My heart in your hand.

津秋

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今日は連休の最終日だった。夕方に帰ってきた岩見と、数日振りに二人で食事をする。
食堂はなんとなく外食をしているような気分になるので、岩見が作ってくれたものを食べるとほっとする。実家のような安心感、というやつだ。


「そういえば、風紀委員長と仲良くなった」
「えっ、ほんと? なんでなんで」
メインの豆腐ハンバーグを箸で一口大に切り分けながらふと報告する。岩見は好奇心をまるまるのせたような表情でこちらを見た。
聞かれるまま事の経緯を話す。

「―で、今度本貸してもらうことになった」
「へー! よかったじゃん。読書好き仲間だね。嬉しいねぇ」
「うん」
「おお、エスが分かりやすく喜んでる」
そう言う岩見の方がまるで自分のことのようににこにこと笑っている。揶揄われでもしたらなんてことないフリをしてしまいそうだが、こんな反応をされると隠す気にはならない。

「おばさん、元気だったか」
「元気元気。俺、すげーこきつかわれちゃった」
久しぶりに会うのにさぁ、と唇を尖らせるが実際は少しも不満に思っていないことは分かっている。岩見は母親と仲が良い。
「タカは?」
「タカは、元気だったし身長も伸びてた。つーかあの子、なんかちょっとモテてるっぽいの。女の子からお手紙貰ってたよ」
タカは岩見の四つ下の弟だ。
「手紙?」
「うん。ラブレター」
「中身、見たのか」
「見てないよーう。タカが告白されて手紙もらったって言ってたから。それってラブレターじゃん? って」
「小学生で告白とかするんだ」
「ね? 俺も同じこと思った。タカに聞いたら、付き合ってる子もいるって。」
「へえ」
すごいな、と素直に感心する。俺のときは、付き合っている人まではいなかったと思うのだが。俺が知らないだけだろうか。その説の方が有力な気もした。


食べ終えた食事に両手を合わせ、岩見の食器も重ねて洗い場に運ぶ。ダイニングテーブルに座った岩見が頬杖をついている様子が見える。
寮の一室とは思えないセミオープン型のキッチンなので、カウンター越しに会話は可能だ。

「いつもありがとー」
「それは俺の台詞だろ」
「エスはちゃんと共同で家事をするいい旦那になるよ」
目を細めてそんなことを言う。鼻で笑ってしまいながら、スポンジを手に取った。
暫く水につけておいた方が汚れは落ちやすいらしいが、やるべきことは間をおかずにやってしまいたいので省略する。

「お前、俺が誰かと結婚すると思うの」
未来について考えてみても、俺の隣に誰かが並んでいる光景というのは想像がつかなかった。隣は空白なのだ。岩見とは大人になってもそれなりに交流しているのは間違いないだろうが、思い浮かぶのはその程度。
俺が言うと、岩見はゆっくりと瞬きをした。元々少し口角の上がっている唇が緩やかに弧を描く。

「想像は出来ないかなあ」
「だろ。俺も」
「でも、エスに愛してもらえる人は幸せ。これは絶対」
「―お前、俺に対しては大抵が過大評価だよな」

信頼や好意からくるものだと分かっているから表現しがたい気持ちになる。
そのくせ自己評価は低いのだ。俺より岩見の方がよほどできた人間なのに、岩見は微塵もそうは思っていないのだろう。

「過大じゃねえよ。正当な評価ですー」
「そりゃどうも」
そう思っているのは多分岩見だけだ。

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