My heart in your hand.

津秋

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two.

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翌日は、熱は殆ど下がっていたが念のためもう一日休んでおけと岩見に言い含められた。確かにまだ怠さがあったから俺は大人しく自室にいることにした。時間を持て余して読みかけの本へと伸ばしかけた手を、途中で止める。

少し考えてから代わりにシンプルなカバーの見慣れたスマートフォンを掴む。電源を点け画面をタップしてから、俺は丁重に見直した短いメッセージをキヨ先輩に当てて送った。昨日のお礼と体調回復の報告。
昨日の先輩は、ちょっと耳に挟んで心配になったから、くらいのノリに見えた。それにしたって随分優しいけれど、偶然聞こえたに過ぎない岩見の言葉を流さずにわざわざ確認してその上で来てくれたのだと思うと尚の事という気がする。
俺のことをとても気に掛けてくれている、と思ったって自惚れではないだろう。腹の辺りがむず痒くなるような、照れくさい気持ちになる。誰もいないが変な顔になっている気がして、意識的に表情を引き締めた。

あえて短い文章にしたのは、お礼を言いたいことと嬉しいと思ったことが多すぎたからだ。素っ気ないと思われてしまうかもしれないが、長い言葉は出てこないし短文に詰め込むだけで精一杯だった。
直接ならまだしも、ただの文字列で気持ちを伝えるのは難しいことは分かっているけれど。

用の済んだスマホを無造作に枕元に置いて、今度こそ本を手に取った。



電子音を鳴らした体温計の表示を確認して、当たり前のように差し出された手にそのまま渡す。
「おお。完全に下がったみたいだな。よかったよかった」
「ん。もう怠さもないし。いろいろありがと」
おめでとうとぺちぺち手を叩く岩見に礼を言う。
今はもう夕方だった。一度寝て起きたらすっかり元気になっていた。

「いえいえ」
「これで風呂入れる」
昨夜は汗をかいていたが、入浴は控えるよう岩見に言われた。不平を溢したところ、仕方ないなと体を拭いてくれたので不快感も幾分かはましになっていたけれど、やはり入浴が出来るに越したことはない。
日本人は風呂に入る生き物だ。
余談だが、体を拭いてもらっていたのがリビングだったため、食堂から戻ってきた北川が咄嗟に妙な誤解をしたらしくうわぁと叫ばれて驚いた。

「エスって潔癖に見えてそうでもないけど、でもやっぱ潔癖っぽいとこあるよな」
そんなことをつらつら思いながら発した俺の言葉に対し、岩見は何処と無く感慨深げにそう言った。
やや分かりにくい言い回しに俺はほんの少しその意味について考えた。
「どういう意味」
結局聞いたほうが手っ取り早いのでそうしたけれど。

「えーと潔癖っぽいのは雰囲気な。でも実際はそんなこともなくて、汚れとか必要以上には気にしないじゃん。お前、血とか普通に自分の服で拭ったりするし、地べたに座るし」
確かにあまり考えずにそうしてしまう。自己を省みながら頷く。

「でも部屋が散らかってるのは嫌がるし、埃見たら掃除せずにはいられないし、毎日風呂に入れないと不満だろ。そういうとこは潔癖っぽくてなんか面白い」
「うん? あー……まあ、うん、そうかも」

首を捻りながら頷く。確かに自分は大雑把な部分と神経質な部分を持ち合わせていると思う。

「でも、それって綺麗好きって言うんじゃないの。巷では」
「―あっ、確かにそうかもしれない。俗世とは程遠い暮らしをしているもので当てはまる言葉が出てこなかったようじゃ……」
「誰?」

岩見が笑うから、俺もつられて笑ってしまった。
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