My heart in your hand.

津秋

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two.

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傍らで小さく物音が聞こえた気がした。瞼を上げると、薄暗い中にキヨ先輩の顔が見えた。また少し眠っていたらしかった。

「……、いい匂い」
温かく食欲をそそる匂いがする。どうやら鼻はおかしくなっていないらしい。

「雑炊作った。起きられるか?」
頷いて上体を起こそうとすると、背に添えられた先輩の腕が動きを助けてくれた。
はい、と差し出される雑炊は、卵とネギで彩られていてとても美味しそうだった。スプーンを手渡されて、そっと柔らかな米を口に含む。

痛む喉をするりと通り抜けて腹の中が温かくなる。俺は息をついて先輩を見上げた。

「美味しいです」
「そっか」
笑いかければ嬉しそうに微笑み返された。これなら、残さずに食べきれるかもしれないとほっとしながら食べ進める。
下を向いた拍子に目に髪がかかった。鬱陶しいなと思う間もなく、その髪を先輩がするりと掬って耳に掛けた。撫でられるのと大して変わらないはずなのに、なぜかその行動には驚いてしまった。俺の動揺は先輩に分かりやすく伝わったらしく、彼はちょっと焦ったように「ごめん、つい」と言った。
「いや、大丈夫です」
答えながら、何が大丈夫なんだろうと自分で思ったし、"つい"って何だ、とも思った。

「これ、可愛いな」
「え?」
しばらく重みのない沈黙が続いたあと、ふとそんな言葉を投げられる。俺は器に残っていた最後の一口を飲み込んでから、キヨ先輩を見た。
彼の視線は俺の脇に置いた抱き枕に向けられている。同じようにそちらを見て、一拍。

「いやっ、これは―」
はっとして、俺は急いで口を開いた。
弁解しようとする俺に気付かずに、彼はそれを持ち上げた。抱き枕であるというのは、紛れもない事実だ。ただし、眠たげに目を垂れさせた羊の形をしているのが問題だ。
言葉に迷っているうちに先輩はそれをじっと見つめて「羊だな」といつもどおりの調子で言った。
そう、クリーム色で、見るからにふわふわした毛並みで、触るともちもちした感触の羊だ。

先程まで何も思わずにいつも通りに抱え込んでいたが、指摘されると途端にその行動にも羞恥心が沸き上がってきた。
十六にもなった、可愛さの欠片もない男がこんなファンシーなものを抱えて眠っているなんて。おかしいと思われるのが当然だろう。

元々熱っぽかったが、今は耳が特に熱い。

「―あの、本当、これは俺の趣味とかそういうのではなくて、触り心地が好きなだけで―」
「そうなの? 可愛いのに」
覚束ない言い訳をするが、先輩は事も無げにそう言って羊をむにむにと触る。
「うわ、もちもち。いいな、これ」とのんびり笑う様子に俺は余計な力が全部抜けた気がした。
心配したり焦ったりしなくても、彼は別におかしいとか違和感があるとか少しも思っていなかったようだ。なんというか、キヨ先輩らしいなと思った。
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