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第十二話 Sランク

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「・・・さてと、ここだな」

 れんと話した翌日、諒はとある酒場に来ていた。莉彩にれんの事を相談したとき、彼女からも話を一つ聞かされていた。
 とあるパーティーからの勧誘話。本来諒は勧誘拒否を受付に頼んでおり、ギルドを通しての勧誘話は全て断るようにしていた。
 そうしておけば直接声をかけられない限り諒にそういった話が届くわけではない。
 だから莉彩からその話題が出た時は非常に驚いた。しかし、そのパーティーを聞かされた時納得がいった。
 「魔狩りの騎士団」、ギルドに所属するパーティーの中でも最高峰、Sランクに属するパーティーだ。
 Sランクになるとパーティーの名前を正式に決めることができ、Sランクか否かの判別はそれで簡単に出来る。とは言ってもこのランク帯のパーティーはほぼ存在しない。
 両手で数えきれる程度しかいないはずだ。
 そんな彼らのギルドからの信頼度は非常に高く、逆にギルドもSランクからの頼みを無下にすることは中々出来ない。
 それが勧誘拒否をしていながらこの話が諒に届いた理由であった。
 とはいえかなり意外な話だった。諒の実力はAランク相当だ。確かに個人としての戦力はかなり高い部類に入るが、それでもさすがにSランクから話が来ることはないだろうと思っていたからだ。
 そんなSランク様が一体なんといって諒を引き入れるのか、入る気こそないが少し興味があった。
 酒場のドアを開け、一度大きく息を吸い込んで中に入る。

「お待たせしました。御門さん」
「・・・時間通りだ。別に待った内に入らないよ、霧矢諒君」

 中にほとんど人の姿はほとんどなく、正面にその男はいた。
 御門誠也(みかどせいや)、この男こそが魔狩の騎士団を統率するリーダーだ。
 リーダー直々に来るとは、向こうもかなり真剣らしい。
 誠也に促されて諒は彼の正面に座る。

「俺は勧誘を断っていたはずですが、一体どういうことですか?」
「ふむ、それについては無礼を詫びよう。だが、優秀な人間を求める気持ちは、元々Aランクにいた君ならわかるのではないか?」
「・・・そうですね、多少は」

 どうやら諒のことはそれなりに調べてきているらしい。猛竜と戦うならそのランクに到達したことは容易に想像できるだろうが、彼の表情からそれはわかった。

「それに、君も嬉しいのではないか?Sランクパーティーに一員になることは名誉なことだ。それは冒険者をやっている人間ならだれでもわかる。その敷居の高さもな。そこからの勧誘ともなればむしろそちらから飛び込んでくると思ったが?」
「・・・俺の事を調べてるなら、れんの事も知っているでしょう。彼女はどうするつもりですか?」

 諒の答えに誠也は意外そうに目を丸くした。

「・・・氷川れんか、確かに知っている。そして、君と一緒に呼ばなかった時点で答えはわかるのではないかね」
「・・・そうですね、でしたら俺の答えも決まっています。あなたの勧誘は受けません」

 そこで初めて誠也は不機嫌そうな表情を示した。自分とまだ初心者と大差ないれんを比べられたと受け取ったのだろう。
 そして彼はれんに負けた。そう考えたのであれば怒るのも無理はない。
 誠也はテーブルに置かれた酒を一気に飲みこんで気持ちを落ち着ける。

「わからないな。なぜあんな少女に肩入れする?君になんの得があるというんだ?」
「・・・あいつはあなたに持っていないものを持っている。俺はそれを信じようと決めた。それだけのことです」
「・・・そうか、ならこれ以上余計なことを話すのはやめよう」
「・・・?」

そういって誠也は指を鳴らす。その瞬間奥に控えていたであろう彼の部下が出てきて諒を取り囲む。

「・・・どういうことですか?」
「これは警告だ。だが、実際にけがをするのは君じゃない」
「・・・れんの事を言っているんですか?」
「さあね。だが、君が私の下に来ないというなら、君の大事な相棒の安全は保障出来ない」
「・・・」
「Sランクが勧誘を断られたとあっては私のブランドにも傷がつく。手荒い手段を使ってでも、君には加入してもらう」
「・・・そうですか」

 ここまでされるのは予想していなかった。
 諒を取り囲む五人の冒険者は武器を抜いてこそいないがすぐにでも臨戦態勢をとれるように身構えていた。

「もう部下は向かわせている。私が合図をすれば、すぐにでも・・・」

 誠也は諒を焦らせるようにそう付け加える。れんが大事だと言われた時点でこの作戦が成功すると確信したのだろう。
 イラついた表情はいつのまにかどこか上機嫌なものに戻っていた。

「・・・わかりました。じゃあ俺も手荒な手段を取りましょう」
「何をするつもりかな?言っておくがそこにいる奴らもかなりの手練れだ。君が首を縦に振らないままここを出ることは出来ないものと思った方がいい」

 誠也がそういった瞬間、諒はドラゴンダイブを発現して竜気を周りに放った。
 竜族にさえも有効に働く竜気は人間が食らえばたまったものではない。今回はかなり抑えているが、量によっては一瞬で命を奪うことさえできる。それはどんな手練れだろうと関係ない。竜気に耐性をつけるのはそう簡単なことではないからだ。
 一瞬で周囲の冒険者の意識が奪われ、この空間に残ったのはあっという間に諒と誠也だけになった。
 一瞬の出来事に誠也は驚愕の表情を浮かべている。そんな彼をしり目に、諒はゆっくりと立ち上がる。

「俺はここで失礼します。勧誘をしたいのであれば、もっとましな条件を持ってきてください」

 そうとだけ残し、諒は店を出た。
 もう誠也は彼を追うことも呼び止めることもなかった。

「・・・れん」

 店を出た諒はすぐにれんの家に向かった。
 誠也の言葉が本当であれば、彼女に何か危険が及んでいても不思議ではない。彼の言葉からは確固たる「本気」が見て取れた。それが諒の不安をあおっていた。
 ここかられんの家まではそう離れていない。数分でたどり着いて諒はドアを叩いた。

「れん、いるか?」

 見た所違和感のある部分はない。少しだけ安堵するが、ノックしても反応がなかった。
 家にいない?外出しているのだろうか。だが時間帯を考えれば買い物に行くとは少し考えにくい。
 依頼も休むと伝えているし、ギルドに行っている理由もないだろう。
 だとすれば、諒の不安は一気に高まって来た。

「れん!いるか、れん!!」
「・・・諒さん?そんなに慌ててどうしたんですか?」

 壊さんとばかりにドアを叩いた瞬間、ゆっくりと開いてれんが顔を出した。

「・・・なんだ、いたのか」
「はい・・・ええと、何か用ですか?」

 れんからも特に異常は見当たらない。さっきまで昨日買ったケーキを食べていたのか、口元にクリームが付いていた。
 誰かが来たようには思えない。

「・・・悪いな、なんでもない。悪い夢でも見たみたいだ」
「?・・・大丈夫ですか?どこか悪いんじゃ・・・」
「大丈夫だ、お前こそゆっくり休めよ」

 そう言って諒はドアを閉めた。

「・・・どういうことだ?」

 嘘だったのか?すぐには判断がつかなかった。
 周囲を見回してもそんな人間の気配は感じない。
 諒の問いに答えるものはなく、なんとも歯がゆい静けさだけが彼を包んでいた。
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