My heart in your hand.

津秋

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three.

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ある日、同年代らしい五人組に絡まれたのは、図書館に行った帰り道だった。
相手はこちらを知っている様子だったが、俺はその中の誰にも見覚えがなかった。囲まれて話し合いで済むわけもなく、収束するまで大変だった。五人もいるとかなりきつかった。一方的にリンチされるようなことにならなくて良かったな、と思う。

蹲って呻いている五人組を放置し、落としてしまったボディバッグを拾い上げて、のろのろと帰路に着く。
はあ、と深く息をついた。痛いところが多くてどこを怪我しているのか正直よく分からない。
口元を擦ると乾いた血がついた。鼻血でひどい顔になっている気がする。すれ違う人を驚かせないようにハンカチで鼻から下を抑える。胸ぐらを捕まれた拍子にシャツのボタンは飛んでしまっているし、必要以上に汗をかいたし、そこに更に土やらなにやらで汚れた。散々だ。

帰ったら即、風呂に入る。一心にそのことだけを考えながら腹が立つほど蒸し暑い外を歩いた。


ようやく辿り着いた家の扉を開けると、玄関には男物の靴が散乱していた。二階からは複数の笑い声。陽慈の友達が来ているのだろう。兄は俺と違って友達が多い。

俺は足の踏み場もない玄関に顔をしかめて、隅で靴を脱いだ。汗も血もべたべたして気持ち悪い。先に洗面台で汚れた手と顔を洗った。今のところは、特別ひどく腫れたりはしていない。鼻血もちゃんと止まっている。それだけ確認して、自室に着替えを取りに行く。手前にある陽慈の部屋を通りすぎようとしたところで足音が聞こえたからか、中から名前を呼ばれた。
思わず舌打ちを漏らしてからドア越しに「なに」と応じる。

「ちょっとそこ開けてー」
ゆったりした調子の声が少しくぐもって聞こえる。普段なら陽慈の友達が来ていようと気にしないが、今の自分の姿を思って少し躊躇っていると「はやくー」と急かされた。無理だと言って話が長引くのも面倒なのでドアを開ける。

「なに、陽慈」
「お帰りはる―っわ! どしたの晴くん」
「帰り道で絡まれた」
興味津々といった視線が一斉にこちらを向き、すぐにぎょっとしたものに変わるのが分かった。
陽慈に答えながら、最低限の礼儀としてその場の人達に軽く会釈をしておく。

「え、同中の奴等? 未だに絡んでくるとか、晴貴のこと大好きだね」
「知らない人達だったけど」
「お前が覚えてないだけでしょー」

呆れたふうに言ってくる陽慈。帰ってきたときは甘ったるい茶色だった髪は、いつの間にか黒に戻っていた。長めでふわふわしていたのがさっぱりした短さに変わっている。

「病院行かなくて平気?」
「大丈夫」
「そう。ちゃんと手当しなよ」
陽慈はちょっと眉根を寄せて心配そうな顔をした。うん、と大人しく頷いて、部屋にいる顔ぶれを確認する。知らない顔ばかりで、地元の友達ではなさそうだ。大学の友達なのかもしれない。陽慈の大学はここからだって通えなくはない距離だから、友達が遊びに来ることもできるのだろう。
服や髪型に気を遣っているタイプが多いように思えた。陽慈と似た系統だ。

「で、なんの用だった?」
「ああ、そうそう。今日、夜どうする? って聞きたくて。こいつら泊まってくし出前とる?」
「あー……適当に食うし、陽慈も好きなようにしたら。泊めるのはいいけど、夜中に騒いだら、そこの窓から突き落とすから」
この人数が泊まるとなると、うるさくなること請け合いだ。半ば冗談半ば本気でそう告げると、陽慈以外の人がぴしりと固まった上に一様にガクガクと頷いたから、驚いた。
そんな反応をしなくても、騒がしかった場合の全ての責任は陽慈にあるから平気なのに。

「可愛い弟がドメスティックバイオレンス」
「理由ある制裁だろ、お兄ちゃん」

俺が何か言うより陽慈がフォローした方がいいので、友達の反応は見なかったことにして、自室に向かった。物で溢れた兄の部屋に比べ俺の部屋に置かれているものの種類は少ない。本がタワーを成しているのですっきりしているわけではないが。

すぐに風呂に行ってシャワーを浴びる。体を洗うと擦り傷が滲みた。案外、こういう傷の方が痛かったりする。
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