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four.
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「あー、美味しかった! ごちそうさまでしたー」
「良かったな」
所変わって、Dクラスの前。岸田と別れたあと、クリームあんみつを食べるためにうちのクラスに来て、のんびり休憩しながら食べ終わったところだ。岩見は午後も始めは仕事をあるらしく、そろそろ戻らなければならないらしい。
「あっそうだ、エス。浴衣の写真撮りたい! いい?」
「えー」
「お願いしゃす! 思い出になるじゃん。 な?」
「んん……、お前も一緒に写るならいいよ」
「え゛っ」
「嫌ならだめ」
俺は写真を撮られるのが苦手だ。陽慈にはよく不意打ちで撮られていたのでそういうのは諦めがあるが、宣言された上で撮られるとなるとどんな顔をすればいいか分からなくて困る。カメラは好きらしいが被写体になるのは俺と同じくあまり好きではない岩見は、一瞬迷った。
じゃあやめると言うかと思っての提案だったが、唇を尖らせつつ承諾したから少し意外だ。
「お前、そんなにこの格好気に入ったの?」
「うむ。エスの良き姿は記録せねばなるまい。陽慈くんも喜ぶし」
「陽慈には見せなくていいから」
少し顔をしかめてみせる。なんでこいつらは俺の写真をやりとりしているのだろう。前には、陽慈が俺の小さい頃の写真が載ったアルバムを勝手に岩見に見せていたし。
いや勝手にというかあれは陽慈の私物ではあるのだが、映っているのが俺なので俺にも許可をとってくれと思う。許可しないと分かっているから聞かれないのだろうけれど。
「全体映したいから誰かに撮ってもらおー」
俺の言葉を聞いているのか疑わしいくらい軽く流した岩見は、知り合いを探しているのかきょろりと辺りに視線を走らせ、俺の背後を見たと思ったら、「あっ」と短く声を上げた。
「よーす、晴貴ぃ。浴衣かよ、かっけーじゃん。安里クン、惚れちゃいそー」
振り返る前にがしっと肩を組まれ、俺は岩見が発見したのが誰なのか理解した。
「うぜぇっす」
「あっ、ひどい。桃ちゃん、今の見た?」
回された腕を軽く叩き落とすと、あっさり体が離れる。後ろを向けば、思ったとおり久我さんがニコニコと笑っていた。
「変な絡み方するとだるい先輩って認識されるぞ、安里クン」
「それはやだな。あ、改めて、久し振り! 明志、晴貴」
「どうも」
「こんにちはー」
「明志、そのTシャツ似合う。可愛いじゃん」
「マジすか、ありがとうございます」
岩見と会話を始めた久我さんがやけに目立っている。髪色と、服装のせいだろうか。そして、その隣にいる背の低い人の、見た目とややそぐわない掠れ気味の低い声に聞き覚えがあるような気がした。
誰だったっけ、と思い出そうとしていると、その人が顔を上げて俺と視線を合わせた。
「よお。久しぶり、江角」
「お久しぶりです、……?」
「あ、覚えてねえか? 道長たちがお前に絡んだとき一緒にいたっつったら、分かるか」
「あぁ……、あれ? ピンクじゃない」
言われて思い出した人物と、目の前の彼は見た目が違った。見た目、というか記憶に引っ掛かっていたのは格好いいなと思った声と目が覚めるような鮮やかな桃色の髪だけなのだが、今の彼の、短めでツンツンと立たせるようにセットされた髪は落ち着いた茶色だ。
首を捻った俺に、その人は苦々しげに眉を寄せた。
「あれ、罰ゲームだから」
「え?」
「罰ゲーム。ゲームで負けたら奇抜な色に染めるって言う。俺の名前、森下桃也って言うんだけど、名前に桃が入ってるからピンクだ! ってあいつらが悪ノリしてああなったんよ」
"桃也"と空中に指先で文字を綴ってみせた彼は「だから、あれは俺の趣味でも特徴でもない」と憮然として締め括った。
俺がなるほどと相槌を打つと、途中からこちらの会話を聞いていたらしい久我さんがおかしそうに笑う。
「その節は災難でしたな、桃ちゃん」
ぽんぽんと肩を叩かれた森下さんは、髪を弄りながらふんっと鼻を鳴らす。桃也さんからもじって桃ちゃんなんですね、とにこにこしていた岩見は、急に何かに気付いたように慌てた表情をした。
「あっ、そーだ、俺、戻らなきゃいけないんだった。久我さんっ、俺とエスのこと撮ってもらえませんか! これで!」
「ん? おー、いいよ。じゃあ並んで並んでー」
突然の頼みを快諾して、久我さんは岩見のスマホを受け取った。邪魔にならない端の方にいるとはいえ、人がたくさんいる廊下で固まっている俺たちは、なんとなく注目を浴びている。その中で更に写真を撮られるなんて、と少し躊躇したが、了承したのは俺だ。大人しく撮られておこうと思う。
「良かったな」
所変わって、Dクラスの前。岸田と別れたあと、クリームあんみつを食べるためにうちのクラスに来て、のんびり休憩しながら食べ終わったところだ。岩見は午後も始めは仕事をあるらしく、そろそろ戻らなければならないらしい。
「あっそうだ、エス。浴衣の写真撮りたい! いい?」
「えー」
「お願いしゃす! 思い出になるじゃん。 な?」
「んん……、お前も一緒に写るならいいよ」
「え゛っ」
「嫌ならだめ」
俺は写真を撮られるのが苦手だ。陽慈にはよく不意打ちで撮られていたのでそういうのは諦めがあるが、宣言された上で撮られるとなるとどんな顔をすればいいか分からなくて困る。カメラは好きらしいが被写体になるのは俺と同じくあまり好きではない岩見は、一瞬迷った。
じゃあやめると言うかと思っての提案だったが、唇を尖らせつつ承諾したから少し意外だ。
「お前、そんなにこの格好気に入ったの?」
「うむ。エスの良き姿は記録せねばなるまい。陽慈くんも喜ぶし」
「陽慈には見せなくていいから」
少し顔をしかめてみせる。なんでこいつらは俺の写真をやりとりしているのだろう。前には、陽慈が俺の小さい頃の写真が載ったアルバムを勝手に岩見に見せていたし。
いや勝手にというかあれは陽慈の私物ではあるのだが、映っているのが俺なので俺にも許可をとってくれと思う。許可しないと分かっているから聞かれないのだろうけれど。
「全体映したいから誰かに撮ってもらおー」
俺の言葉を聞いているのか疑わしいくらい軽く流した岩見は、知り合いを探しているのかきょろりと辺りに視線を走らせ、俺の背後を見たと思ったら、「あっ」と短く声を上げた。
「よーす、晴貴ぃ。浴衣かよ、かっけーじゃん。安里クン、惚れちゃいそー」
振り返る前にがしっと肩を組まれ、俺は岩見が発見したのが誰なのか理解した。
「うぜぇっす」
「あっ、ひどい。桃ちゃん、今の見た?」
回された腕を軽く叩き落とすと、あっさり体が離れる。後ろを向けば、思ったとおり久我さんがニコニコと笑っていた。
「変な絡み方するとだるい先輩って認識されるぞ、安里クン」
「それはやだな。あ、改めて、久し振り! 明志、晴貴」
「どうも」
「こんにちはー」
「明志、そのTシャツ似合う。可愛いじゃん」
「マジすか、ありがとうございます」
岩見と会話を始めた久我さんがやけに目立っている。髪色と、服装のせいだろうか。そして、その隣にいる背の低い人の、見た目とややそぐわない掠れ気味の低い声に聞き覚えがあるような気がした。
誰だったっけ、と思い出そうとしていると、その人が顔を上げて俺と視線を合わせた。
「よお。久しぶり、江角」
「お久しぶりです、……?」
「あ、覚えてねえか? 道長たちがお前に絡んだとき一緒にいたっつったら、分かるか」
「あぁ……、あれ? ピンクじゃない」
言われて思い出した人物と、目の前の彼は見た目が違った。見た目、というか記憶に引っ掛かっていたのは格好いいなと思った声と目が覚めるような鮮やかな桃色の髪だけなのだが、今の彼の、短めでツンツンと立たせるようにセットされた髪は落ち着いた茶色だ。
首を捻った俺に、その人は苦々しげに眉を寄せた。
「あれ、罰ゲームだから」
「え?」
「罰ゲーム。ゲームで負けたら奇抜な色に染めるって言う。俺の名前、森下桃也って言うんだけど、名前に桃が入ってるからピンクだ! ってあいつらが悪ノリしてああなったんよ」
"桃也"と空中に指先で文字を綴ってみせた彼は「だから、あれは俺の趣味でも特徴でもない」と憮然として締め括った。
俺がなるほどと相槌を打つと、途中からこちらの会話を聞いていたらしい久我さんがおかしそうに笑う。
「その節は災難でしたな、桃ちゃん」
ぽんぽんと肩を叩かれた森下さんは、髪を弄りながらふんっと鼻を鳴らす。桃也さんからもじって桃ちゃんなんですね、とにこにこしていた岩見は、急に何かに気付いたように慌てた表情をした。
「あっ、そーだ、俺、戻らなきゃいけないんだった。久我さんっ、俺とエスのこと撮ってもらえませんか! これで!」
「ん? おー、いいよ。じゃあ並んで並んでー」
突然の頼みを快諾して、久我さんは岩見のスマホを受け取った。邪魔にならない端の方にいるとはいえ、人がたくさんいる廊下で固まっている俺たちは、なんとなく注目を浴びている。その中で更に写真を撮られるなんて、と少し躊躇したが、了承したのは俺だ。大人しく撮られておこうと思う。
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