しなになぁ~」

!?

幹部クラスとわかり、女でも警戒レベルを最大限に引き上げた。

ジョロウグモは遊郭の高級娼婦のように胸元の開いた魅惑な着物を着ていた。手には【大きな扇】を持っていた。

「今回は殺る気か?」
「さて、どうすっかなぁ~?」

バカにしている様にジグモは答えた。
護衛騎士達は油断せず武器を構えた。

「いいのか?そんな所にいて?」

ゼータの問にジグモは首を傾げた。

「なんのこと───」

!?

ジグモはとっさに身体を捻ると、自分の首があった場所に刃が通った。

「チッ!?」

いつの間にか背後に迫っていたハルだった。

「おやおや、危のぅございますなぁ~~」

ジョロウグモにもアキが攻撃していたが、こちらは余裕がありそうに避けた。

2人はそのまま城壁から地上へと落ちた。
いや降りたと言った方が正しかった。

スタッと軽やかに降りると、流石のジグモもカチンッと来たのか殺る気になった。

「流石に今のはヒヤリとしたぜっ!!!」

ブアッと、とてつもない殺気を放った。

「全員、本気で殺れ!!!」

シャキン!
返事をする時間も勿体ないと、全員が武器を構えて戦闘体勢に入った。

「少し遊んでやるか!」

ジグモは【なにも持ってない】両手を前に出して腕を振るった。

!?

とっさに目の前にいたゼータが横に飛ぶと地面が割れた。

『なんだ?何をした!?』

顔には出さず注意深くジグモを観察するように見るが、ジグモはそんなに甘くはなく、再度の攻撃を仕掛けてきた。

ガキンッ!?

無意識に剣を前にして盾代わりにすると、剣に衝撃が走った。

「グッ!?いったい何の攻撃なんだ?何も見えんぞ!?」

「オラッ!どうした?オレは対複数の戦闘が得意なんだぜ!?」

反対側から攻めてきたリオンとエリザを吹き飛ばした。

そして───

「あらあら?ジグモはんも楽しそうですなぁ~うちも混ぜて下さいな?」

ジョロウグモは自分の周囲に炎の球体を複数体を生み出した。

「さて、うちの技、避けれますかなぁ~?【鬼火】!」

!?

予想より速い速度でアキとハルに襲った。
二人は間一髪に避ける事が出来たが、鬼火が地面に着弾すると大爆発を起こした。

「キャアァァァァァ!!!!!」

爆風で吹き飛び悲鳴を上げた。

「ハル!?アキ!?クソッ!イージス頼む!」

護衛騎士の中で唯一盾を持っているイージスに助けに向かわせた。

「クククッ、ジョロウグモは派手だなぁ~?そろそろ、オレの【魔法】のネタはわかったのか?」

二人とも魔力持ちだとっ!?
ジグモは不可視の攻撃をして、ジョロウグモはお嬢と同じく爆裂魔法を使う。

最悪だ!
こいつらは、自分の魔力を戦闘で使えるように訓練している。

ゼータは冷静に戦況分析を行っていた。

「ゼータ!避けろ!?」

ハッと思考を止めるとジョロウグモの鬼火が迫っていた。この魔法の厄介な所は速度が速いこと。着弾すると大爆発を起こすことの2点だ。

なんとか避ける事が出来たが、後ろで着弾して爆発に吹き飛ばされた。

「グワッ!?」

しかしゼータは、鎧でダメージが緩和され、受け身を取ってすぐに起き上がった。

「へぇ~やるじゃないか?」

ジグモは感心した様に呟いた。

「ゼータ!無事か!?」
「ああ、まだ動ける!」

少し離れた場所でリオンとエリザがフォローに入ろうと待機していた。
ジョロウグモの追撃がないと視線をやると、ミスティが接近戦闘に持ち込んでいた

「よし!上手いぞ!接近戦ならあの魔法は撃てない!」

近くで爆発したら自分にもダメージを受けるからだ。ミスティは少し短目のショートソードを【2本を両手】で持ち、二刀で連撃を繰り出していた。

しかし、ジョロウグモは大きな扇を閉じては棍棒の様に振るい、軽い攻撃には扇を広げて盾の様にして使った。

「鉄扇!?」
「半分正解ですわぁ~。これはミスリル合金で作られた特注やでぇ~~」

鉄より軽く、鉄より硬い金属である。

「うちは魔法より接近戦のほうが得意でしてなぁ?」

ガンッとミスティは吹き飛ばされた。

「クッ!?エリザ!!!」

距離が開いてはまた魔法攻撃がくる。だから誰かが接近戦に持ち込んでおかないとヤバいのだ。

すぐにエリザはミスティの代わりにジョロウグモと斬り合った。人数ではこちらが多いが、実力は向こうに軍配が上がっていた。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

訳ありヒロインは、前世が悪役令嬢だった。王妃教育を終了していた私は皆に認められる存在に。でも復讐はするわよ?

naturalsoft
恋愛
私の前世は公爵令嬢であり、王太子殿下の婚約者だった。しかし、光魔法の使える男爵令嬢に汚名を着せられて、婚約破棄された挙げ句、処刑された。 私は最後の瞬間に一族の秘術を使い過去に戻る事に成功した。 しかし、イレギュラーが起きた。 何故か宿敵である男爵令嬢として過去に戻ってしまっていたのだ。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

聖女は支配する!あら?どうして他の聖女の皆さんは気付かないのでしょうか?早く目を覚ましなさい!我々こそが支配者だと言う事に。

naturalsoft
恋愛
この短編は3部構成となっております。1話完結型です。 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★ オラクル聖王国の筆頭聖女であるシオンは疑問に思っていた。 癒やしを求めている民を後回しにして、たいした怪我や病気でもない貴族のみ癒やす仕事に。 そして、身体に負担が掛かる王国全体を覆う結界の維持に、当然だと言われて御礼すら言われない日々に。 「フフフッ、ある時気付いただけですわ♪」 ある時、白い紙にインクが滲むかの様に、黒く染まっていく聖女がそこにはいた。

悪役令嬢をまっとうしたら第二王子に攫われました。〜新天地で溺愛されながら好みのドレスで新婚生活を満喫します〜

朱宮あめ
恋愛
恋人に殺され、巷で人気の乙女ゲームに出てくる悪役令嬢、オリヴィア・ローレンシアに転生した女性A。 婚約者であるラファエル・スコットが自分を殺した恋人に似てあまり好みじゃなかったオリヴィアは…… こうなったら、悪役令嬢を全うして追放されてやろう! ラファエルの弟、レイル・スコットに協力を頼み、晴れて牢に入ったオリヴィア。 しかし、国外追放を待っていたオリヴィアに突き付けられたのはまさかの『死罪』で……!? 牢からオリヴィアを助け出したレイルは言った。 『オリヴィアさんのことは、僕が守るよ』 レイルから執着的な愛を受けつつ、オリヴィアは新たな場所で好みのドレスと新婚生活を満喫する。

【連載版】ヒロインは元皇后様!?〜あら?生まれ変わりましたわ?〜

naturalsoft
恋愛
その日、国民から愛された皇后様が病気で60歳の年で亡くなった。すでに現役を若き皇王と皇后に譲りながらも、国内の貴族のバランスを取りながら暮らしていた皇后が亡くなった事で、王国は荒れると予想された。 しかし、誰も予想していなかった事があった。 「あら?わたくし生まれ変わりましたわ?」 すぐに辺境の男爵令嬢として生まれ変わっていました。 「まぁ、今世はのんびり過ごしましょうか〜」 ──と、思っていた時期がありましたわ。 orz これは何かとヤラカシて有名になっていく転生お皇后様のお話しです。 おばあちゃんの知恵袋で乗り切りますわ!

あらあらまぁまぁ!糸目のいつもニコニコお姉さん気質の有能な令嬢は、みんなに愛されている

naturalsoft
恋愛
シオン・クロイツ公爵令嬢は、スレイン王国の名物令嬢である。まだ16歳と言う若さではあるが、持ち前の長身で失礼ながら20歳前後の令嬢とよく間違われるのが悩みのタネである乙女だ。 そして、シオン令嬢は糸目な顔で、いつもニコニコしており目を開いている事は珍しい。 口癖は、あらあらまぁまぁと言うことである。 さて、今日はどんな出来事が起こることやら。

【完結】「父に毒殺され母の葬儀までタイムリープしたので、親戚の集まる前で父にやり返してやった」

まほりろ
恋愛
十八歳の私は異母妹に婚約者を奪われ、父と継母に毒殺された。 気がついたら十歳まで時間が巻き戻っていて、母の葬儀の最中だった。 私に毒を飲ませた父と継母が、虫の息の私の耳元で得意げに母を毒殺した経緯を話していたことを思い出した。 母の葬儀が終われば私は屋敷に幽閉され、外部との連絡手段を失ってしまう。 父を断罪できるチャンスは今しかない。 「お父様は悪くないの!  お父様は愛する人と一緒になりたかっただけなの!  だからお父様はお母様に毒をもったの!  お願いお父様を捕まえないで!」 私は声の限りに叫んでいた。 心の奥にほんの少し芽生えた父への殺意とともに。 ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 ※「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※タイトル変更しました。 旧タイトル「父に殺されタイムリープしたので『お父様は悪くないの!お父様は愛する人と一緒になりたくてお母様の食事に毒をもっただけなの!』と叫んでみた」

処理中です...