My heart in your hand.

津秋

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two.

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要領を得ない会話に少し苛々してきた。八つ当たり気味に岩見の足を軽く蹴る。

「いってえ! あはは」
痛がりながらも笑うことはやめない隣の馬鹿は無視して、俺より背の低い金髪を見下ろす。
「だからなに。後輩に泣きつかれでもしました? にしたって今更だけど」
「いや、それは違うな。俺は単に知り合いの一年からお前の話聞いて、強いなら喧嘩したいなと思って探してただけだからな」
「はいはい、俺も同じ!」
「俺は違うぞ。こいつらに勝手されると面倒なことになるから、付き添ってるだけ」

ああ馬鹿だ、と咄嗟に思った。
すこぶる真面目な様子で言い切った二人の真ん中で、ピンク色の髪の人が渋面を作って「悪いな」と詫びてくる。俺もきっと似たような表情になっているだろう。

「やば、めっちゃおもしろ、ふふ、喧嘩すんの? エス」
「お前も馬鹿か。喧嘩したいですって言われてじゃあしましょうとか、ねえだろ。どういうテンションでやんだよ」
へらへらとしている岩見を睨むと前から「ええっ」という非難めいた声が上がる。
「なんでだ! じゃあどういう風に誘えばよかったんだ!」
「―喧嘩売るなら不意打ちとか挑発とかいろいろあるだろうが」
金髪が馬鹿すぎて丁寧語すら使う気になれない。

「何にもしてない奴に不意打ちなんかしたら俺らが怒られるだろ!」
「いや知らねえし」
何を言っているんだと言わんばかりの表情で吠えられた。脱力感に襲われる。お前が何を言っているんだ。
どうしてのどかな休み時間に、こんな頭の悪い絡まれ方をしなければいけないのか。

「怒られるって誰にですか?」
「同じクラスの……。他クラスとか、他学年に迷惑かけたら怒るよって言われてる」
何気ない岩見の問いかけに赤髪は神妙に答える。
今まさに俺は迷惑をかけられている気がするが、これはカウントされないのだろうか。思わず視線を宙に投げる。もうこの人達を放置して帰りたい。

「今まさに迷惑かけているように見えんのは、俺の見間違い?」
直前に思考したことが別方向から声となって届いたことに驚いて顔を上げる。三人組より更に後ろ、少し離れたところにいつの間にか人が立っていた。

「うっわ、安里あさとクン」
「うそ、なんでいんの! 今日江角探してたの内緒だったのに!」
はっとして振り返った赤髪と金髪が、その人を認めた瞬間、分かりやすく慌てだす。

「なんでいんの、じゃないだろ、こーのおバカどもが! ももちゃんに聞いて慌てたっつーの。俺、絶対絡みに行くなよって言っておいたでしょうが」
「桃、裏切りか!」
「最初から味方じゃねえって」
一人だけ平然としているピンクの人がかったるそうに肩を竦めて、赤髪の非難を一刀両断した。どうやら、彼がこの"安里クン"という人を呼び寄せたらしい。
顔をしかめて大股で歩み寄ってきた男は、二人の首をがしっと捕えると強制的にこちらに頭を下げさせた。

「うちの子が大変ご迷惑をお掛け致しました。なんもされてねえ?」
「はあ―」
曖昧に頷くと、緑がかったアッシュの前髪の隙間から覗く両目が一瞬俺をじっと注視した。四人そろうととても頭がカラフルだ。Gクラスというのは派手な人が多いのかもしれない。

「安里クン、痛い!」
「いいじゃんよ、ちょっと喧嘩するだけだって。どのくらい強いか興味あんだもん。ちょっとだけ、ね?」
「黙らっしゃい。まじごめんな、この二人、俺らの中でも突き抜けてアホだし脳みそも筋肉だから。うざかったでしょ」
「そうっすね」
「ちょっとエス、同意するなよ、っ、くふっ」
「お前はさっきから笑いこらえきれてないから」
突き抜けてアホという表現にまあそうなのだろうなと納得してしまう。やれやれというふうにちょっと芝居がかった仕草で首を振った彼は、ようやく二人の頭を解放して怠そうに苦笑する。

「はーもう血の気が多くて困るわ。献血でもさせるべき? あ、桃ちゃんありがとうね」
「いや、俺は安里クン呼んだだけだし」
「うん、助かったわー。風紀に怒られたくないしね。つーわけで帰るぞーおバカども」

背中を押されながらも金髪が惜しそうにこちらを見てきた。そんな目で見られても困ると思っていると、安里クンと呼ばれていた人が振り返った。

「またこいつらに絡まれたら、俺に言って。―あ、俺のことは安里クンって呼んでくれればいいよ、二人とも。じゃあ」
つらつらと話して、こちらが何か言う前に笑顔を振りまき踵を返して歩いて行ってしまう。嵐のような四人を、俺たちは暫し唖然として見送った。

「何者だよ安里クン」
「それな」

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