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第60話 ヒカルの過去(3)
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俺は東京から久しぶりに長崎の家へと帰った。おじさんは俺が無事であることを喜んでくれた。
おじさんは俺の幸せを願っているのとは反面、俺に重い枷を敷いている。矛盾に。俺はそれにようやく気づいたのだと思う。
おじさんはぐっすりと寝ていた。14歳の少年にはそれこそ重すぎる決断。鍵のかかっていない金庫の中にあった札束を詰めるだけ詰め込んだ。そして俺が家の外に出ようとした時。後ろに気配を感じた。
おじさんは起きていた。目を空けてこっちを見ていた。俺はこのあとを予想した。怒られるかもしれない。殴られるかもしれない。けれど不思議と恐怖は抱かなかった。
おじさんは俺と目を合わせたままだ。するとタンスの引き出しをゴソゴソと漁った後何かを俺に渡す。
おじさんは言った。札束なんか持っていくよりカードを使え。スマホの管理もちゃんとしろ。いつでも帰ってきていい。
おじさんは俺が家を出ることを知っていたのだろうか。カードがあることを知らなかった。カードを受け取った後おじさんは何も言わずに布団の中へと潜る。
俺はその日家を出た。
その後は日本各地を放浪する旅をした。行き先もない。お金がなくなったら死んでしまう旅を続けたいと思っていた。だって面白いから。犯罪者が犯罪をしなくなるのは結構辛いことだとも認識した。
そして2020年の2月3日。高知県足摺岬。ちょうど1年が経った日に俺は少女と出会った。
少女は飛び降りようとしていた。断崖絶壁に聳え立つ木製の柵の上に座っていた。その目線は崖の下にあてられている。
その柵から降りればまず命はないだろう。足摺岬は自殺の名所とも言われていたので少女が自殺をしようとしていることは明らかだった。
「ねぇ」
俺が話しかけると少女は座りながら振り返った。その目には生気が籠もっていない。白のシャツや紺の短パンはボロボロ。髪もボサボサとした少女。しかしその姿は薔薇を何故か思い浮かばせる。
「君ほんとに飛び降りる気でしょ?誰かに話しかけてもらいたいとかじゃなくて」
少女はまだ虚ろな表情のままこっちを見る。俺はそれに対し極力笑顔にする。誰かに話しかけてもらいたいから自殺しようとする。俺はこれが嫌いだし、迷惑だと思った。死ぬなら勝手に死ねばいいと。けどいざ人が死にそうになる場面だと話しかけてしまう。何故だろう。
「まぁいいからこっち来てよ」
「……」
少女は返事こそしなかったが、こちらへと歩みだした。俺は下心を隠して彼女に接した。
とりあえず暖かいお茶でも買おうかと思った。だがなんと近くに自販機はなかった。
飲みかけのホットコーヒーならあるが、それで大丈夫だろうかと思う反面、下心はさらに渦巻く。
少女にコーヒーを渡すと少女は思わずその暑さに手を離した。だがゆっくりと再び手にとると、そのコーヒーを薄ピンク色の唇につけ、ゆっくりと飲んでいく。いくらか少女の表情が明るくなった気がする。
「大丈夫?君名前は?」
「…名前?」
少女はか細く答える。
「そう。名前」
「…憂井崎葵。そう呼ばれてる」
呼ばれてるということが気になるが先に進めることにした。
「どうしてここにいるの?」
「飛び降りようと思った。辛いから」
アオイの声量はいくらか上がる。
「何歳?」
「…15か16」
「家に帰らないでいいの?それとも家出?」
「家?」
家?と言われても困るのだが。家がないとかそういうのか?
「親が心配しないの?」
「親は…いない」
アオイの声は再びか細くなる。ちなみに時刻は深夜2時。ホテルを探せなかった俺の末路がこれと思うとなんというかやるせない。
「服がボロボロ。何かあったの?」
「……」
「ああ。そう。言わなくていいよ。まぁそれでこれからどうするのさ?」
「これから?飛ぶ」
飛ぶというか落ちるのほうがいいだろう。やはりアオイは飛び降りる気まんまんのようだ。
「やめてよ縁起悪い。とりあえず俺についてきてよ。野宿だけど」
「へ?」
「いいから来て」
アオイは困惑しながらも俺についてくる。なんというかきれいだ。服や髪は不潔の域であるもののなんでだろう。
近くには展望台があった。雨風はしのげるが冬だとまじできつい。幸いにも結構厚めのタオルは持っているので羽織れるしベンチもあったからそこで横になれる。あとは盗難防止にバッグを自分の体で隠せばいい。
問題はそのタオルは1つだけということ。だって自殺しようとするアオイを見つけるとか思ってもいなかったし。
こうなるとタオルは渡さないといけないのだろうが…………嫌なんだよなぁ。結局苦悩したあげくアオイにタオルを渡して、俺は隣接して置いてあるベンチに寝ることにする。最近になってどこでも眠れるというスキルを手に入れた俺でも寒いのは無理だ。
とまぁタオルを渡した俺だが実は内心期待している。というのも少女があなたも寒そうだからと一緒に寝てくれるとかそういうの。一度でいいから女の子の吐息を目の前で……とまぁそんなことを妄想してたらまさかまさか…
アオイは寝ていました。早いなおい。
おじさんは俺の幸せを願っているのとは反面、俺に重い枷を敷いている。矛盾に。俺はそれにようやく気づいたのだと思う。
おじさんはぐっすりと寝ていた。14歳の少年にはそれこそ重すぎる決断。鍵のかかっていない金庫の中にあった札束を詰めるだけ詰め込んだ。そして俺が家の外に出ようとした時。後ろに気配を感じた。
おじさんは起きていた。目を空けてこっちを見ていた。俺はこのあとを予想した。怒られるかもしれない。殴られるかもしれない。けれど不思議と恐怖は抱かなかった。
おじさんは俺と目を合わせたままだ。するとタンスの引き出しをゴソゴソと漁った後何かを俺に渡す。
おじさんは言った。札束なんか持っていくよりカードを使え。スマホの管理もちゃんとしろ。いつでも帰ってきていい。
おじさんは俺が家を出ることを知っていたのだろうか。カードがあることを知らなかった。カードを受け取った後おじさんは何も言わずに布団の中へと潜る。
俺はその日家を出た。
その後は日本各地を放浪する旅をした。行き先もない。お金がなくなったら死んでしまう旅を続けたいと思っていた。だって面白いから。犯罪者が犯罪をしなくなるのは結構辛いことだとも認識した。
そして2020年の2月3日。高知県足摺岬。ちょうど1年が経った日に俺は少女と出会った。
少女は飛び降りようとしていた。断崖絶壁に聳え立つ木製の柵の上に座っていた。その目線は崖の下にあてられている。
その柵から降りればまず命はないだろう。足摺岬は自殺の名所とも言われていたので少女が自殺をしようとしていることは明らかだった。
「ねぇ」
俺が話しかけると少女は座りながら振り返った。その目には生気が籠もっていない。白のシャツや紺の短パンはボロボロ。髪もボサボサとした少女。しかしその姿は薔薇を何故か思い浮かばせる。
「君ほんとに飛び降りる気でしょ?誰かに話しかけてもらいたいとかじゃなくて」
少女はまだ虚ろな表情のままこっちを見る。俺はそれに対し極力笑顔にする。誰かに話しかけてもらいたいから自殺しようとする。俺はこれが嫌いだし、迷惑だと思った。死ぬなら勝手に死ねばいいと。けどいざ人が死にそうになる場面だと話しかけてしまう。何故だろう。
「まぁいいからこっち来てよ」
「……」
少女は返事こそしなかったが、こちらへと歩みだした。俺は下心を隠して彼女に接した。
とりあえず暖かいお茶でも買おうかと思った。だがなんと近くに自販機はなかった。
飲みかけのホットコーヒーならあるが、それで大丈夫だろうかと思う反面、下心はさらに渦巻く。
少女にコーヒーを渡すと少女は思わずその暑さに手を離した。だがゆっくりと再び手にとると、そのコーヒーを薄ピンク色の唇につけ、ゆっくりと飲んでいく。いくらか少女の表情が明るくなった気がする。
「大丈夫?君名前は?」
「…名前?」
少女はか細く答える。
「そう。名前」
「…憂井崎葵。そう呼ばれてる」
呼ばれてるということが気になるが先に進めることにした。
「どうしてここにいるの?」
「飛び降りようと思った。辛いから」
アオイの声量はいくらか上がる。
「何歳?」
「…15か16」
「家に帰らないでいいの?それとも家出?」
「家?」
家?と言われても困るのだが。家がないとかそういうのか?
「親が心配しないの?」
「親は…いない」
アオイの声は再びか細くなる。ちなみに時刻は深夜2時。ホテルを探せなかった俺の末路がこれと思うとなんというかやるせない。
「服がボロボロ。何かあったの?」
「……」
「ああ。そう。言わなくていいよ。まぁそれでこれからどうするのさ?」
「これから?飛ぶ」
飛ぶというか落ちるのほうがいいだろう。やはりアオイは飛び降りる気まんまんのようだ。
「やめてよ縁起悪い。とりあえず俺についてきてよ。野宿だけど」
「へ?」
「いいから来て」
アオイは困惑しながらも俺についてくる。なんというかきれいだ。服や髪は不潔の域であるもののなんでだろう。
近くには展望台があった。雨風はしのげるが冬だとまじできつい。幸いにも結構厚めのタオルは持っているので羽織れるしベンチもあったからそこで横になれる。あとは盗難防止にバッグを自分の体で隠せばいい。
問題はそのタオルは1つだけということ。だって自殺しようとするアオイを見つけるとか思ってもいなかったし。
こうなるとタオルは渡さないといけないのだろうが…………嫌なんだよなぁ。結局苦悩したあげくアオイにタオルを渡して、俺は隣接して置いてあるベンチに寝ることにする。最近になってどこでも眠れるというスキルを手に入れた俺でも寒いのは無理だ。
とまぁタオルを渡した俺だが実は内心期待している。というのも少女があなたも寒そうだからと一緒に寝てくれるとかそういうの。一度でいいから女の子の吐息を目の前で……とまぁそんなことを妄想してたらまさかまさか…
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