My heart in your hand.

津秋

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two.

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「あの人と、入学前からの知り合い?」
「中学が一緒だから」

俺の簡潔な答えに彼は「ああ、そうなんだ」と笑いを含んだ声で言った。何に対してのものかは分からないが馬鹿にするような響きを感じ取って眉を寄せる。
「なんか系統合ってないからさ」
「系統?」
「何て言うの、なんで一緒にいるんだろう、みたいな。釣り合いがとれてない感じ」
「―ああ」
一拍置いて応じた声は自分でも分かるほど無関心そうな冷えたものだった。釣り合っているとかいないとか、それは誰が決めるものなのだろう。俺と岩見がよければそれでいいんじゃないのか。
どうしていつもいつも他人が俺たちの関係に勝手に名前をつけようとしたり口を挟んだりするのだろうか。不快を通り越して笑ってしまいそうだ。

俺の様子に気付いていない彼はそのままこちらを振り返って言葉を続けた。

「違和感があるかないかって大事だと思うんだ、俺」
「何が言いたい。そういう核心に触れないでこっちに察しろって感じの言い回し、鬱陶しい。はっきり言えよ」

思わず立ち止まってしまった。人通りの少なくない廊下の隅。いくつもの目が好奇を乗せて俺たちを見ながら通りすぎていく。苛立ちが態度に出たせいか、目の前の男は焦ったような表情をした。
違和感、ってなんだ。それは誰の違和感だ。どうして俺が、他人がどう感じるかで行動を決めなきゃならない。

「怒るなよ、ただ、アドバイスをしたかっただけで……付き合う人間は選んだほうがいいと思って。チャラついたのは江角に似合わないと思うんだ。株が下がる。俺なら―」
目を瞬く。俺は無意識に、岩見に対して俺が釣り合わないと言われているのだと思っていた。でも、そうだ。こいつの言葉の選び方。意識すれば最初から、岩見を見下した物言いだった。
すっとこめかみの辺りが冷えた気がした。俺は、岩見という人間をよく知りもしない奴が知ったふうにあいつを貶す発言をするのが、何よりも心の底から、大嫌いだ。岩見のどこに、他人に馬鹿にされて見下されるような部分がある?

取り繕う口調と、誠実ぶった目の中に閃いた媚びるような光。こいつは、中学の頃に俺たちの傍に群れていた奴らと同じ人種だ。
俺や岩見を利用して利益を得ようとする人間。それ以上聞く価値はないと思った。不快になるだけだ。

「言われるまでもなく、俺は関わる人間は選んでる。お前みたいなのとは今こうして話していることすら不愉快だ」
「え、」
「お前は、岩見を何も知らないだろ」

言いたいことは色々あったが、この状態を長引かせると思うだけで気分が悪いし、そうする価値もないと思ったから、口にするのは止めた。それだけの言葉を投げつけて、固まったそいつを置いて俺はまた足を進めた。

名前は結局知らないままだが、隣のクラスなら特に関わることもないだろう。
俺に何を求めていたのか、何を得られると思っていたのかは知らないが、そんなものは全部勘違いだ。俺に大した価値はない。見誤っている。そんな奴が岩見を馬鹿にするな。
唇を強く噛みしめる。

あと五分で本鈴が鳴る。急げば間に合うが走る気にはならなかった。ざわざわと話し声で賑わう廊下を特に急ぐこともなく歩く。言葉にならない苛立ちと不快感が、胸の中でとぐろを巻いていた。


▽▽▽

「―どうした?」
天気がいいから昼は外で食べようという誘いを了承して出向いた中庭。瀟洒な噴水のほとりは、岩見が以前から気に入っている場所だ。
先に着いて弁当を広げていた岩見は、俺と顔を合わせた途端、目を丸くしてそう言った。

「ん?」
「なんかあった? 怖い顔になってるよ」
とん、と突かれた眉間を思わず片手で押さえる。無意識にそんな顔をしていたのか、と他人事のように思った。
「んー……」
「おいおい、元気だせよ。よしよし」
隣に腰掛ければ笑顔で髪を掻き回される。男にしては輪郭の滑らかな頬が綻ぶのを見て心が凪ぐ。

目を閉じて壁に背中を凭れさせる。背後にある噴水からさらさらと水音がした。岩見はこの水の音が好きなのだ。
とても綺麗な中庭なのに、外で食事をしている生徒は少ない。そのせいかこの場所はとても静かで昼休みの喧騒は遠く聞こえた。
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