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1965年(16)

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「…ナワリヌフと言ったか、少しこっちに来てくれないか?」

私が感傷に浸っていた時、ステパーシンの声に呼ばれた。

私は言われるがまま彼に近づくと彼は低く、しわがれた声ではっきりと言った。

「…君にとってこの国はどういう存在なんだ?」

「…どうとは?」

「この国は君の国からしたら敵だ。だが、君自身にとってこの国はどう見える?」

「…分かりませんが…この国には人々が暮らしている。それぞれの人生がある。それはアメリカもソ連ま、もっと言えば世界に共通していることだと…例えどんな人にも…」

「人生はある…か。なるほど、君はこの国を…嫌いじゃないのか」

「好きや嫌いで敵味方というわけではないと思います」

「…そうだろうな。私は平和を願う者、だがそれは私の死が…もっと言えば友人の死の時に気づいたよ。少し話を聞いてくれないか?」

「もちろんです」

「そう言ってくれ助かるよ…私には古い友人がいてね…彼も軍人だった。私と一緒に戦地へと出向き、戦った。ドイツ兵とね。だがある日、彼が怪我をして、まともに戦える状態じゃなくなった。
私は一部隊の指揮官で彼はその部下という立ち位置だった。私は国に隊の撤退をお願いした。だがかえってきたのは撤退は許さないという伝言だった。ならば負傷者の帰還だけでもとお願いしたが、それも駄目だった…。
1週間後くらいに友人は死んだ。破傷風で苦しんで死んだ。その直後に例の基地の管理を半ば強引に任された。私だけ戦地から撤退することになることに反対したが、無駄だった。私は仲間を置いて一人戦地を離れた…」

ステパーシンはそう言うと顔をこちらへと向けて話を再び話を始める。

「私は…戦争さえなければ、あんなことは起きなかったと思ってる。あの日以来、私は戦争を望まない者になった。ナーガの兵器運用の破棄も必死に頼んだ…その疲れからなのかもな。私の身はこの有り様だ…」

ステパーシンは全て言い切ったようで目を閉じて、疲れた表情をする。話をすること事態も相当大変なようだ。

「…君は…私に何をしてほしい?」

「…この戦争を…冷戦を…無くしたい」

「そうか…」

ステパーシンはそう言うとその上半身をゆっくりと起こした。

「…車椅子を持ってきてくれ、ジョーヒン」

「…まさか。起き上がることもやっとだと言うのにですか?」

「今日は調子が良い。それに死んだ仲間達の声がさっき聞こえたんだ。まだやるべき事があるだろうって。それを成し遂げたら…私は冥土に行く予定だ」

「ですが病院の許可は出ませんよ」

「その辺の散歩ということにしてくれ。これでも軍の高官…。元気たくさんだと伝えてくれ…」
_________________
-モスクワ ルビャンカビル前-

「…ここが、KGB本部…」

私がそう呟くと、ステパーシンは車椅子をジョーヒンに押されながら中へと入って行く。

「お前も入れ」

ジョーヒンはそう言うと私を中へと招く。中では既に見知った顔の人物がいた。

KGBことソ連国家保安委員会第三代目議長。レオニード シェレーピン。

「合う手間が省けた…と言った顔だな。ステパーシン…」

シェレーピンはその威厳あるヒゲとフサフサの白髪と言う、いわば元気な老人に近い見た目だが、その皮膚は老化は進んでおらず、全てがまだ40代と言った感じだ。実際には68歳と聞いたが。私とジョーヒンは少し離れたところに座り、その様子を見聞きする。

「議長…丁度良かった」

「残念ながら…これから緊急会議に行く。話す暇はない」

「昔の軍学校の同僚…ということで聞いてはくれないですか?」

「…貴様とは違う…1分だ」

ステパーシンは微かに安堵したのかその声には穏やかさが混じる。

「あなたが…ソ連軍の大将の頃、私は例の…ナーガの所にいた。ナーガについての話です」

「…それは機密事項だ」

「残念ながら…そうはいかなくなりました」

「……」

「アメリカが…動き出した。あなたも知っているはずです…」

その時、護衛として来たのか、後ろの方で後からやって来たソ連兵が突如としてライフルを構える。

「何故…それを知っている?貴様は軍を除隊した一般人のはずだ」

「第三次世界大戦を起こすつもりですか?」

「質問に答えろ。何故貴様がそれを知っている?」

「同僚に銃を向けるのですか?」

「貴様はもはや同僚ではない。国の為には時に同僚を殺す」

「それが…このような公衆の前でも?」

「もちろんここでは殺さないさ。スペツナズが管理する処刑所で殺す」

「議長、聞いてください……がっ……」

ステパーシンは突如として俯きだす。病気の影響かもしれない。ステパーシンは車椅子に点滴という最悪の状態でここまで来たのだから。

「…もはや貴様も病人…。こいつは地下に閉じ込めろ」

「し、知らせるのです!あの組織を…そしたらアメリカは…」

「貴様は馬鹿か?奴らは強欲だ。どんどんどんどん情報を引き出され、上に立たれることになる」

「上か下かの…問題ではなく…世界の…人々のための問題です…」

「アメリカ側につけといいたいのか?訳も分からぬでっち上げでこっちを攻めようとするあの国か?自分を正当化し、こちらを悪とみなす国の味方など死んでもごめんだ、不愉快だ」

「ち、違う!そういうことでは…」

「もういい喋るな。私は先に行く。こいつを始末しろ」

シェレーピンはそう言うとおそらく待機されている車へと向かう。

「…まずい。このままでは」

「失敗だ。お前と俺が出たところで変わらない」

ジョーヒンはそう言うが、私は咄嗟に立ち上がり…

「シェレーピン議長」

議長を呼びかける。議長は不愉快そうな顔を崩さないままこちらへと向く。

「私は忙しいのだ…他の者にしてくれ」

「私は…私はCIA諜報員です…」

「…何?…どういうことだ?」

議長は一気に困惑した顔へとなるが、私は内ポケットに手を入れ、手紙を差し出そうとする。

「…読んでください。全てがここに…」

「…は?何だと?貴様何を言っている?こいつをすぐに捕えろ!」

「いいから!お願いします!」

私が勢いに任せてそう言う、周りは既に囲まれ、逃げ出せない状況だ。議長は手紙をかなりゆっくり受け取ると目を通して行く。

「CIA長官…この刻印…」

「これで分かったでしょう。アメリカは先制攻撃ではなく、報復のためにここまで…」

「奴らが勘違いしたからこうなったと言いたいのか?都合が良いな、ラングレーの犬めが」

「私は既にアメリカへの連絡手段を断たれた状態です。ここでのやりとりは一切彼らは知りません」

「貴様がここにいることが問題なのだ…まさか、ステパーシン、貴様が?」

シェレーピンの矛先はステパーシンへと向けられる。

「…私はこの国を救うために…彼と協力した…それだけです」

「貴様!何も分かっちゃいないな!この男の…あの国を信じるのか!?馬鹿げてる、貴様は馬鹿だ!病気で脳まで腐ったか!?」

「…全面核戦争でこの国を火の海にする必要はないのです。彼はその証拠、そして重要な機密情報を我々ソ連に見せてくれた。彼は私達の味方です」

「話にならん!ラングレー、貴様にそれをする何のメリットがある?」

「故郷を…戦争に巻き込まない…それだけです」

「奴らが先に仕掛けたことを都合の良い癇癪で捉えるのか?私はそうはいかないぞ」

「このままでは…どちらとも負けてしまう!それが分からないのですか!?」

「負けるだと?貴様そう言ったな?私の方針は貴様らの国を核で燃やす。負けるなどありはしない」

「核?核を使う気ですか?」

「核を先に使ったのもお前達だ。ヒロシマとナガサキ…忘れたとは言わせんぞ」

「そもそも核のせいでこんな事態に発展した!使うなど以ての外だ!」

「貴様には何の説得力もないな!私はもう行くぞ。こいつらを捕えろ、早くしろ!」

周りの兵士達がザッと寄ってくる。その時だ、ステパーシンがその病人の服から何やら取り出す。

「…!ステパーシン何をするつもりだ!?」

シェレーピンは外に向かおうとしていたその足を止める。

「もし、あなたが…このまま先に行くつもりならば…私はここで…死にます」











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