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第175話 過去のおはなし(11)
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「魔王軍かぁ…」
「魔王軍らしいよ」
「嫌だなぁ」
あれから二週間後くらいだろうか、とある話がこの街で出回り始めた。
聞けば魔王軍の残党だかなんだか知らないが、この街に隣接している薄霧の森、その名の通り年中薄い霧で覆われている森でどうもそれらしき奴を見かけた人がいるらしい。
「…冒険者ならそこで倒すか逃げるかしてるでしょうけど…どういう奴だったって?」
「それがね」
ベラドンナはう~んと頭を捻らせた後に話し始めた。
「なんだか人間っぽかったって」
「…?それはどういうこと?」
「要はとても危ない魔物だって話だよ」
そんなことは分かる。人型の魔物は大体が知性を持っている。
「…てかそれが魔王軍かもってどうしてなったわけ?」
「本人が言ってたらしいよ、「僕は魔王軍の~」って」
「それでよく生きて帰ってこれたもんだよ」
「いや帰ってこれてない」
「ん…?」
ベラドンナはそう言うと神妙な顔付きになって話を切り出す。
「6人組のパーティーで森の中に入ったらしいけど3人が瞬殺されて残り2人は途中で行方不明、かろうじて生き残ってきた人がこの街に帰ってこれたって話」
「…そうなんだ」
「それで、私達がその2人を助けに行くことになったの」
「へぇ~、っておいちょっと待て、私それ聞いてない」
「ごめん…言うつもりではあったんだけど…」
「いや6人のうち5人が死んでるんだよ…ここ仮にも腕利きの冒険者が多い街なんだよ?それで私達2人ってのはさすがに無謀すぎない?」
「でもギルドから直接の依頼でどうしてもお願いしますって言うから…断ることなんてできないよ、私には」
あのギルド、ベラドンナの純情をうまく利用してるな。だから私には後から伝えるという形になってるんだ、私がいたら話が拗れるから。
「…それでもう依頼を受けたと?」
「うん、あの森に出るのは極めて珍しいらしいし、調査もお願いって」
「………はい」
-薄霧の森-
「ねぇ、これ雨降りそうだけど大丈夫?」
「日暮れまでは降らなそうだから大丈夫よ!」
今現在、ベラドンナとこうして仲良く森の中を散歩しているわけだが、薄気味悪い霧と木々があるだけで特にこれと言って何もない。
「どこら辺?この辺、冒険者が拾うような薬草とかそういうのはなさそうだけど?」
「もう少し先だね、確かこの先の泉の近くらしい」
「泉?」
「普通の水じゃなくて聖水って言われるものらしいよ」
「病気の治りが早くなるやつか」
しばらく歩いていけばその泉はあった。そこも霧に覆われているため砂漠の中のオアシスのような感じはミリ単位で感じない。
泉の大きさは直径20m程度、水の色は霧に関係なく底まで見える程に澄んでいて霧さえなければ神秘的なんだろうにと思うが。
「一段落休んでいこ、ここら辺に冒険者は…」
その時だった。ブワッと大きな風が通り抜けて行った。木々が一瞬横薙ぎになるように揺れ、私達の衣服と髪が風で乱れる。
「え、何今の?」
ベラドンナにもその正体は分からないらしく、風の吹いてきた杜の奥をじっと見据えている。お互いに魔法を唱える準備はできている。
「…最悪この森一帯吹き飛ばすから」
冗談のようにして私はベラドンナにそう言ったつもりだったが返事がない。こういう時に彼女は何かツッコんでくるわけだが。
「………べラド?」
私は横を見ていた。ベラドンナは動いていなかった。だが多少の違和感がそこにあった。
「どうしたの?」
「……な、なんでだろ…さっきからさ…私…」
その瞬間だった。凄まじい炎と氷の波動が目の前で現れた。
「は?」
いや…何故急に魔法が…てかなんだこの威力…というかなんだこの魔法…誰が…
「ぎっ…!ぐっ…!」
咄嗟に自分を守るための魔法の[防御陣]を発動させたが威力が強すぎる。だがこの魔法の効果がかなり長い。
「……っ!!!は…あ…!」
もう少しで死ぬ間際、魔法が終わった。直撃はしてないがかなり疲労が溜まっている。
「な、なんで…私…やめてお願い!」
「え…ベラド…今の魔法まさか…」
私は困惑した。ベラドンナは無傷で立っていた。確かにベラドンナの方から魔法が飛んできた、だが彼女は何故だかこっちに手を翳していた。
となれば…答えは一つしかない。だが…どうして?そして彼女は何故一人で恐怖に陥っているのか。
『や、こんにちは』
…何がどうなっている。どこからともなく声がする。男の生優しい声だ。穏やかで透き通るような声。
『君達にも大体分かると思うけど、その女の子の体は僕が頂いたよ。この魔王軍幹部のファランクスがね』
「魔王軍らしいよ」
「嫌だなぁ」
あれから二週間後くらいだろうか、とある話がこの街で出回り始めた。
聞けば魔王軍の残党だかなんだか知らないが、この街に隣接している薄霧の森、その名の通り年中薄い霧で覆われている森でどうもそれらしき奴を見かけた人がいるらしい。
「…冒険者ならそこで倒すか逃げるかしてるでしょうけど…どういう奴だったって?」
「それがね」
ベラドンナはう~んと頭を捻らせた後に話し始めた。
「なんだか人間っぽかったって」
「…?それはどういうこと?」
「要はとても危ない魔物だって話だよ」
そんなことは分かる。人型の魔物は大体が知性を持っている。
「…てかそれが魔王軍かもってどうしてなったわけ?」
「本人が言ってたらしいよ、「僕は魔王軍の~」って」
「それでよく生きて帰ってこれたもんだよ」
「いや帰ってこれてない」
「ん…?」
ベラドンナはそう言うと神妙な顔付きになって話を切り出す。
「6人組のパーティーで森の中に入ったらしいけど3人が瞬殺されて残り2人は途中で行方不明、かろうじて生き残ってきた人がこの街に帰ってこれたって話」
「…そうなんだ」
「それで、私達がその2人を助けに行くことになったの」
「へぇ~、っておいちょっと待て、私それ聞いてない」
「ごめん…言うつもりではあったんだけど…」
「いや6人のうち5人が死んでるんだよ…ここ仮にも腕利きの冒険者が多い街なんだよ?それで私達2人ってのはさすがに無謀すぎない?」
「でもギルドから直接の依頼でどうしてもお願いしますって言うから…断ることなんてできないよ、私には」
あのギルド、ベラドンナの純情をうまく利用してるな。だから私には後から伝えるという形になってるんだ、私がいたら話が拗れるから。
「…それでもう依頼を受けたと?」
「うん、あの森に出るのは極めて珍しいらしいし、調査もお願いって」
「………はい」
-薄霧の森-
「ねぇ、これ雨降りそうだけど大丈夫?」
「日暮れまでは降らなそうだから大丈夫よ!」
今現在、ベラドンナとこうして仲良く森の中を散歩しているわけだが、薄気味悪い霧と木々があるだけで特にこれと言って何もない。
「どこら辺?この辺、冒険者が拾うような薬草とかそういうのはなさそうだけど?」
「もう少し先だね、確かこの先の泉の近くらしい」
「泉?」
「普通の水じゃなくて聖水って言われるものらしいよ」
「病気の治りが早くなるやつか」
しばらく歩いていけばその泉はあった。そこも霧に覆われているため砂漠の中のオアシスのような感じはミリ単位で感じない。
泉の大きさは直径20m程度、水の色は霧に関係なく底まで見える程に澄んでいて霧さえなければ神秘的なんだろうにと思うが。
「一段落休んでいこ、ここら辺に冒険者は…」
その時だった。ブワッと大きな風が通り抜けて行った。木々が一瞬横薙ぎになるように揺れ、私達の衣服と髪が風で乱れる。
「え、何今の?」
ベラドンナにもその正体は分からないらしく、風の吹いてきた杜の奥をじっと見据えている。お互いに魔法を唱える準備はできている。
「…最悪この森一帯吹き飛ばすから」
冗談のようにして私はベラドンナにそう言ったつもりだったが返事がない。こういう時に彼女は何かツッコんでくるわけだが。
「………べラド?」
私は横を見ていた。ベラドンナは動いていなかった。だが多少の違和感がそこにあった。
「どうしたの?」
「……な、なんでだろ…さっきからさ…私…」
その瞬間だった。凄まじい炎と氷の波動が目の前で現れた。
「は?」
いや…何故急に魔法が…てかなんだこの威力…というかなんだこの魔法…誰が…
「ぎっ…!ぐっ…!」
咄嗟に自分を守るための魔法の[防御陣]を発動させたが威力が強すぎる。だがこの魔法の効果がかなり長い。
「……っ!!!は…あ…!」
もう少しで死ぬ間際、魔法が終わった。直撃はしてないがかなり疲労が溜まっている。
「な、なんで…私…やめてお願い!」
「え…ベラド…今の魔法まさか…」
私は困惑した。ベラドンナは無傷で立っていた。確かにベラドンナの方から魔法が飛んできた、だが彼女は何故だかこっちに手を翳していた。
となれば…答えは一つしかない。だが…どうして?そして彼女は何故一人で恐怖に陥っているのか。
『や、こんにちは』
…何がどうなっている。どこからともなく声がする。男の生優しい声だ。穏やかで透き通るような声。
『君達にも大体分かると思うけど、その女の子の体は僕が頂いたよ。この魔王軍幹部のファランクスがね』
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