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元カレと友達と⑦
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「和泉も知花も、マジでうざい。黙って俺のいうこと聞いとけよ」
公園の片隅で言い争っていた二人だが、予想通りにキレた颯太が知花に手を出す事態になってしまった。
「先輩っ!こんなことしても無駄です!!」
「黙れって言ってるだろうが…」
髪を握るのとは逆の手が拳になり、勢いよく上へと上がるのが知花の視界に入る。
逃げ場の無い知花は咄嗟に目を強く瞑った。
次の瞬間、ガッという骨同士がぶつかり合う音が耳へと届く。
けれど、知花には痛みは無い。
それどころか、自分の頭を覆うように、誰かがしっかりと抱き込んで守ってくれている。
嗅いだことのあるその香りに、知花は相手の顔を見ずに悲痛の声を上げた。
「太一っ!!!!」
「…ほんっとお前…」
庇った太一の口の端には血が滲んでいたが、それすらも気にも留めず、知花の足元が浮いてしまいそうになる程抱きしめ、安堵の溜め息を吐いた。
「間に合って良かった…」
その声が優しく、温かく、知花は溢れる涙をそのまま受け入れる。
「和泉…お前、またかよ…!!」
「先輩、今まで色んな子に動画やら写真やらで脅してましたね?…まさか自分がそっち側になるなんて思いもしなかったでしょう?」
太一がクイっと顎先で方向を示すと、その先にはスマートフォンを構えたソフィアとヒューズがいた。
「……なっ!!」
「取引しましょうか。バラ撒かれたくなかったら、今すぐこの場で、スマホ内の画像と動画全部消してください。あ、勿論クラウドのやつも全部ですよ?」
太一はそっと知花を腕から解放すると、逃れようとする颯太の腕をがっしりと掴む。
颯太は周囲を一瞥したが、撮影を続けるソフィアも、その隣で冷やかな目で見下ろすヒューズもいる状況に観念したのか、渋々ポケットからスマートフォンを取り出した。
「知花っ!」
呼び掛けられ、胸へと飛びこんできたソフィアを抱き止めると、知花の胸に擦り寄るように溜め息を吐く。
「心臓が止まるかと思ったわ…貴女、無茶しすぎよ…」
「…ごめんなさい、それよりもどうして此処に」
知花がヒューズを見上げると、いつもより低い声で太一から高校時代の話を聞いたことを告げられた。
怒鳴りもしないし、表情も普段と殆ど変わらない。
けれどヒューズが怒っている、そう感じた知花は自分がしでかしたことを謝罪した。
「消去、終わったぞ。じゃあ先輩、もう帰っていいですよ。あ、もし次何かしようとしたら、これ持って警察行くんで」
顔も鮮明に映り込んだ動画を流しつつ、ブラブラとスマートフォンを見せつけると「わかった」と小声で返事だけをし、颯太は逃げるように駅の方へと走り去っていく。
「…はぁ、これで大人しくなるといいけどな。まぁ、念には念を押しておこうか」
すかさず太一が画面の上で指を滑らせる。
知花はいけないと思いつつも、太一の傍へと寄りその指先の動きを見つめた。
「念には念をって…一体何をするの?」
「ん?お前の弟に動画送った」
「へ!?櫂に!?」
「高槻先輩、お前の親父さんとこに入社したがってたからな。要注意って送っといた。」
櫂は知花とは比べものにならない程の頭の良い弟であり、いずれ会社の代表である父の跡を継ぐために、ただ今絶賛、英才教育中なのだ。
つまり、次期社長。
今はまだ学生でもあと数年もすれば櫂は父の会社へ入り、社内でもずば抜けた発言力を持つ存在になるだろう。
(先輩、うちの会社どころか取引先、全部駄目かも…)
「あら。生きていけるだけ、まだ優しいじゃない。ヒューズだったら、即刻叩き斬っていたんじゃないかしら?」
「…随分と物騒な冗談言うな、このお嬢様」
冗談ではないと思いますとは言えず、知花は目と口をギュッと結んだ。
「あ、そうだ」
知花は鞄からハンカチを取り出すと、太一の口の端を刺激しないように触れる。
だが、既に血は固まり始め、口の端の褐色は取れない。
「…ごめん…痛かったよね?」
「お前が怪我するよか、マシだ」
フイっと顔を背けたが、その耳はほんのりと赤い。
(…素直じゃないんだから)
でも、誰よりも優しい太一。
顔を背けても、知花は追いかけるように太一の顔を覗き込む。
くるくると一周追いかけっこをしたあと、観念した太一が横目で知花と目を合わせた。
(本当は皆に太一の良い所、知って欲しいけど…今は、まだ私だけでもいいや)
知花がへにゃりと笑うと、呆れたように眉を下げた太一が照れくさそうに微笑んだ。
公園の片隅で言い争っていた二人だが、予想通りにキレた颯太が知花に手を出す事態になってしまった。
「先輩っ!こんなことしても無駄です!!」
「黙れって言ってるだろうが…」
髪を握るのとは逆の手が拳になり、勢いよく上へと上がるのが知花の視界に入る。
逃げ場の無い知花は咄嗟に目を強く瞑った。
次の瞬間、ガッという骨同士がぶつかり合う音が耳へと届く。
けれど、知花には痛みは無い。
それどころか、自分の頭を覆うように、誰かがしっかりと抱き込んで守ってくれている。
嗅いだことのあるその香りに、知花は相手の顔を見ずに悲痛の声を上げた。
「太一っ!!!!」
「…ほんっとお前…」
庇った太一の口の端には血が滲んでいたが、それすらも気にも留めず、知花の足元が浮いてしまいそうになる程抱きしめ、安堵の溜め息を吐いた。
「間に合って良かった…」
その声が優しく、温かく、知花は溢れる涙をそのまま受け入れる。
「和泉…お前、またかよ…!!」
「先輩、今まで色んな子に動画やら写真やらで脅してましたね?…まさか自分がそっち側になるなんて思いもしなかったでしょう?」
太一がクイっと顎先で方向を示すと、その先にはスマートフォンを構えたソフィアとヒューズがいた。
「……なっ!!」
「取引しましょうか。バラ撒かれたくなかったら、今すぐこの場で、スマホ内の画像と動画全部消してください。あ、勿論クラウドのやつも全部ですよ?」
太一はそっと知花を腕から解放すると、逃れようとする颯太の腕をがっしりと掴む。
颯太は周囲を一瞥したが、撮影を続けるソフィアも、その隣で冷やかな目で見下ろすヒューズもいる状況に観念したのか、渋々ポケットからスマートフォンを取り出した。
「知花っ!」
呼び掛けられ、胸へと飛びこんできたソフィアを抱き止めると、知花の胸に擦り寄るように溜め息を吐く。
「心臓が止まるかと思ったわ…貴女、無茶しすぎよ…」
「…ごめんなさい、それよりもどうして此処に」
知花がヒューズを見上げると、いつもより低い声で太一から高校時代の話を聞いたことを告げられた。
怒鳴りもしないし、表情も普段と殆ど変わらない。
けれどヒューズが怒っている、そう感じた知花は自分がしでかしたことを謝罪した。
「消去、終わったぞ。じゃあ先輩、もう帰っていいですよ。あ、もし次何かしようとしたら、これ持って警察行くんで」
顔も鮮明に映り込んだ動画を流しつつ、ブラブラとスマートフォンを見せつけると「わかった」と小声で返事だけをし、颯太は逃げるように駅の方へと走り去っていく。
「…はぁ、これで大人しくなるといいけどな。まぁ、念には念を押しておこうか」
すかさず太一が画面の上で指を滑らせる。
知花はいけないと思いつつも、太一の傍へと寄りその指先の動きを見つめた。
「念には念をって…一体何をするの?」
「ん?お前の弟に動画送った」
「へ!?櫂に!?」
「高槻先輩、お前の親父さんとこに入社したがってたからな。要注意って送っといた。」
櫂は知花とは比べものにならない程の頭の良い弟であり、いずれ会社の代表である父の跡を継ぐために、ただ今絶賛、英才教育中なのだ。
つまり、次期社長。
今はまだ学生でもあと数年もすれば櫂は父の会社へ入り、社内でもずば抜けた発言力を持つ存在になるだろう。
(先輩、うちの会社どころか取引先、全部駄目かも…)
「あら。生きていけるだけ、まだ優しいじゃない。ヒューズだったら、即刻叩き斬っていたんじゃないかしら?」
「…随分と物騒な冗談言うな、このお嬢様」
冗談ではないと思いますとは言えず、知花は目と口をギュッと結んだ。
「あ、そうだ」
知花は鞄からハンカチを取り出すと、太一の口の端を刺激しないように触れる。
だが、既に血は固まり始め、口の端の褐色は取れない。
「…ごめん…痛かったよね?」
「お前が怪我するよか、マシだ」
フイっと顔を背けたが、その耳はほんのりと赤い。
(…素直じゃないんだから)
でも、誰よりも優しい太一。
顔を背けても、知花は追いかけるように太一の顔を覗き込む。
くるくると一周追いかけっこをしたあと、観念した太一が横目で知花と目を合わせた。
(本当は皆に太一の良い所、知って欲しいけど…今は、まだ私だけでもいいや)
知花がへにゃりと笑うと、呆れたように眉を下げた太一が照れくさそうに微笑んだ。
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