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いじける。

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ウンディーネが海龍とパスを繋げると、海龍の声が頭の中に聞こえてきた。

『我は海龍。近隣の海を縄張りにしている者だ。そして、そこにおられる方は四大精霊と存ずるが相違ないか?』

『ええ、妾は四大精霊が一柱(ひとはしら)であるウンディーネ。そして、こっちがノームじゃ』

海龍はウンディーネとノームを交互に見ると目を閉じた。

『不思議だ。先程まで、四大精霊の魔力を感じると、どうしようもない不快感が収まらず、怒りに任せるしかなかったのだが………今はとても落ち着きを取り戻している』

『どういうことじゃ?海龍は妾を狙っていたのではないのか?』

海龍は首を振って答えた。

『我に四大精霊と敵対する意思はない。ただ、いつの頃からか体調が優れず、海底で眠りに付いていたのだ。ここ最近は最低限の活動しかしていなかったのだが、四大精霊の魔力が近付いてくるほどに自分の中の不快感に我慢できずに襲ってしまった。申し訳ない』

海龍の言葉には本当に申し訳なかったと言う気持ちが伝わってきた。そこでシオンは海龍の胃の中に張り付いていた黒い石の欠片を取り出して見せた。

「みんなも見て!海龍の胃の中に埋まっていたの。この黒い石が。私も嫌な感じがしたから壊してきたの!」

シオンが取り出した黒い石の欠片をみて、ウンディーネとノームが驚いた!

「これが、あの胃の奥にあったのかのぅ!?」
「ウンディーネ!これって……………」

二人の驚きようにシオンが尋ねた。

「なんなの?これ?」

ノームが珍しく真剣な顔で言った。

「これは『邪神の欠片』よ。邪神の力の一部ね」

なんですとーーーー!?

「邪神が封印される時に、自分の力の一部を世界にばらまいて、完全な封印を逃れたの。多分、これはその1つだわ」
「それじゃ、海に落ちていた欠片を海龍が知らずに呑み込んでしまっておかしくなったのかな?」

シオンの言葉にギルド長が口を挟んだ。

「それも否定できんが、ここ最近の状況を鑑みるに、何者かが故意に海龍に飲ませた可能性が高いぞ!」

ギルド長の言葉に、周りの皆は顔が強張った。

「四大精霊の封印に邪神の欠片まで扱えるものが暗躍している可能性があると………?」

真剣に事の深刻さに唸る一同に海龍が話掛けた。

『邪神の欠片が我の体内にあったとは…………流石に予想していなかったぞ。そしてそこの少女よ。我を救ってくれたこと感謝する』

『いえいえ、知らずにやったことなのでお気になさらずに!』

シオンは手を振って謙遜した。そして海龍に言うのだった。

『海龍さん、私達はこの海を無事に航海出来ればそれでいいので、ここを通る船は襲わないようにして下さい。それだけお願いしたいのです!』

シオンは海龍に頭を下げると、海龍はシオンをじっと見つめた。

『我は、四大精霊と同じく悠久の時を生きてきた。魔王や邪神と人間の争いにも今まで干渉してこなかった。それは海の底まで争いの被害が及ばなかったからだ。しかし、今回の件で御主に迷惑を掛けたのと、邪神に与する者に借りができた。シオンと言ったか?御主が生きている間、我が協力しよう』

思いがけない海龍の申し出に、シオンはすぐに返事を返した。

『お願いします!』

ここにいる者で、海で絶対的な力を誇る海龍の申し出を断れと言う者はいなかった。

『では、契約に我に血を一滴たらして名を授けよ』

シオンは名前をしばし考えてから水中に血を落として海龍の名前を呼んだ。

「海を守護する守護神『リヴァイアサン』の名を授けます!」

シオンが名前を叫ぶと、海龍の身体が光だし次の瞬間、海龍の姿が消えていた。

「あれ?海龍はどこに?」

「我はもう海龍ではない。リヴァイアサンである」

えっ!?と声の方を向くと、甲板に知らない【着物姿】の『女性』が佇んでいた。

誰よ?いやこの状況でわかっているけれど!ツッコミ入れさせて!?

「えっと…………リヴァイアサン?」
「うむ、御主にリヴァイアサンと名付けられた海龍である」
「どうして人間の姿に?」
「御主のイメージと我の力が干渉した結果じゃな。これで陸にも上がれるし話もできる。便利になったぞ」

さようですか…………

「こ、これは意外な展開ですわ。でも、大海原を知り尽くしている海龍様が仲間になってくれるのは心強いですわ♪」

王妃様が喜んだ。

「うむ、これからよろしく頼む。ただ新しい名で呼んで貰えると嬉しい」

どうやら海龍は名前を呼ばれたいらしい。

「では、リヴァイアサン様と少々長いので敬称としてリヴィ様と呼ばせて頂きますね♪」
「リヴィ…………良い響きだ」

ソフィア王妃様とレイラ婦人が海龍と………失礼、リヴィと話していると、ノームがいつの間にか隅っこで膝を抱えて丸くなっているウンディーネを見つけた。

「ちょっと、どうしたのよ!?」
「フフフ…………笑うがよいわ。同じ水を操る者として、妾は役立たずじゃ。その点、海龍は海を知り尽くしておる古代種の龍じゃ。妾はお役御免じゃ………」

力なく笑うウンディーネがいた。甲板に『の』文字を書きながら寂しくいじけていた。

「あんたがそんな陰キャラだと初めて知ったわ…………」

長い付き合いのノームは、ウンディーネの意外な側面を見つめて呆れるのであった。





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