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魔法省人事録(4)
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空飛ぶ狼ことラルゲイユスとの戦いは始まった。魔法省の職員一同が一斉に思いも思いの魔法を放とうとする。あの巨大な白き狼に。
放たれた魔法、炎や氷、あるいはエネルギーそのものの青い光など形も大小も様々な魔法が全て向かっていく。並の魔物どころかドラゴンすらも倒せる勢いで。
ラルゲイユスはそれを見ていた。そして一声大きい咆哮と共に全て焼き焦げ、蒸発するかのように魔法は消えていく。
「な、我ら一同の魔法を防いだだと!?」
その様子に驚きを隠せない職員が出る中、俺はただあいつを見て、分析しようとしていた。それは隣にいるロベルトも一緒だ。
だが俺は分析も兼ねてある人物を探していた。近くにいない彼女を。
「メアリーはどこに…」
背後のレンガ造りの建物、魔法省の施設であるそこは大規模でもあるに関わらず、相当量の破壊が行われていた。
中にいる数十人単位の職員全員がおそらく異常事態に気づき、こうして対処するだろう。現にあちこちから魔法省の職員が奴に向かって魔法を放とうとしている。別な建物の屋根の上からあるいは騎士のように隊列を組んだりなど。
だが全てあのラルゲイユスには届かない。そしてメアリーもまた加勢しているかもしれない。だが一向に見つからないのだ。
そして突然、ラルゲイユスは叫び続けていた咆哮を止めた。同時に視界を悪くしていた雷が消える。雨風は消えていないが。
『……人の子よ。我に立ち向かう者有志達よ、その目に焼き付けよ。これが我の権化を』
そう声が響いた瞬間、あちこちで地面が割れそこから光が漏れ出す。
「な、なんだこれは…」
「全員気をつけろ!」
「何か来るぞ!」
全員が攻撃を止め、防御の姿勢へと移る。確実に何か来る。おそらくは地面からと予測して。
そして…
『オオオオオォォォォォ』
腹に響くような天の声と同時に無数の稲妻が地面、いや空や無の空間からパチパチと飛び出して来る。
その稲妻はここら一体を包み込む。電流は雨により伝導され、広がっていくと同時に焦げるような臭いが霞んでくる。
「なんだこの数!?」
おびただしい量の稲妻、それらは近くにいた魔法省の職員の体を焼き払っていく。俺とロベルトは場所が良かったのか雷の攻撃がそこまで来なかった。
「…ロディやばいぞ。これ順番で来るやつだ」
だがロベルトの言葉にハッと気づく。雷はラルゲイユスに近い者程先に受けていた。それらは人を伝って行きながら人に移る。
そしてその流れは俺のすぐ近くまで来ていた。
「…!」
俺はどうにか雷防御の魔法を唱える。日常生活程度にしか使わなかったこれだが思わぬところで役に立った。
「次が来るね、まあここは俺が…」
交代でロベルトが正面からやって来る稲妻を防ごうとした瞬間
ドガァァァ!!!
何が起きたかと音の方では、稲妻が複数の建物を巻き込み、壊しながら人を焼き払い、ほしてこちらへとやって来ていた。
瓦礫が浮遊し、雨風に晒され、雷により怪しく光る。同じく浮いて、壊れたレンガ造りの道路から漏れ出た土やら植物がはっきりと見える程に。
「…ッッ」
次の瞬間、今までにないほどの衝撃が俺達を襲った。稲妻がすぐそばを通り過ぎていく。
「な、な、アアア!!!」
「クソっ!何だってん…ガァ!」
だが避けきれない者は稲妻に体を蝕まれ、内側から燃えていく。やがて皮膚の薄い部分から焼け落ちて絶命する。最終的には全て焼け落ちて、灰となる。
ロベルトはおそらくエネルギーの方向を変える魔法だろうか、それで防いでいるのか彼の操作する魔法の魔力の流れを目には見えないが感じ取れた。
「…畜生」
俺はそう声を発していた。自分で思うことは人一倍正義感というのだろうか、とにかくそれが敏感だった。
無関係に、理由もなく、そして理不尽に蹂躙される様は見ていて不愉快極まった。だからこうして俺はここにいる。
一度統一されている世界なのだ。言語という枠組みによって。
だから可能なはずだ。俺の願いである。全人類の平等も。
「あのケダモノ、絶対殺してやる」
俺は憎しみを精一杯込めてそう言った。
『…愚かな、人の子よ。我が本気を見せてやろう』
天の声が俺に答えるかのようにそう言った。そして俺は本を開いた。
放たれた魔法、炎や氷、あるいはエネルギーそのものの青い光など形も大小も様々な魔法が全て向かっていく。並の魔物どころかドラゴンすらも倒せる勢いで。
ラルゲイユスはそれを見ていた。そして一声大きい咆哮と共に全て焼き焦げ、蒸発するかのように魔法は消えていく。
「な、我ら一同の魔法を防いだだと!?」
その様子に驚きを隠せない職員が出る中、俺はただあいつを見て、分析しようとしていた。それは隣にいるロベルトも一緒だ。
だが俺は分析も兼ねてある人物を探していた。近くにいない彼女を。
「メアリーはどこに…」
背後のレンガ造りの建物、魔法省の施設であるそこは大規模でもあるに関わらず、相当量の破壊が行われていた。
中にいる数十人単位の職員全員がおそらく異常事態に気づき、こうして対処するだろう。現にあちこちから魔法省の職員が奴に向かって魔法を放とうとしている。別な建物の屋根の上からあるいは騎士のように隊列を組んだりなど。
だが全てあのラルゲイユスには届かない。そしてメアリーもまた加勢しているかもしれない。だが一向に見つからないのだ。
そして突然、ラルゲイユスは叫び続けていた咆哮を止めた。同時に視界を悪くしていた雷が消える。雨風は消えていないが。
『……人の子よ。我に立ち向かう者有志達よ、その目に焼き付けよ。これが我の権化を』
そう声が響いた瞬間、あちこちで地面が割れそこから光が漏れ出す。
「な、なんだこれは…」
「全員気をつけろ!」
「何か来るぞ!」
全員が攻撃を止め、防御の姿勢へと移る。確実に何か来る。おそらくは地面からと予測して。
そして…
『オオオオオォォォォォ』
腹に響くような天の声と同時に無数の稲妻が地面、いや空や無の空間からパチパチと飛び出して来る。
その稲妻はここら一体を包み込む。電流は雨により伝導され、広がっていくと同時に焦げるような臭いが霞んでくる。
「なんだこの数!?」
おびただしい量の稲妻、それらは近くにいた魔法省の職員の体を焼き払っていく。俺とロベルトは場所が良かったのか雷の攻撃がそこまで来なかった。
「…ロディやばいぞ。これ順番で来るやつだ」
だがロベルトの言葉にハッと気づく。雷はラルゲイユスに近い者程先に受けていた。それらは人を伝って行きながら人に移る。
そしてその流れは俺のすぐ近くまで来ていた。
「…!」
俺はどうにか雷防御の魔法を唱える。日常生活程度にしか使わなかったこれだが思わぬところで役に立った。
「次が来るね、まあここは俺が…」
交代でロベルトが正面からやって来る稲妻を防ごうとした瞬間
ドガァァァ!!!
何が起きたかと音の方では、稲妻が複数の建物を巻き込み、壊しながら人を焼き払い、ほしてこちらへとやって来ていた。
瓦礫が浮遊し、雨風に晒され、雷により怪しく光る。同じく浮いて、壊れたレンガ造りの道路から漏れ出た土やら植物がはっきりと見える程に。
「…ッッ」
次の瞬間、今までにないほどの衝撃が俺達を襲った。稲妻がすぐそばを通り過ぎていく。
「な、な、アアア!!!」
「クソっ!何だってん…ガァ!」
だが避けきれない者は稲妻に体を蝕まれ、内側から燃えていく。やがて皮膚の薄い部分から焼け落ちて絶命する。最終的には全て焼け落ちて、灰となる。
ロベルトはおそらくエネルギーの方向を変える魔法だろうか、それで防いでいるのか彼の操作する魔法の魔力の流れを目には見えないが感じ取れた。
「…畜生」
俺はそう声を発していた。自分で思うことは人一倍正義感というのだろうか、とにかくそれが敏感だった。
無関係に、理由もなく、そして理不尽に蹂躙される様は見ていて不愉快極まった。だからこうして俺はここにいる。
一度統一されている世界なのだ。言語という枠組みによって。
だから可能なはずだ。俺の願いである。全人類の平等も。
「あのケダモノ、絶対殺してやる」
俺は憎しみを精一杯込めてそう言った。
『…愚かな、人の子よ。我が本気を見せてやろう』
天の声が俺に答えるかのようにそう言った。そして俺は本を開いた。
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