上 下
17 / 106

面白い女☆

しおりを挟む
シオンが大立ち回りした翌日、急いで手紙を書くと、証拠書類と一緒に、護衛騎士1人に持たせて早馬で帝国の王宮に向かわせた。辺境の地である為に、早馬でも数日は掛かる距離だ。

あの夜、アクダイカーン男爵を粛清した後、シオンは空の馬車を引き連れ、引き渡し場所まで向かった。

すでに相手は着いていて待っていた。

「遅かったな。何やら街の方が騒がしかったようだが何かあったのか?」

「ええ、面白い事がありましたの」

!?

「誰だ!お前は!?」

相手はパッと見て5人ほどだが、男爵のゴロツキと違い手練れだった。男爵と違うとわかった途端に、後ろに飛び去り、剣を構えた。

こいつらやりますわね。
シオンもすぐに合図を出した。

「売られた女性達の居場所、吐いて貰うわよ!」

メイド二人と、護衛騎士3人(二人は男爵家の後始末の為に残してきた)が行動を起こした。

ガギンッ!!!
ガギンッ!!!

お互いに斬り合いになったが、すぐには決着が付かなかった。何合か打ち合いの音が響き渡る。

「私の側近と互角とは、なかなかやりますわね」
「クソッタレ!お前はいったい何者なんだ!」

シオンは目だけ左右に巡らせ、周囲の気配を探った。

「さぁ?私に勝ったら教えて上げますわ♪」

ガッギーーーン!!!

アキの抑えていた敵が、アキを弾くとシオンに襲い掛かった。

「ならテメェが先に死にやがれ!!!」

駆け出して、勢いのあるままシオンに斬り掛かった。



お互いが交差すると、敵は血を吹き出して倒れた。

「フッ、私は剣の方が得意なんですの」

シオンの剣技を見て、形勢が不利だと悟ると相手はすぐに逃げ出した。流石としか言いようがないくらい手際がいい。

「ハル、アキ!絶対に逃さないで!」

「「ハッ!!!」」

素早さではハルとアキの方が早くすぐに敵に追いついたが、敵はすぐに散開し、全員別々の方への逃げた。

『こいつら慣れていますね。鎧を着た騎士達では追い付けない。これは1人逃がしてしまいますね」

敵は4人、こちらはシオンを入れて3人。
しかし、ここでハルがいい仕事をした。
クナイを投げて敵2人の足を貫いた。

「足を怪我したヤツは騎士に任せて、残り2人を追って!」

返事をする時間も惜しい為にもそのまま残りの敵を追った。
結果的には全員を押さえる事には成功したが──

その全員が歯に仕込んだ毒で死んでしまった。
売られた女性達の情報が無くなり、悔しがるシオンであった。

とはいえ、まだ少ないが情報が全くない訳では無かった。倒した敵の荷物など調べると、奴らの身体の何処かに【蜘蛛】のタトゥーがあったのだ。
有名な闇組織のメンバーの証拠である。

「………やれやれ、『また』こいつ等ですか因果なものね」

シオンの呟きは風に消えるのだった。











──エスタナ帝国の王宮にて──

「ゼノン皇帝陛下、例の妃候補の使者が来ました。今回は手紙だけではなく至急お会いしたいとの事ですが、いかが致しますか?」

あの顔見せのお茶会から、他の妃候補達は実家への報告の為に全員帰っている。

「辺境伯の令嬢の使者か。すぐに通せ!」

前回の手紙から気になっていたので、使者から詳しい話を聞きたかった。
執務室にやってきた騎士は部屋に入ると片膝を着いて挨拶をした。

「よい、時間が惜しいのでな。緊急の話だったが、シオン令嬢はどうした?」

まず、騎士から話を聞くとすぐにゼノン皇帝の顔色が変わった。現在、執務室には宰相と、警護の近衛騎士が数名いるだけだった。シオンの護衛騎士もまさか、こんな重要な部屋に通されるとは思っていなかった。最悪、手紙だけ渡して、数日待たされてから謁見の間で説明するのだと思っていた。

胃をキリキリさせながら護衛騎士はシオンを恨んだ。

『お嬢!戻ったら高い酒を買って貰いますからねっ!』

手紙と証拠の書類を皇帝が見てから宰相に渡した。

「お前達!ここでの会話は箝口令を敷く。誰にも漏らすなよ?」

部屋に居た近衛騎士はバッと敬礼をして了解のポーズをした。

「宰相、どう思う?」
「はい陛下、これは由々しき事態ですな!早急に王宮にいる騎士団の小隊………いえ、中隊規模を派遣して街の住民からも話を聞かなければなりません。いくら治める領地の税率を領主の裁量で、ある程度融通ができるといっても、これはやり過ぎです!」

「そうだ。水税など水不足の時に一部の地域で節制の為に行うものだ。水の豊富な場所で取るものではない。言い訳として、帝国法の上限まで税率を上げて、別の項目での税の徴収か。法には違反していないと言い訳のできる、法の穴を付いた上手い手だな?」

ニヤリッと笑う皇帝の言葉には怒気が含んでいた。

「これを1年以上前から行っていたのですか。よくも今まで気付かれなかったものです」

「男爵のみでは不可能だろう。使者から聞いた話では男爵は無能だ。後ろに付いて知恵を貸したヤツがいる。それと王宮から使わせている税務官も賄賂を貰い見逃していた。すぐに捕縛しろ!俺の顔を潰しやがって!」

苛立つ皇帝に宰相は冷静に言った。

「状況的に見て寄親のヴァイス侯爵でしょうな。自分の娘を上位の妃に推す為に、かなりの金銭を動かしたと、囁かれていましたからな」

この宰相はゼノン皇帝が信頼する数少ない協力者で、相談相手だった。ゼノン皇帝の後ろ盾にもなっているので、父親の様に話せる間柄だった。
ゼノン皇帝幼少の頃の家庭教師も務めていた知恵者でもある。

「その金銭を捻出する為に領民から金を巻き取っているとは………クズ野郎が!」

皇帝の暴言にコホンッと宰相は咳をすると、使者に話し掛けた。

「それでシオン令嬢は他にも何か言っていましたかな?」

護衛騎士は平常心を装いながら伝えた。

「はっ!シオンお嬢様は、これを期に北上して他の領地も見て周るおつもりです。そして、もし王宮騎士団が派遣されるのであれば、抜き打ちで他の領地も調べて欲しいと言っていました。それと、また似た様な状況が起こった場合の時の、直通の連絡網を作って欲しいとの事です」

ゼノン皇帝は手を頭にやり呟いた。

「はぁ~お前の所のお姫様は何をやっているんだ?こちらの不手際ではあるが、領主の不正を暴いて粛清するなんて普通の令嬢には無理だぞ?」

口ではそう言っているは、顔は笑っていた。

「シオンお嬢様は本気で日曜の妃を目指しております。そして贔屓目抜きで、この国をもっとよくしたいと考えておられます。4月には必ず王宮へ登城すると言っておりますので、そこはご安心下さい」

「ふっ、本当に面白い女のようだ。会うのが楽しみだな」

そう言うとすぐにシオンへの手紙を書くと同時に王宮騎士団の派遣の準備に取り掛かるのだった。






しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

二人の男爵令嬢の成り上がり!でも、結末は──

naturalsoft
恋愛
オーラシア大陸の南に姉妹国と呼ばれる二つの国があった。 西側のアネーデス王国 東側のイモート王国 過去にはお互いの王族を嫁がせていた事もあり、お互いにそれぞれの王族の血が受け継がれている。 そして、アネーデス王国で周辺国を驚かすニュースが大陸を駆け抜けた。 その国のとある男爵令嬢が、王太子に見初められ【正しい正規の手続き】を踏んで、王太子妃になったのである。 その出来事から1年後、隣のイモート王国でも、その国の男爵令嬢が【第一王子】の【婚約者】になったと騒がれたのだった。 しかし、それには公衆の面前で元婚約者に婚約破棄を突き付けたりと、【正規の手続きを踏まず】に決行した悪質なやり方であった。 この二人の結末はいかに── タイトルイラスト 素材提供 『背景素材屋さんみにくる』

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

悪役令嬢は大好きな絵を描いていたら大変な事になった件について!

naturalsoft
ファンタジー
『※タイトル変更するかも知れません』 シオン・バーニングハート公爵令嬢は、婚約破棄され辺境へと追放される。 そして失意の中、悲壮感漂う雰囲気で馬車で向かって─ 「うふふ、計画通りですわ♪」 いなかった。 これは悪役令嬢として目覚めた転生少女が無駄に能天気で、好きな絵を描いていたら周囲がとんでもない事になっていったファンタジー(コメディ)小説である! 最初は幼少期から始まります。婚約破棄は後からの話になります。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...